「マゼンダ様……お言葉にはご注意下さい。王族に対してその様な物言い、不敬ですよ」 「あ？どこに王族がいるんだよ？それともただの側近が王族気取りか？ランブレイズ」 　エゼキエルの突然の登場にアルティニアを壁に追い詰めていた二人は動揺をみせる。その隙を見逃さずアルティニアは素早く二人の間から抜け出すとエゼキエルの方へ駆け寄った。 　何か言いた気に目を向けられたが気付かなかったフリをする。勿論会話の中で不穏な単語が聞こえて来たからだ。 「団長お一人ですか？」 　名前は出さないがルミィールが近くにいたら巻き込む心配があるため一応聞いたのだがエゼキエルの眉間の皺が盛大に寄った。不機嫌になった理由が分からずアルティニアは首を傾げる。 「俺がリューイと来ると思うか？」 「あ、いえ。すみません。お一人ならいいんです」 　どうやらエゼキエルがリューイと一緒にアルティニアを迎えに来たと思われたのが不愉快だったらしい。アルティニアが困った顔で首を振ると誤解が解けたのか「ああ、アイツはいつもんとこな」と返事が返って来た。ルミィールがセリファ達といると分かり一安心する。 「……アルティニア様。私達はお邪魔になりそうなので今日は帰ります。申し遅れましたが私は王太子殿下の側近でランブレイズと申します」 　自分を連れに来たのが王太子殿下の側近と聞いてアルティニアは頭が痛くなった。出来れば最後まで名乗らずにいてくれればよかったのにと思う。相手の立場を知ってしまったら次声をかけらた時に拒否出来なくなってしまう。 　どう応えようか困っていると、すぐ隣で盛大な溜息が吐かれた。 「………………お前はアホなのか？悠長に自己紹介してる暇があったらさっさと行け。事態がややこしくなる前に」 　眉間を指で押さえ心底面倒そうに追い払おうとするエゼキエルに訪問者二人は訝しげな顔を向けた。アルティニアもエゼキエルの意図が掴めず彼を見る。 「わかんねぇか？例え主人の命令で来たとはいえ、お前達は【シルビー】に手を出そうとしたんだよ。そんなもん見つかったら問答無用で…………」 「面白い話をしているねぇ」 　少し前まで部屋で待ちかねていた男の声がして反射的に振り向くと廊下の真ん中に何故か冷たい空気を纏うリューイが立っていた。彼はアルティニアの姿を認めると真っ直ぐ彼を目指して歩いて来る。 　アルティニアも駆け寄ろうとして、ふと違和感を感じた。 「…………え？」 　やけに外野が静かだと思い研究室へ目を向けると訪ねて来た男二人が苦しそうに喉を押さえて膝をついている。 　状況が飲み込めず隣のエゼキエルを見るがリューイを睨んでいるだけで何も言わない。しかし、すぐに何が起きたのか理解した。普段押さえ込んでいるリューイの魔力がアルティニアにも分かるほど漏れ出ている。 「成る程。エドワードとレンブラントか……私は次の王が誰になろうと興味はなかったのだけれど、その二人の可能性は今この瞬間潰えたようだ。ねぇ？エゼキエル？」 「お前と一緒にすんな……っつーか俺を巻き込むんじゃねぇよ。あと一応言っとくが、アルティニアはこの通り無傷だぞ？制裁の理由は？」 　目を凝らすとリューイの魔力が男達の身体に絡みついているのが分かる。アルティニアも強引に連れて行かれそうになった自覚はあるので男達を庇いはしないが、今この場に来たばかりのリューイが何故殺意をもって二人を攻撃するのかは理解できなかった。 「彼らは私が直ぐに戻って来ないと知った上で私の【シルビー】を連れて行こうとした。私は何一つ王家との約束を破ってはいないよ。先に手を出して来たのは彼等だ」 　そうこうしている内にも王太子の側近と青マントの男の顔色が悪くなっていく。このままでは本当にリューイは二人を殺してしまう。そうなったら流石に王族も黙ってはいないだろう。アルティニアは慌ててリューイに駆け寄った。 「リューイ様、あの、私は何もされていません。なので、どうか怒りをおさめて下さい」 「なんの目的もなく、この男達が誰も好んで近寄ろうとしない私の研究室に来たと？そもそも何故君はドアを開けたのかな？私が帰るまで誰も入れずに待ってるように言わなかったかな？」 　リューイを止めようとした事で怒りの矛先が若干アルティニアに向けられる。この反応から、どうやらリューイは冷静な状態ではないとアルティニアは判断した。しかし、アルティニアは前と違い黙って身を引く事はなかった。ここ暫くリューイと二人で過ごした彼はある意味無敵だった。 「それは……リューイ様が帰って来たものと勘違いして……思わずドアを開けてしまったんです……」 　アルティニアの素直な言葉にリューイは目を見開き、エゼキエルは硬直した。因みにアルティニアは至って真面目に謝罪しているつもりでいた。 「軽率だったと反省してます。でも、帰りが遅かったので心配だったんです。貴方が戻って来たと思ったら我慢出来なくて……早く貴方に……っうぷ！？」 　つらつらとドアを開けた理由を説明していたら思い切りリューイに抱き込まれた。アルティニアは驚いて顔を上げようとしたが頭を抱き込まれ固定されたので声が出せない。ただリューイの心臓の鼓動が早く感じられたので相当動揺しているようだと思った。 　 「っう！？ゲホゲホ！！」 「っハァハァハァ！っう！」 　苦し気な声がして其方に視線を動かせば男二人の拘束は解けたようだ。 　 　理由は分からないが、なんとかリューイを落ち着かせるのに成功したようだとアルティニアは息を吐く。いまだリューイに抱き込まれた状態のまま。 「……っ駄目だよアルティニア、外でそんな顔見せたら……エゼキエル！今すぐこの薬を飲んで今見た記憶を消せ！」 「誰がそんな怪しげなもん飲むか！言われなくても速攻忘れるわ！お前ら絶対外でイチャつくなよ！それ見たら陛下も卒倒するぞ」 　そしてその後に続いたリューイ達の会話が意味不明だった。 「言われなくともこんな可愛いアルティニアを眺めるのは私一人の特権だよ。だから今すぐお前の記憶を消してあげようね？」 　なんだか放っておいたらいつまでも話が終わらなそうだったので途中なんとかリューイの腕から抜け出したアルティニアが強引にリューイを外に連れ出したことでそれ以上大きな問題が起こることはなかった。 　厳密には、アルティニアだけがそう思っていた。