◆　塁(るい)　③-2　◆ 　朝陽は年末が一番忙しかったようで一月は会える時間が前よりは多かった。店選びには気を付けて、たまにだけれど外食にも行った。塁は、外見だけでなく朝陽の内面が好きだった。それから、こんなに興奮するセックスってあるんだと朝陽を抱いて初めて知った。 　少しだけ雪がちらつく一月の下旬だった。ネットに塁の記事が出ていた。それは翌日に売り出される週刊誌の宣伝なのか、少しだけ内容を紹介するものだった。詳しくは明日発売の週刊誌を買ってくれというものだ。 　見出しは、「小日向(こひなた)選手のお相手は超人気アイドル！　女子アナも敵わない！」と。 　超人気アイドル？　心当たりは朝陽しかいない。飲み会に、アイドルをやっているという女の子が来たことはあるけれど塁が聞いたことのないくらいの知名度だったから「超人気」とは書かれないだろう。けれど見出しなんてそんなものかもしれないし。 　だいぶ前だけれど始球式に来たアイドルの女の子かもしれない。別に連絡先交換なんてしていないが、「握手してください」と塁のところに来た。 　さすがに朝陽ではないだろうと塁は結論づけ、特に朝陽には伝えなかった。 　翌日、おそるおそるネットを開くと例の記事は一枚だけ写真が載っていた。週刊誌にはあと数枚載っていると書いてある。それもそのうちネットにアップされるだろうが。 　写真は、塁が運転席に座っていて朝陽が後部座席に乗り込む場面であった。「小日向選手の愛車」と書かれている。朝陽はマスクをしているが、なんとなく嬉しそうに見える。それはその現場を塁が知っているからなのか、それとも笑っていることが目元からでもわかるのか。 　見出しは熱愛記事のように書かれていたが内容はそうではなかった。たくさんの女性が塁を狙っているのに塁が食事に行った相手は朝陽だったというものだ。 　どうしても気になってコンビニへ行き週刊誌を買った。 　残りの写真も同じようなもので、塁の車に向かって朝陽が手を振っているもの、車内にふたりがいるところ、それからふたりで歩いているものだった。歩いているのは食事をする店へ入るところだろう。愛しそうに見つめ合っているように感じるのは自分だけだろうか、と塁は思う。 　朝陽のマンションが記者に張り込まれているのだろう。なかなか女の子との写真が撮れないでいたところに塁が現れたから撮ったと思われる。 　対談で知り合って仲良くなった、それは別におかしくない。けれど違った受け止め方をする人もいるのだろうか。そういう目線で読んでみると熱愛記事に取れなくもない。「熱心に送り迎え」だとか。 　写真は全て同じ服装だから、とある一日のものだけれど、文章を読んでみると何週間も見られていたような気がする。 　もしかしたらもっとたくさん写真が存在して、朝陽の事務所が雑誌社から金で買い取ったとかそういうことってあるのだろうか。それなら朝陽は事務所から注意を受け、そのことを塁に話すだろう。 　まあ推測はいい。朝陽は自分でネットは見ないけれど、もうこの件は耳に入っただろうか。まだ連絡はこない。 　いくら待っても連絡がなくおかしいと思った。塁のほうからメールや電話をしても朝陽は応答しない。 　二月から沖縄でのキャンプが始まる。塁は焦った。このまま連絡が取れないまま一月が終わってしまうのではないかと。