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第3話【戸惑うシルビー】

セリファは正直困惑している。 「どうした?嫌いな物でもあったか?それなら遠慮なく言って欲しい」 彼は数日前まで、しがない市井の平民だった。 家族は多かったが両親が小料理屋を開いていたので今までなんとか生活出来ていた。しかし数ヶ月前、突然セリファの父親が倒れ看病と店の切り盛りを一人で行わなくてはならなくなった母を助ける為、通っていた学舎を辞め働くと決めたばかりだった。 そんなタイミングでセリファは暮らしていた町の神殿に突然呼び出され、自分が【シルビー】と呼ばれる特別な存在である事を知らされた。そして魔力を提供する主人の下へ行けばセリファの家族の面倒を全てみてくれると言われたのだ。 セリファはこの時点で恐らく自分は"奴隷"としてその主人に買われるのだと思った。 最初は断るつもりだった。 しかし、倒れた父と一人で働く母。 自分の下には5人も弟妹がいる。 その全てを引き受けてくれると知り、セリファは悩んだ末覚悟を決めた。 (俺は、あの家の長男だ。父さんが倒れた今、家族を守れるのは俺しかいない) それに神官は相手は魔力交差のパートナーだと言っていた。それならばセリファが耐えられない程の仕打ちを受ける事もないのではないかと考えた。 (どんなに辛くとも耐え抜こう。俺だってもうすぐ立派な成人の男だ。きっと、頑張れる) そんな固い決意で彼は家族と別れラフェルの下へやって来たのだが・・・。 「・・・すまない。もう一度言ってくれ・・・もう少しで、なんだって?」 「え?うん、あと半年経てば成人する。そうすれば今は出来ない仕事も出来るように・・・」 「つまり君は今、16歳で未成年という事か?」 何故か顔色が悪いラフェルに聞き返されてセリファは黙って頷いた。すると自分の向かいで優雅に食事をしていた男は前のめりに項垂れた。 「・・・背が高いから18歳くらいかと。参ったな」 本当に困り果てている様子のラフェルにセリファは何も言えなかった。きっと役に立たない子供を押し付けられたと思われたのだと彼は考えた。 「ごめん俺、隠してた訳じゃ。知っているとばかり・・・」 「いや。確かに18歳にしては喋り方が少し幼いとは思っていたが・・・その理由が分かったよ。謝らないでくれ、この事については私の確認不足だ。気にせず食事を続けてくれ」 そう言われて食べ慣れない豪華な朝食に彼は視線を戻した。セリファはここに来てからいくつか分からない事があった。 まず何故自分が主人であるラフェルと同じテーブルで食事しているのかである。 使用人は屋敷の主人と同じテーブルで食事をとったりしない。それくらいは平民のセリファも知っていた。 よって、セリファにしてみればこの状況は違和感でしかない。 「美味しい?セリファ」 「・・・う、ぁうん・・・」 あと、言葉遣いを注意されない。 本来であれば敬語を話さなければならないセリファにラフェルは注意をした事がない。 しかし、ここに来てから始まったセリファの教育係の教師には外での振る舞いに気をつける様注意されている。 「そうか。じゃあご主人様の前でも・・・」 「違います。ご主人様の事はラフェルとお呼び下さい。呼び捨てが無理であればラフェル様でも構いません。とにかく貴方は"ご主人様"と呼ばないように」 「・・・・・・はぁ?」 自分の主人をご主人様と呼んではならないこのルール。勿論ラフェルが手を回しそうさせていた。 セリファは知らないが、ラフェルは名前で呼ばれたがっている。しかし、セリファはまだ一度も彼を名前で呼んだ事がない。 「敬語もラフェル様と二人でいらっしゃる時は使わなくても構いません。そうしないとご機嫌が悪くなりますので」 「よく・・・分からない。俺、ここの使用人なのに」 彼の言葉に教師は持っていた本を床に落とした。 何事かとセリファが見上げると、そこには驚愕で目を見開いた教師の姿。 「セリファさん、それは違います。おかしいと思っていたんです。ラフェル様の【シルビー】がまるで召使いの様な振る舞いをなさるので」 「・・・違う?何が?」 「いいですか?【シルビー】はいわば寵愛の対象です。何故なら愛される事で相手の心と体を癒し絶大な力を与える事が出来るからです」 「俺の魔力がご主人様と相性がいいのは知ってるけど、それだけだ。・・・俺は何もしてない」 分かっていないセリファの肩に教師は手を置き困った顔で思いもよらぬ事を口にした。 「それでいいのです。もし貴方が女性であればラフェル様は今頃貴方と結婚していたでしょう。そういう意味です」 (結婚していたでしょう?) セリファには、やはり分からなかった。 「もしかして【シルビー】になるには貴族にならないといけなかったのか?」 違うが教師はこれ以上の説明を諦めた。 何故なら彼等の背後から何やら不穏な気配がしたからだ。 「そろそろ休憩にしたらどうだセリファ。美味しいお菓子を買って来たから」 教師は、黙ってセリファの肩から置いていた自分の手をどけた。ラフェルの目が鋭い。 これは、後で色々と面倒な予感がする。

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