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第2話「ユキの日常」

「トモ、トモ!!なあ、ヤベぇ、マツゾン来たぞ!!」 「あ?」 良く言う、イイトコロ、だった。 ずっぽりとはめられた自分の下半身の熱は組み敷いて脚を開かせている目の前の女の下半身に直結している。 もう少しで射精と言うタイミングで、ドアの向こうで見張りをさせていた友人から声が掛かったのだ。 「誰?」 「マツゾン!!」 「あーー、めんどくせぇなあ」 沢村智幸(さわむらともゆき)は盛大なため息をついて項垂れた。 マツゾンと言うのは松添孝一(まつぞえこういち)と言って、この私立皆方高等学校(しりつみなかたこうとうがっこう)の1年の歴史の教師であり、智幸の素行の悪さに入学早々に目を付けた40近い歳の絶妙に脳天から禿げ始めているおかっぱ頭に分厚い眼鏡をかけた男だった。 「トモぉ?」 鼻にかかった甘ったれた声を出したのは、智幸と下半身直結をしているこの高校に赴任して来たばかりの1年生国語新任教師•梅若沙織(うめわかさおり)である。 「はー、、もう少しでイケそうだったのに」 「あ、トモ、中はダメ、ねっ?」 「うるせえなあ」 罵られるとぎゅんっと梅若の膣が智幸の肉棒を締め上げる。明らかに興奮している痴女教師を見下ろし、チッと舌打ちをしながらもう一度その小さな身体に覆い被さった。 身体に不釣り合いな程に大きく揺れるGカップの胸の突起を指で弾くと、 「ひゃんっ!」 とまた間の抜けたいやらしい声が漏れる。 「俺らここにいるとヤバくない!?」 「あ?中入れば?」 「え?」 「え??」 え?、と言ったのは廊下で見張りをしながらトランプで遊んでいたドアの向こうの友人達と、それから智幸の下の女。 「え、だってヤッてんだろ?」 「ヤッてっけど」 無論、下半身は繋がったままだ。 「い、いいの!?入って!?」 「ちょ、ダメ、ダメダメダメ!トモ!」 梅若は起き上がりながら智幸を止めようともがくが、逆に彼に押し返されて再び床に倒れ込む。 何も敷かれていないそこはひんやりとしていた。 「生徒とこんな事してるお前が悪いんだろババア」 「えッ、本当に!?待って!」 「おっじゃまっしまーす!」 ガララ、と入口の引き戸が開き、トランプ片手に男子高校生3人が教室に雪崩れ込む。 ピシャリと扉を閉めると、素早く鍵を掛けて教室全体の電気を消した。 そして携帯電話のライトをつけて、梅若の身体を照らしながら近づいて来る。 「マツゾン来んの後どのくらい?」 3人ともトランプはバラバラとまとめて床に放っている。 「マジですぐ足音すると思う」 「お前らが入んの見られた?」 「いや、B棟の渡り廊下からこっち来てたから見られてない」 「じゃあ通り過ぎるの待つか」 被覆室や家庭科準備室でのこの馬鹿げた逢引きを彼等はいつも面白そうに手伝い、梅若は赴任とほぼ同時に始まった生徒とのイケない関係をいたく気に入り、周りの数人の生徒が黙認しているのをいい事に智幸との校内セックスを楽しんでいた。 無論、バレれば智幸は退学であり、梅若は職を失う。 「あ、来た来た」 「一回ライト消せ!」 プツ、と3人の持っていたライトが消える。 他の生徒達が部活や帰宅をしている時間帯に、彼等は息を忍ばせて被覆室内に溢れる汗と脂と体液の入り混じった臭いを嗅いで、興奮しつつも松添が教室の前を通り過ぎていくのをジッと待った。 (萎えそう) 松添は入学してからずっと智幸の放課後の行動を追って校内を巡回している。 松添の顔を思い出してしまった智幸は、クンッ、と小さく、梅若の奥に届くように腰を動かした。 「ッぁ、!」 漏れ出た声に驚いて、カーテンを閉め切った薄暗い教室の中の梅若のいる位置に全員の視線が集まる。 本人も両手で手を押さえ、けれどこの状況に興奮してヒュー、ヒュー、と荒く呼吸している。 カツ  カツ  カツ 校内履きにも革靴を履いている松添の足音が廊下から微かに響いて来た。 5人の緊張感が教室内で競り上がり、ドッと重たい沈黙が流れる。 カツ  カツ  カツ     カツ 黙って息を潜めていると、数分で靴音はもうほとんど聞こえない距離まで遠ざかっていった。 「もういっか」 「え?ぁ、あんッ!」 「うわ、勃つわー、生殺しだよこれ」 再び勢いよく梅若の膣に自分のものを出し入れし始める智幸。 そんな2人を携帯電話のライトを付け直し、3人は羨ましそうに眺め始めた。 「梅ちゃんおっぱいデッカ!」 「うーわー、ゆっさゆっさしてるじゃん」 「ヤリたくなる、、でもあんま見たくない」 梅若の揺れるGカップに魅入っている内の1人、青木泰紀(あおきやすのり)は涎が出そうな程口をポカっと開けている。 染めたての金髪が似合う背の低いやたらと童顔の青年だ。 「いやほんとすごい、Gカップ」 一方、股間を押さえながら同じように胸に夢中になっているのは山中裕貴(やまなかゆうき)と言い、両耳にいくつもピアスを付けたピンク色の髪の青年で、実は初体験を終えていない。 「揺れ過ぎてて目で追うと酔いそう」 一方、智幸の次に経験豊富であまり大きくない美乳が好きな大野光瑠(おおのひかる)は2人のセックスで性欲が掻き立てられはするものの、巨乳が嫌い過ぎて気持ち悪くなって来ており自身でも良く分からない心境になっていた。 その短く切られた黒髪を掻きむしりながら、黒板の前にしゃがみ込んで口元を押さえる。 「吐くなよヒカル」 「あんっ!あんっ!あんっ!」 「お前は声出し過ぎなんだよ殺すぞ」 「ぁあッぅ!!」 ガッと智幸が梅若の首を両手で掴んで圧迫し始める。 飲み込めない唾液が唇から溢れ、顎をつたって床に落ちて行った。けれどそれすら彼女にとっては快感らしい。 教室のど真ん中、机も椅子も置かれておらず、それらは全て重ねて教室の隅に追いやられていた。 「ぁんんッ、いい!いいぃッ!」 (きもちわる) 見下ろした女の低い嬌声が耳を劈き、智幸は眉間に皺を寄せてまた舌打ちをする。 だらしなかった膣が肉棒を締め上げ始め、やっと射精感が高まって来ていた。 「ちんこ痛いぃ、、!」 「あ?シコればいいだろそこで。お前らにちんこもケツも見られてる俺の身にもなれ」 「トモが入っていいって言ったんじゃん!」 青木の悲壮感漂う訴えに「あ?」と不機嫌な視線を返して震え上がらせる。 おずおずと収まりがつかなくなった自分の性器を取り出すと、しゅ、しゅ、と静かに2人を見ながら青木が自慰を始め、その横にいた山中も耐え切れずに真似をする。 「ぁあんっあんっそこぉ、いいっ」 (うるさい) 「もっとぉ、ねえもっとぉ、お、お、ぉおッ」 (気持ち悪い) 「おほっ、オッ、アッイグ、イク、アッ!」 (死ね、死ね、死ね!!!) どこかイラついている智幸は雑にガンガンと梅若の奥を攻め立てて強引に絶頂まで登らせていく。 いつもコンドームも何もしていない生のセックスで彼が得るものはただ終わった後の処理感だけだった。 「イケよクソババア」 「いっ、イグイグイグ!アッあぁああッ!!」 ドッと中に溢れる智幸の精液。 意識があるのかないのか、馬鹿みたいに舌を出してヒッヒッと呼吸している女を見下ろして不機嫌そうに自分の性器を引き抜いた。 「ヒカル、ティッシュくれ」 「何で俺なんだよ!!巨乳に近付きたくない!!」 「お前めんどくさいな」 用意の良い光瑠の鞄には大体コンドームとローションとティッシュとハンカチが絶対入っている。あと小型のバイブやローターもだ。 分かりきっている上、何度か複数プレイで光瑠の致しているところを見ている智幸は当然持って来ていたポケットティッシュを一袋拝借すると、さっさと自分の下半身だけ処理してゴミをボトボトと梅若の身体の上に落として行く。 「はー、、はー、、ん、私にもティッシュ」 「それよりお前、ヤマの筆下ろししてやれば?」 「え!?」 「え!?」 床で打ちまくった身体は痛まないのか、梅若がガバッと起き上がり確かめるように智幸を見上げる。 ベルトをし終わりジッパーを上げると、鞄に手を掛けながらパタパタと半袖のワイシャツの襟を扇いでいる智幸は、自慰が終わっていないにも関わらず手を止めた山中の方へ視線を投げた。 「なに」 「え、いや、え!?いいの!?」 「いいよな?」 今度は床に座り込む梅若を眺める。 彼自身はもう帰ろうとしていた。 「え、、え?」 床に散らばったタイツや薄水色のシャツ、タイトなスカート、紫色のブラジャーとセットのパンツ、あと肌着。 ヤり終わった現場に1人で座らされ放置されている彼女は悲しげな表情を浮かべていた。 「何言ってるの!?」 「こいつイケメンだしいいだろ」 「俺イケメンなの!?ありがとう!!」 「ん」 「そうじゃなくて、私は嫌だからね!?」 「えー、梅ちゃんケチじゃん」 「だって貴方、彼女いるって言ってたじゃない!」 Gカップを隠しもせず突然の事態に驚きながら、梅若は何とか拒否しようと立ち上がり智幸の側に落ちているティッシュを拾って自分の股に当てる。 「恥じらいとかねえのかよ」 光瑠は鬱陶しそうに彼女を見て呟いた。 「俺の彼女、超お嬢様学校通ってて頭硬いからヤらせてくれないもん」 「はあ!?」 「お前立場考えろよ。ヤマにバラされたら教師として終わんだぞ」 「ッ、!!」 グッと唇を噛むのが見える。 けれど智幸は察していた。 梅若は生粋のビッチであり、正直この状況すら楽しんでいる。 校内では1年の中で人気の高い顔の良い4人が集まっているこのグループの智幸に手を出し、周りの3人に毎回自分達の行為の見張りをさせていたのも図っての事だろう、と。 「どーすんの、梅ちゃん」 意地悪く笑ってはいるが、気を遣って言ってやっていた。 「し、仕方ないなあ」 どこか嬉しそうな声だ。 どうせ派生して智幸以外の3人の内の誰かと、あるいは全員とヤリたいと思っていたに違いない。 「じゃあ俺帰る」 「俺も」 智幸はケロっとした顔でドアの方へ向き、光瑠もつまらなそうにそれに続く。 「俺はヤマと梅ちゃんのハメ撮りしよ」 「お前好きだよなあ」 青木は楽しそうに携帯電話を構えた。 「ついでに俺も加わっちゃおっかなあ」 ニッと楽しそうに笑うのが見え、光瑠は呆れてため息をついた。 高身長2人組は臭いの充満している教室から鍵を開けて脱出し、鞄を無理やりリュックのように背負って何事もなかったかのように廊下を歩き始める。 「ぁあんっ」 「あ、結構聞こえんだな」 「次からもう少し気をつけるか。マツゾンこえーし」 ため息を吐きながら出て来た教室から微かに響いて来る梅若の声を聞きつつ遠ざかる。 3階から1階に降り、下駄箱で靴に履き替えていると松添が下駄箱の棚の間にヒョコ、と顔を出してきた。 「うわッ!?」 「何だよマツゾン」 下駄箱は何段も重なり棚になっており、それが何列も玄関に並んでいる。 光瑠は自分が驚いた事がツボにハマったらしく笑いながら下駄箱を叩き、ひょっこり出てきた松添は2人を交互に眺めてから智幸を眼鏡の奥から見つめた。 「君達どこにいた?」 「体育館の裏」 「さっきそこ見たけどいなかったよね?」 「入れ違いになっただけだろうるせえなあ」 はー、と盛大にため息をつくと諦めたのかまた革靴の音を響かせながら松添が廊下を歩いて行く。 この方向は職員室だが、念の為と笑いながら光瑠は山中達に「マツゾンまだいる気をつけろ」と携帯電話でメッセージを送っておいた。 「ひやっひやしたなあ、今日も」 校門を出て駅の方に歩きながら、楽しげに光瑠が笑う。 相変わらず不機嫌そうな智幸はポケットに手を突っ込んだまま、前を向いてだらだらと歩いた。 (腹減ったなあ) 帰りに何か食べようかと思ったが、今日が金曜日である事を思い出してそれはやめておこうと決めた。 「今日何か買って、、あ。金曜か。トモ、金曜ってすぐ家帰るよな?」 「帰る」 「んー、じゃあどっか寄り道して俺はあいつらと合流しよっかなあ」 基本的に家に親がおらず、智幸と光瑠は外食が多い。大体毎日一緒に夕飯を食べているが、土日は除いて毎週金曜日だけは智幸はさっさと自分の家に帰っていた。 「悪い」 「何で謝んだよ、別に良いよ」 光瑠は基本的に何でも笑う。 巨乳が苦手と言う以外は完璧で、下手したら智幸よりもモテる人気の高い男だった。 身長180センチ後半で野獣っぽく、誰に対しても扱いが雑で素行の悪い不良と言う立場にいる智幸。 対して、光瑠は同じような背丈にニコニコした顔が乗っかった、喧嘩っ早い智幸の口の悪さにも温厚に対応するが下衆な行動は一緒にやる変人だった。 駅に着くと改札を抜け、途中まで同じ路線に乗る2人は、5分後にくる電車を待つ為にホームの青いベンチに腰掛けた。 腹が減って仕方がないのでお互いに炭酸の入ったジュースを買って飲みながら何とか空腹に耐えている。 「何でいつも金曜日はすぐ帰んの?」 「別に」 「んー?あ、そう」 何の気なしに聞いた質問は短いその一言で片付けられてしまった。 (どうせ、今日もアイツ遅いんだろうな) 緑色の綺麗な瞳はいつだって宝石のように輝いていた。 真っ白な肌に映える血色のいい赤い唇。薄く笑う整った顔立ちの男は、今、彼の視界にはいない。 「、、、」 毎週金曜日に彼の家で夕飯を食べるようになったのは小学生のときだった。 けれどここ最近、思い出された美しい姿の男は智幸と一緒に食卓を囲んでいない。 部活と、新しくできた彼女に夢中だと言うのは彼の妹から聞いていた。 「それ綺麗だよな。センスいい」 「あ?」 無意識に触っていた左耳についた緑色の小さな石がはめ込まれたピアスを見て、光瑠は「俺もそう言うの買お〜」と呑気に言っている。 「、、、んー、そうな」 不機嫌が少しだけ消えて行く。 日の落ちた世界で、向かい側のホームに来た電車の中にいる下校中の同い年くらいの女の子達を順に見て、はあ、とため息をついた。 携帯電話が尻のポケットで震えている。梅若ではない女からの連絡が絶え間なく届いているようだ。 この退屈で腹立たしく苛立ちの増す毎日が、智幸の日常になってしまっていた。

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