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第5話
ただでさえ身長が低く、見下ろされることが多いのに、この男は平均よりもでかい図体で見下ろしてくるのでとても威圧的に感じる。
「屋上はうるさくないからな、弁償は流……親父に頭下げて払ってもらうわ」
「ま、バレたら、だけど」と目の前にいる男にいう。
「そうか」
「それだけ?」
「青春の醍醐味じゃないのか、屋上って」
「なんだそれ」
「そんなことより、コレ」
黒髪の長身男は空の眼前にいちごオレを差し出した。「ちょっと賭け事に負けてしまって」。
そんなこと、でドアノブ破壊の件が片付けられたことに、壊した本人がドギマギしながら差し出されたパックをとりあえず受け取る。
「一ノ瀬って奴がギリギリ赤点回避したから、俺の負け」
「赤点の方に賭けてたのかよ」
「赤点取ってくれって頼んだけどな」
ほとんど表情を使わない男が淡々というので、威圧的に感じていた自分が馬鹿らしく思えてしまった。
漏れた息から笑いが逃げていく。「屋上空いてたから来たのか?」。
「いや、庵野を尾けてきた」
「尾行かよ」
「金髪だから見失わずに済んだ」
そして、男は隣に座り「ありがとう」と澄んだ目をしていう。
やけにパーソナルスペースの近い男は、続ける。「クラス全員分賭けたから、昼休みの今、渡し損ねた庵野を尾けて来た」。
「太っ腹だな」
「俺の小遣い半分消えた」
これまた表情の動かない男に、少しだけ興味が沸いた。
「——ん? クラス全員分を渡し回ったって……。俺、お前と同じクラス?」
「おう」
「俺、道重王史郎」と簡素的に自己紹介する。道理で空の名前を呼んだわけだ。
名乗られて、こちらも名乗らないわけにはいかないので、半ば条件反射のように「庵野空」と端的に返す。
そして、確かに教室の中央で目立つ男が二人程いるなとは感じていた空に、その面影がなんとなく合致した。
「テスト、どうだった」
急な方向転換に空がドギマギして、額に冷や汗を滲ませる。
「お、おう。えっと、赤点は全部回避した」
「やるな」
「え?」
「だって、学校来てないのに、点取れるなんてやるじゃん」
空は言えなかった。テストはまともに解いておらず、赤点回避するだけの点数分を書いた後、残り時間は爆睡をかましていたことなど、口が裂けても……。
(これ以上不真面目なとこは、見せない方がいいよな。なんだかんだいい奴っぽいし)
「お、お前は?」
「俺、王史郎」
名前で呼べ、と暗に言っているらしい。空は言い直して聞き返した。
「お、王史郎は、どうなんだよ」
「平均七十点だった」
「兄貴のヤマ勘のおかげ」と空を仰ぐように寝そべった。
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