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episode3 朝陽③-1
◇ 朝陽 ③-1 ◇
倭 に呼び出され朝陽 は倭のマンションへ向かった。歩いても行けるくらい近いけれど車で行くことにした。少し雪が降っていて、最近あまり運転をしていない朝陽は慎重に走った。
「おじゃまします……」
玄関を開けた倭の表情が怒っているようだったので朝陽はびくびくしながら部屋に上る。
ふたりとも午後から仕事があるのにわざわざ午前中に呼ばれたのだ。嫌な予感はあった。
リビングに入るなり「これ」と週刊誌を渡された。表紙に塁 の名前がありドキッとする。アイドルという文字も目に入った。
倭が怒っていると思われるので座らずにその場で中を読もうとしたら、「座って読めば」と言われソファーの隅に座った。
――ああ、やってしまった。
初代のマネージャーの顔が浮かぶ。世間にバレてはいけないと注意してくれた。わざわざ後部座席に隠れるように乗ったのに、それを撮られたら逆に怪しい。前から見たら見えないはずなのに、カメラマンの腕ってすごい。
マネージャーの言った通り、ファンをやめる人がたくさん出るのだろうか。倭に忠告されたのに、ファンの人に嫌な思いをさせてしまったのだろうか。
「一緒に合コンとか行ってるのか?」
えっ。そうか。見出しに惑わされたけれど、これは熱愛記事のようであってそうじゃないのだ。冷静に読んだ倭は、朝陽がただ塁と仲良くしていると受け取ったのか。
「合コンなんてまさか。るい……、小日向 選手はそんな人じゃないです」
「じゃあ付き合ってるのか? 小日向選手と」
あ、やっぱりそうとも取れる記事なのか。女性と写真を撮られると事務所から呼び出されると聞いているけれど朝陽は今回呼び出しはくらっていない。世間の人はこの記事をどう捉 えるのだろう。倭のように五分五分だとしたら単純計算で半数の人が塁と朝陽は付き合っていると捉えることになる。アウトだ。
「付き合ってるのか?」
倭がもう一度訊いた。倭になら話してもいいと思う気持ちもあるが、これは塁の性的指向に関係する話だからここでイエスとは言えない。
「それは言えない……です」
バカだな。これじゃあ認めてることになる。
「好きなのか? これなら答えられる?」
倭は察してくれたようだ。そして倭はこのことを誰かに話したりしない。それは絶対に。
「はい」
今度は即答した。少し前のめりの体勢だった倭はそれを聞いてソファーに背をつけた。
「野球選手って二月からキャンプだよな」
「はい」
「沖縄?」
「はい」
「じゃあ良いタイミングだから、もう会うな」
「えっ」
もう帰っていいよと倭は言ったが、いくら先輩の命令でもこれは従いたくない。
「……嫌、です」
朝陽は小さな声で反発した。倭がにらむ。
「記者にこんな記事を書かせるような隙 のある相手じゃお前を幸せになんかできない」
「塁さんは悪くない! 俺が……甘かったんです」
思わず大声を上げてしまった。途中で気付き最後はトーンを落とした。
「それなら隙のある朝陽を守ってやれない相手はお前を幸せにできない」
倭にそう言われると、塁と朝陽はうまくいかない気がしてきた。目立ちすぎる。朝陽は記者から追われる職業だし、塁はスポーツ選手だけれど恋愛関係を探られ続けている。
あと数日で塁は沖縄へ行ってしまう。その前に別れよう。張り込みされているだろうから会いには行けない。電話で別れを告げよう。
わかりましたと返事をして倭の部屋を出た。
その日は夜まで仕事だったから塁に連絡はしなかった。次の日もなんだかんだと自分に理由をつけて連絡をしなかった。けれどもう一月が終わってしまう。電話をしないと。塁からのメールも着信も無視している状態だ。
次の日の夜、自宅で携帯を握りしめたまましばらく固まっていた。そしていざ電話をかけようとすると涙が出てきた。
――ダメだ。これじゃあしゃべれない。
泣いているのもあるし、塁に引き止められたら決心が揺らぐから、メールで伝えることにした。
〈連絡しなくてごめんなさい。塁さんと別れたい。メールなんかでごめんなさい。楽しかったです。さよなら〉
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