2 / 102
第2話【ラフェルのシルビー】
「ラフェル様、セリファ様の支度が整いました」
「そうか、じゃあ連れて来てくれ」
屋敷に帰り真っ先にした事、それはセリファの身なりを整える事だった。
決してセリファが汚かった訳ではないが、これから貴族の屋敷で暮らす人間が平民の安価な服を纏っていたら余りにも目立ってしまう。
ラフェルが【シルビー】を手に入れた事を知るのはラフェルの家族だけである。しかも、その【シルビー】がラフェルと同じ男である事は今のところセリファを連れて来た大神官とラフェルしか知らない。
ラフェルは、出来ればセリファの事を誰にも知られたくないと考えていた。
「ご主人様、失礼します」
執事に促され入って来たセリファにラフェルは眉を顰めた。何故だろう?呼びかけられた言葉に、言いようのない不快感を感じた気がしたのだ。
「すまないな。急だったものだから、屋敷に残っていた私のお古を着させてしまって。後で君に合う服を用意させるから」
「・・・いえ。でも俺こんな高い服落ち着かない・・・」
髪を整えられ服を着替えたセリファはそれなりにハンサムである。背はラフェルほどではないがそこそこ高く、筋肉質ではなくとも身体は引き締まっている。
ラフェルは溜息をついた。
「座ってくれ。まず、君がどれだけ今の自分の状況を把握しているか知っておきたい」
「・・・状況の、把握」
「君はコレを仕事だと言ったが少し違う。何故なら【シルビー】として選ばれた者はその相手と生涯を共に生きるからだ」
ラフェルの言葉にセリファは首を傾げた。
どうやら上手く伝わらなかったらしい。
「君は大神官が用意した誓約書にサインした時点で私のものになったという事だよ」
誤解を生みそうではあるが意味合いは間違っていない。彼の言葉にセリファは少し驚いた表情を見せた。
「・・・まぁ、この家で働くのであれば、そうなるんじゃ?」
「・・・こちらにおいで」
呼ばれたセリファが、微妙な表情でラフェルの側まで来る。ラフェルは一度試してみる事にした。
「君の仕事は、私の魔力を補い私を癒すこと。隣に」
「あ、魔力交差?わかった」
流石にお互いの魔力を交換する事はちゃんと説明されていたらしい。セリファは、ラフェルの隣に座ると手を差し出した。そんなセリファの様子にラフェルはやはり溜息をついた。
(まぁいい。今日は様子見だからな)
差し出された手をラフェルがそっと握り返す。
すると、そこからジワリとセリファの魔力がラフェルの身体に移り始めた。
「・・・・・・ッ!」
「・・・・ぁ?」
同時にセリファの身体にもラフェルの魔力が流れ出す。二人は、その甘い感覚に目眩を覚えた。
魔力に飲み込まれないよう固く目を閉じる。
(凄い・・・これ程とは。確かにコレは・・・手を握っただけでこれならば、もっと触れたら)
身体の不足を補う魔力交差は一般的に夫婦が行うものだ。何故なら、その方が効率が良く持続する。
つまり体液の交わり合いが最も有効なのだ。
血の病が濃い者は薬の代わりに最も相性の良い相手を見つけ性交渉で病を落ち着かせる。
ラフェルは分かっている。
セリファがその部分を全く知らされていない事を。
「・・・・・・ぁの、ちょっと、離して、ほしい・・・なんか、変・・・」
「駄目だ。コレが君の仕事になる。我慢してくれ」
まだ出会って数時間。
正直男だと知った時ラフェルは落胆した。
それでは効率的に魔力を安定させる事が出来ないからだ。しかし【シルビー】に触れた途端、そんな気持ちは消え去った。性別など関係ない。絶対に手放さないという思いに支配された。
(やっと見つけた。私の・・・私だけの【シルビー】!)
目の前で困惑気味に揺れる瞳と少し辛そうに下がった眉。すっきりとした襟足を指で撫でれば、その身体がピクリと引き攣った。初めての魔力交差にセリファの身体は初心な反応を見せている。
そしてラフェルも初めて味わう最高の【シルビー】の魔力に思わず理性を失ってしまいそうだった。
「お、俺の・・・仕事って・・・」
「手を握っただけでこれじゃあ、先が思いやられるな?君の仕事は、大人しく私に可愛がられる事だよ」
その台詞は果たしてセリファにどう聞こえたのか。
もし彼が女だったのなら、玉の輿だと涙を流して喜んだかもしれないが、残念ながらセリファは真っ当な普通の青年である。
「いや、その・・・ちょっと俺、よく分からない・・・」
それは、まぁ至極当然の反応であった。
そして、聞き手によってはラフェルの言葉は悪人が吐く台詞に聞こえたのも、また事実である。
ともだちにシェアしよう!