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第一章 ラフェルとセリファ 第1話【出会い】

男は呆然と目の前に立つ人物を見下ろした。 彼の名はラフェル・リンドール。 グルタニア国王都マリエンタに暮らす上級貴族である。 彼は現在、困惑中であった。 「あ、あの大神官殿。私は今日私の【シルビー】に会いに来たのでは?」 ラフェルの問いに向かい立つ人物の表情が動いた。 表には出さないが、どうやら気分を少し害した様である。 「はい。彼が貴方だけの【シルビー】貴方だけに与えられる奇跡の存在です」 ラフェルは後悔した。 こんな事なら【シルビー】が欲しいなどと言わなければ良かったと。 この世界の約8割程度の生き物は混血種である。 実は多種族同士の交りである彼等の子供は何かしらの弊害を抱えて生まれる事が多かった。 どちらの種族の血が濃く現れるか。 それによって彼等の命は脅かされた。 しかし、そんな問題を解決する手立てを人類は長い歴史を重ねて見つけ出した。 魔力交差。 お互いの魔力を一部入れ替え不足を補い合える相手を見つけ、助け合いながら生きて行く手段である。 そんな事情を抱えたこの世界では、恋人や伴侶を魔力の相性で選ぶ習慣があった。 そうする事で、彼等は長く命を繋ぎ子孫を残すことが出来るのだ。 だからこそ、この世界での伴侶選びは最も優先されるべき課題なのだ。誰もがその相手を簡単に見つけられるわけではない。自分の身体と同等の魔力を持ち、尚且つ相性が合う相手でないと逆に身体の負担になってしまう。 ラフェル・リンドールは生まれながらに魔力がとても強かった。 見た目は完全に人間だが、彼の美しいエメラルドグリーンの瞳はエルフのそれである。そして魔人の血も濃い為、感情的になると力が溢れ制御が出来ない事も多かった。 彼は今まで、自分と相性の良い相手を見つけることが叶わなかった。 そんなラフェルを心配し、彼の母親はコッソリこの国の大神官にその事を相談してしまったのだ。 「そうですね?私ならば運命と呼ばれる【シルビー】を見つける事が出来るでしょう。しかし、彼等は普通の番とは違います。気に入らないからと手放す事は許されません。それ相応の覚悟がなければ国宝と呼ばれる彼等と引き合わす事は出来ませんが?」 ラフェルは考えた。 【シルビー】それは触れるだけで力を補ってくれる奇跡の番。数万分の1の確率で現れる運命の相手を指している。 例え自分の好みに合わない相手だとしても、触れるだけで自分を補ってくれるのならば、悪い話ではない。 ラフェルは現在22歳、そろそろ身を固めてもいい頃合いであったので、それを受け入れた。 受け入れ、たのであるが。 「えっと、じゃあ改めて。私はラフェル・リンドールここ王都で暮らすリンドール家の長男だ。君の名は?」 ラフェルは自分の屋敷に向かいながら、取り敢えず自分に与えられた【シルビー】の事を知らなければならないと考え、自己紹介した。すると会ってからずっと口を閉ざしていた【シルビー】が初めてラフェルと目を合わせた。 「・・・セリファ。平民で実家は南のバジェルディカで料理店を営んでる・・・家族は8人。俺はその家の長男で、俺がアンタの【シルビー】になったら実家の面倒を見てもらえるって聞いて来た」 おい! ラフェルは思わず目を閉じた。 騙された。そう思った。 そもそも彼は【シルビー】は女性で当然自分と結婚するものと思い込んでいた。 「・・・でも、詳しい事は知らされずに来たんだ。来てみたら、よくわからない説明をされた。俺、なんの仕事させられるの?」 しかし、実際に連れて来られたのはただの平民の青年。しかも、彼はラフェルから仕事を貰えると聞いてやって来たらしい。 ラフェルは予想外の事態に目頭を押さえた。 「・・・・・・君は、ちゃんと大神官の話を聞いて来たのか?契約書には、死ぬまで私の側にいる事が記されていただろ?」 「・・・・・・俺は、字が読めない。契約書は読んでもらったけど。ずっとこっちで働くつもりだったから、そういう意味かと・・・」 気に入らないから手放す事は許されない。 その言葉をもっと慎重に考えるべきだった。 ラフェルは倒れ込みたい気持ちを必死に押さえ、あてがわれた【シルビー】を自分の屋敷に連れ帰った。

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