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第17話 側室は王配となって溺愛される
3週間後、俺はフィディーリアの正装をして呼ばれるのを待っていた。最高級のシルクであつらえた純白のロング丈の上着に袖を通した時、トエランで陛下がくださった純白の意味を正しく理解した。
あの日も、陛下は俺が陛下のものであると示してくださったのだ、と。
大広間には多くの臣下が並び俺を待ち受けているだろう。だが、恐れはない。
ギィィィ……
大扉が軋みながら開き、両サイドに煌びやかなドレスを纏った婦人や貴族の面々が並ぶ。きっと、陛下と出会わなければ、この光景に気圧されて一歩も進めなかっただろう。
だが、この先にいる俺と同じ白を纏った陛下が凛とした立ち姿で待っていてくださる。俺はその手を取るために、この通路を進むのだ。
好奇心と、俺が抱かれる方であることへの侮蔑のこもった視線もある。きっと、陛下の正妻として嫁がせるつもりだった娘でもいたのだろう。
だが。それがなんだというのだ。
俺と陛下の関係は、誰にも理解されなくても構わない。陛下の継承者であるお子を作ってほしいなんて大ウソだった。本当は、他の誰かと夜を過ごす陛下とその相手への嫉妬を隠したかっただけ。
捨てられるのを恐れて愛を信じなかった俺はもういない。胸を張り堂々と陛下の……ギディオンの剣となって生きるんだ。
決意を示し歩きながら、ふと、そこだけ雰囲気の違う装束の人物たちを見つけた。
兄上——!!
ギディオンが招いてくれたのだろう。兄と、フォディーリアへ護衛として共に入国した、かつての部下もいた。会話は許されないが、俺達は常に視線だけで会話をしてきた。
兄上、俺は陛下の元で幸せです。どうか、心配しないでください。
兄上は瞳を潤ませて頷いた。ああ、人身御供だと怒り狂ってくれた兄上に伝えられて良かった。ようやく陛下の前にたどり着くと、ふ、と笑ってくれた。
「レオ、手を」
「はい」
差し出された掌にそっと自分の手を重ね、司祭の前に二人で進み出る。誓約を唱え指輪を交換し、フィディーリアへの忠誠を誓う。かけられる祝いの言葉は人それぞれ。だが、俺達には他人の評価など必要がないんだ。
だが、貴族の空虚な祝いより、バルコニーにでて国民の祝福を受けた時、なんて幸せなんだろう、と思った。
「ギディオン……兄を呼んでくださり、ありがとうございます」
「私もおまえも手紙を送っていたが、その目で真実を確かめてもらうと思ってな」
四方に視線を送りながら手を振るのでお互いの目は合わない。それでも、俺達は心の奥底でつながっている。
「安心させられて良かったです」
「話していなかったのに、わかるのか?」
「狩りでは会話はしませんから」
「クククッ……やはり、レオはおもしろい」
「おや、ギディオンもおもしろい方ですよ?」
肩をすくませる陛下に思わず笑ってしまう。
「今夜は、抱く」
「——っ! はい……」
俺達はずっと体を重ねなかった。多忙だったのもあるが、ただ抱きしめあって眠るだけでも充足感があった。一番の理由は「王配となった日にもう一度初夜を迎えたい」と陛下がおっしゃったからだ。検分の習慣は陛下が廃止をなさったので、真実、二人きりの夜を迎える。
「レオ」
右腕を引かれ隣に視線を移して——
「んんっ」
気がつけば、頭を掴まれて陛下の口づけを受けていた。わぁっ!! と国民の歓声がひときわ大きくなった気がした。
「ん……あ、はぁ……へい、かぁ。こんなところで……」
「ふふふ。いいだろう? 歴代最強の側室が王配となった記念だ」
「もう……」
悪戯な視線に甘く酔いしれる幸せな瞬間と、今夜への期待に腹の奥がキュンとなるのだった。
◇
祝宴を一足早く引き上げた俺は、念入りに身を清められ肌の手入れをされ、シンプルな白のローブを羽織っている。シンプルとはいうが、よく見れば質感の違うシルクで細かく柄が編み込まれていて上等なものだった。
陛下からは体内を清めるだけに止めろと言われていて、俺は少しだけ不安だった。だが、陛下は硬くなったそこを拓くのは自分だと楽しげに笑っておられた。
「レオシュ様、陛下の御成でございます。私どもはこれにて下がらせていただきます。女官一同お慶び申し上げます。——どうぞ、良い夜をお過ごしくださいませ」
「リリアン、ありがとう」
にこりとほほ笑んでリリアンたちが下がっていく。よけいな言葉を滅多に発しない彼女が「良い夜を」と付け加えたことに、彼女たちが心から祝福をしてくれていると感じた。
「待たせたな」
「ええ、待ち焦がれていましたよ」
「クククッ! もっとしおらしく待っているかと思った」
「おや、がっかりさせましたか?」
「いいや? 初めて抱いた時は罪悪感に苛まれたが、私は、俺のために変わってくれたおまえが愛おしい」
しゅるりとローブの紐が解かれ、はらりと落ちる。陛下が手を差し入れて、ゆったりと胸から腹筋をなぞり、胸の尖りに戻ってきた。俺の体はずっとはしたない妄想で昂っていて、それだけでも十分に心地いいが、もっとしてほしいと陛下の手に押し付けた。
「なんだ? 足りないか?」
「俺をこんな体にしたのはギディオンでしょう?」
「そうだったな。妃を満足させるのは夫の務めだ」
「ん……どうか、早く……」
「まさか、一人遊びはしていないな?」
「もちろんですっ! 毎夜一緒に寝ていたではありませんか」
「くっくっく……私がいない間に、耐えられなくなったかと思ってな」
——図星だ。実は報告されているんじゃないか?! 執務でお戻りが遅い時に、ひっそりと自身を慰めていたのはリリアンたちには知られているだろう。だが、少なくとも後孔はいたずらをしていないのだから嘘はついていない!!
「では、生涯ただひとりの伴侶を愛でるとするか」
どさりとベッドに押し倒され、陛下のローブも床に落ちていく。その中心は雄々しく立ち上がっている。
「俺にとっても、あなたはたったひとりの人です。もしも、あなたが酷い人なら、いつだって後宮を逃げ出せたんですから——ん、んぅ……」
深く口付けられて、言葉は封じられた。
「逃げられなくてよかった」
「ん、あ♡」
口づけながら乳首をきゅっと摘まれて、思わず声が漏れる。その上で俺の陰茎もゆるゆると擦られて、声が抑えられない。
「はっ……ん」
「ふふ、尖ってきた。こちらもすっかり濡れて……可愛らしいな」
「あ、言わない、で、あっ」
「蕾までいやらしい蜜が滴っているぞ? ほら、わかるか?」
濡れそぼった指が、俺の中につぷりと潜り込む。——ああ、これがほしかった。
「ふあ、あ、へいかぁ、意地悪は、やめてください……」
「意地悪などするものか。もっと、深く入れて欲しいのか? 望みを叶えてやるから言ってみろ」
そう言いながら、一度抜いた指に香油をたっぷりと纏わせた指がまた挿入され、くいっと折り曲げて中の弱い場所を何度もトントンと突かれた。
「んあっ! あっ! 奥に……一番深いところに、来て、くださっ、い! 繋がりたい……!」
「——煽りすぎだ」
「っ?! ぅゔっ! ~~っ!!」
ガバッと体を起こした陛下が一気に突き入れてきて、流石に苦しく息もできない。
「息を止めるな……すまん、急すぎた」
優しく髪を撫でてくれる陛下も、苦しげな表情だった。この状態で耐えるのも、辛いはず。それなのに、俺のために待ってくれる——
「いいえ……ずっと、こうされたかった……動いて、ください」
「っ! くっ……動くぞ」
初めは小刻みに。やがて抽送が大きくなり、俺の内壁を熱い昂りが擦り快感が全身を駆け巡る。
「あっ♡ んっ、んっ!」
「お前は、豪快な、男の癖に……閨では淫乱なメスとは、最高、だ」
ふっ、ふっ、と荒い息を吐きながら、雄の表情で俺を責め立てる陛下……ああ、この人は俺の、俺だけのものなんだ……
っ?! な、なんだっ?
体の奥深くで、今まで違う感覚が——中での絶頂は知っている。だが、これまで以上の快感に恐怖さえ感じた。
「あっ! へい、かっ♡ まっ、て! あっ、あっ!」
「どうした? 中が、いつも以上に、ひくついて絡んでくるぞ?」
「まって! う、動かない、で」
「ふっ……やめるわけないだろう?」
陛下は楽しそうに容赦なく突き上げてきて、快楽の強さに困惑する。
「やっ、こわっ、い! あっ♡ ひぃっ♡」
「いやか? やめて欲しいのか?」
ずるりと全部引き抜かれ、中が物足りなさにひくつくのを感じる。
「やぁ……ぬかない、で、ください……挿れてください……」
「それでいい」
「あ゛あ゛ぁぁ~!」
根元まで挿入され、バチュッ! バチュッと突かれた瞬間世界が真っ白になった——
「っく! 受け取れ……」
奥深くに熱いものが流し込まれる感覚に、また体が震える。一度達した陛下だったが、すぐに二回戦へ持ち込まれ、俺ははしたない嬌声を上げ続けるだけだった。
◇
「ふぅ……俺のみだらな妃は、俺を煽るのがうますぎる。大丈夫か?」
「動けそうにありません……」
声も掠れてしまい、喉はカラカラだ。そんな俺に、陛下が口移しで水を飲ませてくれた。
「あなたの責任ですから、面倒を見てください……」
お互いの体はいろんな液体でドロドロだ。だが、俺は指一本動かせない。それに、あの感覚はなんだったんだろう。思いが通じ合ってからは快感が強まっていたが、あんな快感が続いたら狂ってしまいそうだ。
「クククッ……もちろん、私がこうしたのだからな」
いつの間にか、湯の入った桶が用意してあった。リリアン達だろうか? あんな声を聞かれてしまったのなら、流石に恥ずかしい。
その湯で濡らした布で、陛下が鼻歌を歌いながら俺の体を拭いてくれる。
「ギディオン、先に自分の体を拭いてください」
「何をいう。最愛の者を優先するのは当たり前だろう? こんな時は、別の言葉が欲しいな」
最愛……
嬉しい。俺も、あなたが一番大事です。
「ありがとうございます」
「それでいい。その言葉だけで私は満足だ」
あの、最悪な気分だった入宮した日が嘘のように、俺は愛されている。せっせと体を拭いてくれる愛しい人との出会いが、俺をもっと強くしてくれる。
「ギディオン。あなたに会えて、良かった」
「レオ……」
俺を閉じ込めてしまったと悔いていた陛下。でも、それは違う。俺達は、初めて会った日からお互いに閉じ込められていたんだ。
「生涯あなたから離れないので、浮気をしたら許しませんよ」
「するものか。お前こそ、他の男に色気を振りまいたらお仕置きが待っていると思え」
「ふっ……ふふふっ、ははっ!!」
「クックックッ……ハハハッ!」
笑い合って、キスをして。戯れながら、もう一度繋がって……これからもずっと、二人で支え合って生きていく。
◇
この後、ギディオン王は王弟マナセ王子からの強い支持により王として玉座に留まり、フィディーリア王国の改革を行う。戦後反発していた各国との和解、そして国内の商業を安定させ繁栄をさせた。
その隣には、常に王配レオシュがいたという……
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