打ち上げが終わる頃にはカウンターに男の姿はない。どうやら帰ったようだ。 ユウは安堵した。 ｢なあ、ユウ｣ ｢うん？｣ 2人は寝転がり、雑誌を読んでいる。 なるべく休みはいつも合わせるように、2人は決めていた。 ｢たまには旅行とか行きたいな｣ ｢だね｣ ｢行っちゃう？なーんてな。金も時間もないよな｣ ｢貧乏暇なしだからね｣ ユウの本心は行きたかった。 ｢...てかさ｣ ｢うん？｣ ユウはうつ伏せになり食い入って雑誌を読んでいた。 ｢いつまで黙ってるつもり？｣ 壁に寄りかかるダイチが尋ねる。 ｢なんのこと？｣ ｢自分に聞いてみろよ。ミヤビ｣ ユウは時間が止まったか、と思う感覚に落ちた。 ｢な、なにそれ、こないだの酔っ払いのおっさんの言うこと、真に受けてんの？｣ ｢あのおっさんから、ミヤビ、て名前しか聞いてはないけど？｣ ユウは完全に硬直した。 ｢なんでお前はミヤビなの？言ってみろよ｣ ｢そ、それはあいつが酔っ払ってて、間違え...｣ 雑誌がユウの体に飛んできた。 ｢いつまでしらばっくれてるつもりだよ｣ ダイチがユウに近づく。 ｢俺が気づいてないとでも思ったか？お前から話してくれるのをずっと待ってた｣ ユウは黙りこくった。 ｢教えろよ。なんでお前は売りやってんの？｣ 応えられず、うつ伏せで顔を伏せたままのユウの胸ぐらをダイチが掴む。 ｢黙ってんなよ！いつまで俺を騙すつもりだった！？｣ ｢...騙してるつもりは無かった｣ ｢じゃあ、なんでお前は売りやってんの｣ ｢...金がないとなんも出来ないじゃん｣ ｢きたねー男｣ ユウは起き上がるとダイチを殴った。 ｢メジャーデビューとか、いつまでチャラい夢見てんだよ！だったら、一緒に海外にでも暮らした方がずっといい！｣ ｢...それ、お前の本心？｣ ｢そうだよ｣ ユウの頬に涙が伝った。 ｢...終わらせようか｣ ｢終わる、てなにを｣ ｢別れようってことだよ｣ ダイチの瞳も涙が浮かんでいた。 ｢バンドやりたくねんだろ？無理して付き合ってくれなくていいよ、もう｣ 涙声のダイチの顔を歯を食いしばり、涙を堪えてユウは凝視する。 ｢お前の声、好きだったよ｣ そうして... 2年になろうとしていた関係は終止符を打った。 ユウが売り専で働き始め、約1年が経とうとしていた頃だった。