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episode3 塁③-1

   ◆ (るい) ③-1 ◆  過去に女性と関係を持った時と今朝陽(あさひ)を抱いた時の気持ちが全然違うから、(るい)は大丈夫だと思った。朝陽のことを本当に好きな自信はあったが、二度目ができない自分の性質に対する不安はある。  どんな気分だったのかを思い出すと、女性を抱いたあとは嫌な気持ちだった。きれいだし良い子だし好きになれるかなと思っていたのに、申し訳ないけれど行為後、その女性たちには嫌悪感が()いてくるのだ。 「朝陽くん、大丈夫?」  ベッドに横たわる朝陽に声をかける。 「ん、……平気」  その姿も言葉もかわいく思えてそっと抱き寄せる。今もそうだけれど、細い朝陽に体重がかからないように気を付けていた。朝陽は初めてだから優しくした。というか、優しくなってしまう、のほうが正解だ。  過去には処女の子もいたけれど、「痛かったら途中でやめる」なんて言ったことなかったしやめる気もなかった。  朝陽を大切にしたい。触れたいし繋がりたいけれど痛い思いなんて絶対にさせたくない。  朝陽も塁の背中に腕をまわし抱きついてくる。塁の胸の辺りに顔をうずめてすりすりとしている。 「塁さん、好き」  腕の中でそうつぶやく朝陽に愛しさが込み上げて、塁の不安はゼロになった。呪いは解けた。もう一度朝陽を抱きたくて勃起し始めている自身を認識したのだ。 「朝陽……、もう一回したい」 「うん、俺も」  朝陽を背中側から抱きしめて首筋にたくさんキスをした。  くすぐったいのか感じているのか、「んっ」と朝陽は身をよじる。 「そのまま少し腰を上げて足開ける?」 「えっと……」 「この体勢のほうが身体がつらくないと思う」  そうして今度はバックでシた。背中を抱きしめて優しく優しく突いた。耳元で「朝陽、好きだよ」と何度も言っていた。  しばらくすると朝陽がなにか訴えていた。 「んっ、んっ、塁さ、んの、……顔、見て、あっ、んっ、……し、たい」  中から抜いて、朝陽をそっと仰向けにする。 「足と腰がつらいでしょ」 「ダンスのために俺、めっちゃ柔軟やってるから平気」  無邪気に笑う朝陽に口づけ、挿入した。  抱き合いながら、新年は元日から二日に変わっていた。  朝は塁のほうが早く目が覚めてシャワーを浴び朝食の準備をしていた。 「塁さん、おはよう」  そろそろと朝陽がリビングに入ってくる。 「おはよ。シャワー浴びておいで。そのあと一緒に朝ご飯食べよう」  ふたりでご飯を食べ、一緒に筋トレをしたり、朝陽たちラヴィアン・ローズの出ているテレビを見たりした。 「俺、この番組からオファーきたことあるよ」 「そうなんだ、知らなかった。今後引き受けることあるの?」 「どうかな。テレビなのに朝陽くんにデレデレしちゃいそう」  楽しそうに朝陽は笑う。朝陽はそういうことは平気なのだと言う。確かに無関心をよそおうのがうまかったりする。演技もやってるんだもんな、と塁は納得する。 「朝陽くんってデビューして五年って言ってたよね。でも、もっと前からテレビ出てなかった?」 「ラヴィアン・ローズとしてのCDデビューから五年なんだよ。事務所に入ったのは小六で、初めてドラマに出たのが中一の時。(かなで)くんの弟役で」 「あー、奏くんと朝陽くんって雰囲気似てるもんな」  よく言われる、と朝陽は言う。朝陽が高校生の時にも奏の弟役をもう一度やったそうだ。  塁の携帯のメール音が鳴った。 「あ、ごめんね」  開くと先輩からの飲みの誘いだった。近いうちに新年会をやろうと。もちろん女の子も呼んで。  朝陽と出会ってからもこういった飲み会へは行っていた。付き合ってからも行った。けれど女の子のお持ち帰りは一度もしていない。それをするしないは、別に先輩の利害とは関係ないからだ。  飲み会に参加するかどうかは、塁が顔を出さなければ来ない女の子がいるわけで、上下関係が厳しいこの世界では「行けません」とは言えなかった。  朝陽に隠し事はしたくない。 「先輩からの飲みの誘いだった」 「え、今日?」 「今日じゃないよ、近いうちにって。さすがに今日だったら行かない」 「なんで?」 「なんでって……、こんなふうに朝陽くんと過ごせる日なんて貴重だし」  朝陽を見ると鋭い目で塁をにらんでいる。やっぱり飲み会のことは言わないほうがよかったのか……。 「ダメだよ」  怒っている……。 「先輩からの誘いは絶対だよ。もし今日だったとしても行かないとダメだよ」 「え……」 「俺、台本とか歌詞とか覚えながらここで待ってるし。俺のために先輩の誘いを断るとか、ふざけんなって怒るよ」  そうだった、と塁は思い返す。この子のこういうプロ(だましい)を好きになったんだった。けれどその場には女の子もいることを言わなければいけない。 「朝陽くんを好きになってからも行ってたよ。年末にも一回行った。つまり付き合ってからってこと」 「うん」 「言い出しにくかったのは、そういう飲み会って女の子も来るから」 「うん」 「え……、『うん』って気にならないの?」 「だって塁さん、女性には興味ないって言ったじゃん」  まあそうか、と塁は思う。朝陽はこんなに繊細そうで見た目もかわいらしいのに中身が男前というか、しっかりしているんだなと思う。あー、また()れ直してしまう。 「朝陽くんの言うように先輩との上下関係は絶対だから、これからもそういった飲み会には参加する」 「うん。そういうプロ魂、好きだぜ!」 「なんだ、それ」 「え、塁さんのモノマネ」  似てないし、と朝陽の髪をくしゃくしゃとなでる。朝陽はキャッキャと喜ぶ。 「スポーツの世界とは比べものにならないかもしれないけど、俺たちも男ばかりの社会だから先輩後輩関係は厳しいよ。俺の場合、直で一番お世話になってる先輩はヴァン・ブラン・カシスだから、今、(やまと)くんから呼び出されたら行くよ」  うん、と聞いていたがなにか気になった。そうか、さっき(かなで)の話をしていたから、例え話をするなら奏でいいのではないか、と思ったのだ。中学生になって好きになった人、と前に朝陽は話していた。中学生というと、もう事務所に入っていて、おそらく朝陽を取り囲む世界は事務所の人間だったのでは。  朝陽が以前好きだった人は倭だと直感で思った。けれどそんなの気にしても仕方がない。こんなかわいらしい男の子が男前の愛し方をしてくれているのに、スポーツ選手の自分が女々しいことを考えている、と反省する。  その夜も朝陽を二回抱いて、三日の夕方までふたりで楽しく過ごした。一月に出す新曲の振り付けだと言って朝陽は練習していた。おもしろ半分で塁にも教えるから、塁もサビだけは踊れるようになったことに自分で驚いた。

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