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第6話
「兄貴と仲良いんだな」
「……まぁ、ブラコンだから、多少困ってるけど」
「ブラコンかぁ」
王史郎がこちらに体を傾け、表情の薄い顔でいう。「俺の登校初日に立ち会いたくて、平気で仕事に遅刻するんだ」。
それを聞いた空が若干の胸焼けを感じた。兄が存在しない空でも、王史郎の兄貴は弟を溺愛していることくらいは感じ取れる。
「ま、まぁその兄貴のおかげで点数取れたんだから、良かったな?」
昼休み終了の合図が鳴る。「っし、ドアノブがバレる前にさっさと移動しようぜ」と王史郎は立ち上がり、続いてこちらを見る。
「一緒に行くのか」
「え、同じ教室なのに、行かないのか」
そう言われてしまえば、ぐうの音も出ない。続けて空も立ち上がり屋上を後にする。
「えっと、これ、サンキュ。家で飲むわ」
いちごオレのパックを片手に、空は手触りのいい金髪を後ろに流す。
「……気にするな」と空の髪を流す指を見る。
教室へ戻ると、以前程の静けさはないが、王史郎の後に続いて空が入ってくることで異質な空気が流れ出す。
後ろ指でも刺された気分だ。
「道重ー、どこ行ってたんだよ」
クラスの目立つもう一人の男が、コイツだったと、思った刹那——ソイツがおもむろに空を見下ろした。身長差的に仕方のないことだが、よく思っていない視線であることは明白だった。
「俺、賭けに負けたから、ジュース配りに回ってた」
親しいであろうソイツにも、緊張感のない顔で台詞を棒読みする。
「一ノ瀬が赤点を取らないから、俺の小遣い消えてった」
「太っ腹な発言の後が絶妙に漢らしくない!」
耳にいくつも穴を開けたチャラい男は、一ノ瀬というらしい。金髪頭の空がチャラいと思うことも憚られるが。
やけに王史郎との仲をこちらに見せつけてくる。似たような見た目だが、「俺とお前は違う」と言わんばかりだ。
「クラス全員分って決めたんならビシッと最後まで漢になりやがれ!」
一ノ瀬は王史郎の背中に喝を叩き込んで、「ということで、今月道重の小遣いを破産させるべく、放課後どっか行くぞ」と誘って自席へ促して行った。
「……」
空の耳にノイズが走る。不確定要素からの胸騒ぎもして、落ち着かない。
そういえば、今日の天気予報で、今週から梅雨入りだというのを忘れていた。暗澹たる空模様に舌打ちをしたくなった。
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