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第58話「ハルと原田」
「あ、そっか。明日帰ってくるんだっけ」
《そーよー!ユキちゃんと仲直り出来たんでしょ?おばあちゃんがおはぎ作ってくれたから、ユキちゃんの分も貰って帰るね》
「うん、ありがと。あいつ、おばあちゃんのおはぎ小さい頃から好きだから喜ぶね」
《ね〜!今日のお夕飯は?》
「昨日カレーだったから、、パスタ。カルボナーラかな」
《あっ、いいなあ〜》
冬理と話している晴也の姿をソファの上から睨み、智幸は黙り込んでソファの背もたれに頬杖をついた。
晴也はキッチンにいる。
先程話していたカルボナーラを作るようだ。
初めてのセックスが終わった2人はリビングに降りると買ってきていた昼食のハンバーガーを食べ、しばらくはテレビ番組を見ていた。
途中で飽きて加入している配信サービスに画面を切り替え、ゲームが原作のアニメを第1シーズンから一気見し始めている。
その間も、ずっとソファの上でくっついていた。
「じゃ、バイバイ、、、ユキ!おばあちゃんのおはぎ持って帰ってくるって!」
「ん。聞こえてた」
やっと電話が終わり、晴也が嬉しそうにそう言って笑う。
智幸はそれを待っていたかのようにソファの背もたれから手を離して立ち上がると、だらだらと彼の元まで歩いて行ってキッチンに立つ晴也を後ろから抱き締めた。
「、、みんな帰ってきたら、こんなにくっつけなくなる」
声は少し拗ねている。
「そんなんこの家では、だろ。ユキの家に2人で住むからいいじゃん、別に」
「ッ、え!?いいの!?」
「んー。俺だって家族気にせずにユキといたいし、セックスしたい」
あまりにもさらりとそう言った晴也に驚愕しつつ、智幸はまたぎゅっと、腕に力を込める。
「ハル、、」
「おい、こら。ちんこ当たってる。今はやめろ」
「当ててるんだよ、、ねえ、ハル」
「なに」
分かっているくせに、晴也は智幸に振り返らずざくざくときのこを切っている。
まな板はトマト柄の薄いものだ。
「、、おっぱい吸いたい」
その一言に、ふ、と口元を緩ませた晴也は包丁を置いて、身体ごと彼の方へと振り返る。
「ん。おいで」
つけていたエプロンを晴也が外そうとすると、智幸がその手を止めた。
「付けたままでいい」
「え?」
ズボ、と脇からエプロンの中へ手を突っ込み、智幸は晴也のTシャツだけを器用に捲り上げていく。
「、、、」
晴也は智幸の好きなようにさせて、ワークトップへ後ろ向きに手をついた。
Tシャツが捲れると、エプロンの胸元をグイ、と晴也の右胸の方へ引っ張って寄せる。
そうすると、チラ、と左の乳首だけが隙間から見えた。
「っ、、ぷっくりしてる」
「吸っていいよ」
「ん、」
ちゅぷ、と晴也のそれが智幸の口に入れられる。
熱い舌が小さな突起に絡んでから、ちゅうっと吸い上げられた。
「んっ!」
「、、、」
智幸はちゅうちゅうと子供のように必死にそこを吸う。
晴也はキッチンへ寄り掛かって体重を預けると、彼へ手を伸ばして頭を抱きしめ、ゆっくりと撫でた。
「上手、上手」
「ん、、」
心地のいい手の感触に目を瞑った。
(3時間に1回くらい吸わせないとダメだな)
ちゅぱちゅぱとそこを吸う智幸を見下ろしながら、晴也は吸われる感触に目を細めてハア、と熱い息を吐き出す。
彼は自分の恋人が不安定なことも、その不安定さを自分の乳首を吸って安定させようとしていることも理解できていた。
「ハル、好きだ、、ハルだけが好きだ」
「ユキ、」
急に寂しさが込み上げて、智幸は晴也に縋りながらずるずると膝を折り、床に膝をつけるとエプロンを捲って頭を入れ、晴也の履いているスウェットのズボンをずり下げた。
「ユキ、俺はここにいるよ」
「ハル、、はあ、、ハル」
ボクサーパンツ越しに晴也の性器に頬を擦り付け、鼻を押しつけて匂いを嗅ぎ、彼の腰を抱きしめる。
「ユキ。大丈夫だよ」
「ハル、1人にしないで」
いつ、誰が、どこで自分を置いて行くかは分からない。
ときたま智幸はそんな不安を抱えきれなくなって苦しんで泣くときがあった。
今は泣いてはいないものの、不安になって晴也に縋っている。
「分かってる。俺がユキを1人にしない」
はあ、はあ、と苦しそうに息をして焦ったようにそこの匂いを嗅いでいる。
脚の間に鼻先をねじ込み、玉袋を鼻で持ち上げてその裏の匂いをずう、と吸い込む。
晴也はそんな彼を撫でながら、シュル、と布ズレの音を響かせてエプロンを外し、床に落としてしゃがみ込む。
「大丈夫だよ」
「ハルッ、好きだ、好きだ」
頭を撫でて落ち着かせ、智幸を床に座らせながら膝の上に跨ると、Tシャツを捲ってまた乳首を彼に差し出した。
「おいで」
2日後の昼は、土曜日の昼だった。
2日間、考えるに考えた原田はその日、光瑠を家に呼び出していた。
「原田、大丈夫か?」
原田の家に上がり、彼女の部屋に招かれた光瑠は初めて入った片付いた部屋を見回した。
女の子らしい甘い匂いがする。
何度も入ったことのある由依の部屋は香水の匂いが強いが、原田の部屋はそうではなかった。
たくさんぬいぐるみが並んだベッドを見て、「ここでトモとヤったんだなあ」なんて呑気に考えたりしている。
「大丈夫だよ、、ヒカルくん、麦茶でいい?」
「あ、うん。ありがとう」
原田が一度部屋を出て行った。
ドアが閉められると、部屋はシンと静まり返る。
(由依、まだ来てないのか)
いつ来るのか連絡を取っておけばよかったな、と携帯電話をポケットから引き摺り出して連絡用のアプリを起動させた。
またガチャ、とドアが開く。
「原田、由依っていつ来んの?連絡取ってる?」
今日の彼女はやたらと薄着だ。
グレーのホットパンツからはむちっとした白い脚が伸び、白いTシャツからは付けている黒いブラジャーが透けている。
原田が苦手と言う訳ではないが、光瑠は原田と2人きりと言うのは少し気まずかった。
「、、ごめん、由依ちゃん、今日来ないの」
「え?」
麦茶を乗せたお盆を白い小さなテーブルに乗せる。部屋には机になるようなものはそれしか置かれていない。
カラン、と氷が音を立てるのを聞きながら、光瑠は目を丸くした。
「何で、」
「呼んでないの。ヒカルくんにだけお願いがあったから」
「、、お前、トモと別れたんだよな?ちゃんと」
光瑠は智幸から連絡を受けていた。
きちんと話し合って、謝って原田と別れた、と。
しかし家に呼ばれて部屋に入った今の今まで感じていなかった彼女のその影を落としたような異常な雰囲気に、光瑠はやっと気がついたのだった。
智幸と付き合う前までのあの原田ではない事に。
「、、別れてないよ」
「何言ってんの、原田」
たぷん、と原田の胸が揺れる。
ズリズリと四つ足になった彼女が光瑠を見つめながら近づき、白いTシャツの幅広い襟の間から、黒いブラジャーに包まれた豊満な胸を見せつけてきている。
「別れてない。トモくんは私と別れられないの」
「え?、ちょ、原田!」
180センチ越えの身体でも、小柄で傷付きやすい柔肌には勝てない。
振り払って怪我でもさせたらと思うと、自分を押し倒して太ももの上に馬乗りになった彼女を振り払う事などできなかった。
「原田!!何してんだよお前、落ち着け!どうした、何かあったのか?ちゃんと話し合ったんだよな?トモと」
「話しても分かってくれないの。だから、ヒカルくんのこれちょうだい」
「え、うわ、!」
カチャ、と器用にベルトが外される。
「こら、本当にやめろ、原田」
抑えようと伸ばした手を叩き落とされて、普段こんなことする筈のない彼女の行動に驚いた光瑠は唖然として上に乗る原田を見上げた。
「原田、、」
まったく勃起していない性器を下着から取り出して、原田はゆっくりと竿を握って扱き始める。
「原田、やめろ、、原田!」
「ヒカルくん、私に中出しして?妊娠するまでいっぱい出して」
「お前何言ってんだよ!!」
ガッと手を止め、身体を起こして無理矢理に自分のそれから原田の手を引き剥がす。
性器はやんわりと興奮して、勃ち上がってしまっていた。
「セックスしてよ!!ヒカルくんには迷惑かけない!!私のこと妊娠させてくれればいいの、それだけだから!!誰にも言わないから!!セックスしてよ!!いつも由依ちゃんとしてるでしょ!?誰でもいいんでしょ!?だったら私として!!妊娠させて!!」
「何言ってんだよ本当に!!馬鹿がすることだぞこんなこと!!」
思わずパンッ!と、力を込めて原田の頬を平手で打ってしまった。
「っ、」
「あ、ごめん、原田」
光瑠は原田が怯んだ隙に立ち上がり、急いで下着とズボン、ベルトを元に戻す。
(油断した、こんなになってるなんて、)
「うっ、、うう、う、、だって、だって!!トモくん別れるって言うの!!私と!!は、はるさんと付き合うんだって、はるさん、!!何で、はるさんじゃなくて、トモくんのこと愛してるのは私なのに!!赤ちゃん作ればいいの!!赤ちゃん作って、トモくんの子供だって言うの!!そしたら、そしたら戻ってきてくれるでしょ!?トモくんに大事にしてもらえるの!!はるさんのところになんて行かせない!!私の、トモくんは私のもの!!私だけの彼氏なの!!」
「は、、はる、、?」
「女よ!!トモくんのこと振り回して、たぶらかして良いように使ってるの!!許さない、トモくんのこと傷付ける気なんだ!!許さない、絶対許さない、、私のトモくんなの、私が守るんだもん!!1人にしないよ、私だけがトモくんのそばにいられるの!!殴られたって無理矢理犯されたっていいの!!トモくんがいればいいの!!トモくん!!トモく、」
「ハルって、、ウシくん、の、こと?」
「トモ、、、、、え?」
その名前に、原田は目を見開いた。
「、、それ、誰のこと?」
「ッあ、何でもない、多分違うな。何でもない。原田、妊娠とかそういうのは、」
「知ってるんでしょ!?はるって誰なの!?ねえ!!」
立ち上がった原田に縋りつかれ、光瑠は必死に舌を回して誤魔化すが、今の彼女にそんなものは通用しない。
「教えてよ!!はるって誰なの、ウシ?ウシくん?女の子でしょ?違うの?!女じゃないの!?女じゃ、」
『ハル』
「、、はる、」
突然脳裏に思い出された声は智幸のものではなかった。
しかし、あのときの自分の視界には智幸がいた筈だ。
『ユキ』
彼は不思議な名前で智幸を呼ぶ。
知ったような口をきいて智幸に笑いかける美しい顔。
『そろそろ買いに行こ、ハル』
そうだ、彼の彼女がそう言った瞬間に、智幸は表情を歪め、嫉妬したように彼を睨み、それをかわされて怒って店を出て行った。
ファストフード店の中だ。
あの制服は他校で、「はる」は女の子の名前じゃない。
「あの、、男の子、」
「原田!!」
思い出した。
甘い色の髪に、日本人離れしたエメラルドのような緑色の目。
「そうだ、ハルって、呼ばれてた、、あの男の子」
『ハル、お願い、受け入れて』
「じゃあ、私、、私はずっと、」
「原田、大丈夫だから落ち着け、な?原田、」
聞こえてくる光瑠の声は、脳を滑っていくようで、原田の心に届きはしなかった。
「トモくんは、、私を、ずっと、男の子の代わりに、抱いてたの?」
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