102 / 102

第29話【三人の誓約】

「…………それで?どうしてお前達は何かあると私の屋敷に押しかけるんだ?来るなら来るで自前に連絡を寄越せと毎回伝えているよな?」  王宮内で騒動を起こしかけたリューイ達はそのままハイゼンバードの領土へ帰ろうとしたがエゼキエルがそれを許さず半端強制的に二人を連れてラフェルの屋敷に押しかけたのはもう日が落ち外が暗くなる時間帯であった。  いくらルミィールを預けていたとはいえ相変わらず非常識極まりない二人の行動にラフェルの額には何本も青筋が立っている。 「まぁそうカッカッするなって。それだけ大事な用だったんだよ。それに……気に入らねぇが俺達に【シルビー】がいる以上どうしたって巻き込まれんだろ。俺はもう、その辺りは諦めた」  あれだけリューイを毛嫌いしていたエゼキエルの譲歩にラフェルも怒りを納めた。リューイはその二人の反応が意外だったようで不思議そうな表情で二人に目を向けている。  ラフェルはまだリューイの事情を知らされていない。ルミィールもリューイの許可を得てセリファには事情を話したがセリファはそれをラフェルに伝えていなかった。お互いの秘密を軽率に漏らしていいとも思えなかったし、セリファが話すべきではないと判断したのだ。 「…………手を組むのは構わない、だがそれならば絶対に必要な誓約がある。どんなに納得いかなくてもしなければならない誓いだ」  しかしラフェルは以前からセリファを確実に守るなら他の二人の問題もどうにかしなければならないと考えていた。その為にいつかはこんな日が来るだろうと準備していたのだ。  彼は机の引き出しから一枚の洋紙を取り出し二人に見せる。  彼等はその内容を見て思わず苦笑いした。 「…………まぁ、そうなるわな」 「一番恐れている問題はコレだからねぇ?だけどいいのかい?ただでさえ誓約に囚われている身で更に重荷を背負う事になるんだよ?」  そう言いつつリューイはこの誓約を受けるだろうとラフェルは確信している。例え後で後悔しても最悪の展開はこの一枚の紙によって避けられるからだ。 「それで一番大切なものを守れるなら構わない。お前達もそうなんだろう?それに、この誓約を交わせば互いの情報の交換も可能になる。警戒する必要がなくなれば出し惜しみする意味もないからな」  ラフェル達がお互いを警戒するようになったのはエゼキエルの一件があったからだ。自分達の【シルビー】が原因で番が自分の【シルビー】に害をなす可能性に気付いてしまったから。例え悪意が絡まなくても些細な事故が起きた時、理性を失った自分達を止められる者は限られる。それが分かっているからこそ彼等はお互いを遠ざけようとした。 「…………そうだね。私も君の意見には賛成だ。アルティニアは君達の【シルビー】に心を許してしまっているからね。それに、今以上に私がルミィールに世話を焼かれたらエゼキエルに恨まれてしまうだろうしね?」 「うっせぇ!!言っとくが俺はお前よりは理性的だからな?さっき自分が王宮内でしようとした事、思い出してみやがれ!」  互いの同意を得た三人は親指に軽くナイフの刃を当て、その血をラフェルが用意した洋紙に当てた。紙の上に描かれた陣が発光し誓約文が浮き上がる。  そして彼等は誓いを立てた。 「「「我は誓約者の【シルビー】に危害を与えてはならない」」」  蒼炎が誓約の書を焼き、彼等の秘密の約束は成立した。    その後ラフェルは【シルビー】の秘密を、リューイはアルティニアとの秘密を打ち明けた。 「……やはり、神殿は王家と繋がりがあったか。今回私達の【シルビー】を取り上げなかったのは、其方の方が都合が良かったからだろうな。下手に取り上げて私達が事実を知れば面倒になる。だったら引き合わせて【シルビー】を覚醒させる方がどちらにも利になる」 「しかし、だからといって油断は出来ない。今回みたいに無理矢理既成事実を作り【シルビー】を取り上げ、ついでに自分達のをしようと企む者もいる。元々宮廷に仕える騎士だったアルティニアなら逆らえないと踏んだのだろうが、それを陛下が知ったらどうなるんだろうねぇ?まぁ誰が相手でも私の対応が変わる事はないのだけれど」  王家や神殿が信用出来ないのは確かだが、王太子の件については深く考えず自分の部下をよこしている件から今回は国王は絡んでないと三人は考えていた。  しかし、国王以外の可能性は十分に考えられた。 「…………陛下はともかく、王太子が誰かに操られた可能性はあるだろうな。ラナと名乗ったあの女は恐らく……俺達と同等の力を持ってんだろ。今回も関係あるかも知れねぇぞ」  ラフェルは母親を操りセリファを攫った不気味な女を思い出し歯噛みした。今も行方を追っているが未だその痕跡すら見つけられていないのだ。だが対峙したエゼキエルの攻撃を無効化し一瞬で目の前から姿を消した。見つけられたとしても簡単に捕らえられる相手ではないだろう。 「…………私は神殿を探ってみる。リューイは予定通り王家の書庫を調べて欲しい。エゼキエルはその間、三人の側にいて欲しい」 「…………おいおい、いいのかよ俺で」  自分が度々やらかしている自覚はあるエゼキエルが渋面で尋ねれば速攻で切り捨てられた。 「「お前(君)なら手加減なしで殴れるから問題ない(よ?)」」 「あ"あ"ん!?上等だコラ!返り討ちにしてやるわ!」  こうして【シルビー】の番達の誓約が成立した。

ともだちにシェアしよう!