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第4話【一つ目の問題】
「ラフェルぅ〜来ちゃった!」
「来ちゃった!ではありません。お越しになるなら自前に連絡を下さい」
ラフェルの予想通り嵐は数日後にやって来た。
大神官にラフェルの【シルビー】探しを依頼した張本人母のマリアンヌが父を引き連れ彼の屋敷を訪れたのだ。
「御免なさいねぇ?だってこうでもしないと貴方、私達にやっと見つけた【シルビー】を紹介してくれないでしょう?大丈夫よ?二人の意思はちゃんと尊重するつもりでいるもの。それで、式はいつ頃になりそうなのかしら?」
久々にこうして会ったラフェルの母は相変わらずラフェルに容赦なかった。
そしてやはり彼女は中々結婚相手を連れて来ない息子に焦れていた。
「私の意思を尊重してくれるのでは?【シルビー】と結婚はしません」
というか出来ない。
そこの所を暴走気味の母親に説明しなければならないのが億劫でならない。
「全く。私に黙って大神官様にお願いするなんて。私はまだ怒っているのですよ?」
ラフェルがマリアンヌを睨むと彼女は隣にいた筋肉隆々な夫の腕に縋りついた。そして扇で顔を隠し申し訳なさ気に謝罪した。
「そうよね。大神官様が見つけた【シルビー】を拒む事は神聖法では許されませんものね?けれど、間違いなくその【シルビー】は貴方の運命の相手なのよ?何が不満なの?」
確かに【シルビー】は自力で見つけ出そうとしても中々見つけられるものではない。大神官はその身にこの世に生み出される【シルビー】を管理する役目を担っている。
管理するといっても大袈裟なものではない。
彼等の目的は【シルビー】を守る事。
そして【シルビー】の数を把握し必要であればお互いの同意のもとで彼等を引き合わせてくれるのだ。
彼等が間に入る事で無用な問題を防ぐ意味合いもある。今回の様に相手が異性でない場合【シルビー】が道具の様に扱われるというケースも発生するからだ。
その場合どんな事情があろうと【シルビー】の相手は【シルビー】を取り上げられ厳しい罰を受ける。
「とにかく中へ。お茶を用意させます」
だが、殆どの場合そんな事態にはならない。
大体の問題は【シルビー】と相手ではなく、彼等の近しい家族や友人達の勝手な邪推や思い込みにより発生する。結果【シルビー】が追い詰められ限界を迎えた【シルビー】を神官達が取り上げに来るのである。
ラフェルは深い溜息を吐いた。
母マリアンヌは明らかに【シルビー】をラフェルの結婚相手にしようと決めている。
しかしセリファは、間違いなく立派な男の子である。
勿論結婚など出来ないし、子供も産めない。
そうなればラフェルは別の女性と結婚せねばならないが、果たしてその女性が【シルビー】のセリファを受け入れてくれるだろうか?妻の自分よりも寵愛される【シルビー】の存在を。
自分の夫が同性の歳の離れた男と人には言えない密事を行なっている事実を。
間違いなく泥沼化する。
そしてラフェルはきっとセリファを手放さなければならなくなるだろう。
ラフェルの妄想は止まらなかった。
取り上げられたセリファを取り戻すため屋敷を飛び出そうとして、まだいもしない妄想の妻に刺された所でラフェルの意識はやっと元の場所へ戻って来た。
「ラフェル、母さんの事許してやれ。マリアンヌはお前の身体の事を一番心配しているんだ。彼女は魔人の血がとても濃いからな」
エルフの血が濃い父と魔人の血が濃い母親から生まれたラフェルは強い魔力を持って生まれた為に何度か命の危険に晒された。身体の成長と共に魔力も大きくなり人間の身体では相反する二つの魔力を支えきれなかったのである。
今は身体も成長し、それらを抑え込む魔法具で安定しているが、それでも魔法のコントロールが難しい事もある。
「・・・分かっています。本気で怒っているわけでは」
ラフェル本人も【シルビー】を望んではいた。
そしてその【シルビー】を手に入れた以上もう手放す気はない。
ラフェル達は両親とお茶を飲みながら支度の整うセリファを待った。
とにかく、母マリアンヌがセリファに余計な事をしないよう気をつけねばならない。
部屋のドアがノックされラフェルはドアの扉を開いた。
「あらあらやっと会えたわね〜ラフェルの・・・」
「初めまして奥様。セリファと、も、申しま、す」
使い慣れない敬語を辿々しく口にしながら背の高い青年は頭を下げた。意気揚々と立ちが上がったマリアンヌは笑顔のまま静止している。
「・・・・・・ふむ?」
一方ラフェルの父マクベスはセリファを興味深気にマジマジと見ている。ラフェルは次の衝撃に備えセリファの肩に手を回すと、そのまま自分の側に引き寄せた。
「・・・ラフェル?この子は?」
「私の【シルビー】です」
異様な空気にセリファは思わずラフェルとマリアンヌを交互に見た。二人はお互い・・・満面の笑顔を崩さない。
「ほ、ほほほほほほほほほ!」
「ははははは」
二人の笑い声だけが部屋から聞こえて来る。
外で仕事をしている使用人達は思わず身震いした。
「ラフェル様が、声を出して笑ってらっしゃる。恐ろしや」
とにかく、きっかけはなんであれラフェルは自分の【シルビー】を守る為、最初の障害を取り除くべく行動に出たのである。
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