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第7話

 予報通り、翌日から本降りの雨が降り始めた。多湿で自慢のサラッと金髪頭にちぢれが見える。  授業のつまらなさに、頬杖をついて雨の音を聞く。一番前の席でその態度だ、教員は簡単に空を視界に入れて、途端に指名する。「庵野、さっきの回答の理不尽という熟語。類義語に何があるか言ってみろ。辞典使ってもいいぞ」。 (はぁ……退屈凌ぎにもならんな) 「……不条理」 「おお!! よくすんなり出たな! たまにこういう奴がいるから面白いんだよな」  教員が機嫌を良くしたみたいで、空の態度を咎められることはなく授業が終わる。終始、つまらないままの授業を続けられ、ただ五十分拘束されただけであった。  雨は降っているが、空は昼休みの長い時間で早く煙草を咥えたくて、足早に教室を出る。  屋上の壊れたドアの隙間から、雨の飛沫が入り込んでいる。まだ、大人にバレてはいないようだ。  横殴りではなく、叩きつけるだけの雨を幸運に思いながら、死角の壁にもたれかかる。それから、咥えた煙草に火をつけるため、ライターの摩擦音を何度も鳴らす。湿気のせいでなかなか着火してくれず、舌打ちを漏らしながらもなんとか着いた。  最初の一吸いは美味しくない煙なので、直ぐ様吐き出して肺などには入れない。二回目は十分に肺まで煙を吸い込んで、重たく沈むような鈍重感に酔う。 「一番前は辛ぇ」  アウェーをアウェーだと感じて来なかったが、クラスの中心的人物と知り合いになってしまってから、場違い感を皮膚の隙間からも感じ取ってしまう。  一ノ瀬という男でさえ、耳にいくつものホールがあれど、髪色は大人しめだった。  叩きつけられる雫の飛沫が靴下へ浸食してくる。足先から気持ちの悪さが伝って、立ち上がる。  「なるほどな」というハリのない声が聞こえる。  王史郎だ。冷静さが欠けてしまって、今更遅いがポケット灰皿にタバコを潰さずに入れた。 「ドアまで壊すなんて、ひとりフケるには荒々しいと思ったんだ」  言い返す言葉もない。 「俺も一本くれよ」  目線も合わせられなかったが、ここでいやがおうでも王史郎を見ざるを得ない。 「もしかして、王史郎も吸うのか?」 「一度は吸ってみたかったからな」  手を差し出す王史郎に、短息をつきながら諫めた。「興味本位ならやめとけ。というか、ここではやめとけ」。 「だって、俺ここじゃないと、外は兄貴が目を光らせてっから」 「ああ、テスト見てくれたヤマ勘のいい兄貴か」 「そうそう、ブラコンの」  「でさ、昨日ちょっとだけ兄貴と喧嘩して、今日弁当箱開けたらよ」と王史郎は空の死角から弁当箱を開いて見せた。  一言で言ってしまえば、弁当から怒気を感じるほど赤い弁当だった。 「なんでこんな赤いの」 「……俺が甘党だからだと」 「やること可愛いな、兄貴」  「多分、このミートスパにもタバスコかかってそう」粋な弁当まである赤い弁当をまじまじと見つめる。 「なぁ、食える?」  王史郎の表情に初めて感情がついてきたところを見た。やや眉根を寄せている。  どうやら、この嫌がらせに応戦したいらしい。 「ハハッ! お前ら兄弟して可愛いかよ」 (捨てる、という選択はハナからないわけだ) 「……」 「いいぜ、俺のと交換な——俺のは買ったモンだけど」

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