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主人の呼び出し⑤*
シャワーの水音に気がつけば、そこは風呂場だった。
広い洗い場で横たわっていた悠斗は上半身を起こした。
「…あ…」
「起きたか、滝瀬」
「…ッ!!」
ビクンと身体を強張らせ、怯えた目で九条を見た。
「ごめんなさい…もう…帰して…っ」
「あぁ、身体を綺麗にしたら帰すよ」
九条は悠斗にシャワーを浴びせ、体洗い用のスポンジを用意した。
「…じ、自分でやります…っ」
悠斗は九条を警戒して後ずさりした。
「イヌの身体は主人が洗うものだ。来い」
「…っ…」
お仕置きの恐怖が染み付いている悠斗はそれ以上反論することができず、警戒しながら九条の足元に近寄った。
スポンジで背中を擦られ、ピクンと悠斗の背が反応して吐息が漏れる。
「っく、んん…」
「あぁ、背中も感じるんだったな。すまん」
素直に謝る九条に悠斗の警戒心は緩み、身体を委ねた。
しかし、身体を洗われているだけなのに悠斗の身体はビクビクと震えた。
首筋、胸、太もも…
「ぅん…っ」
「全身性感帯なんじゃないか」
「そんな…こと…っん、く…っ」
反論しながらも身をよじらせる。
「誘ってるのか?…洗うだけのつもりだったが…責任取って口でしなさい」
「へ、えっ…?」
九条の欲は悠斗の反応を見て膨れていた。
風呂椅子に座る九条に、床に座る悠斗が奉仕する恰好になる。
「口淫の躾ができていないからな。覚えろ」
「…んん、む…っ」
悠斗は逆らわず九条の欲を咥えこんだ。
これ以上蕾に挿入されることは絶対に避けたい。
口で満足させる術を身につければ、もう挿入されなくて済む。
「口をすぼめて吸え。そうだ」
九条は丁寧に悠斗に指南した。
従順に従う悠斗は、九条の指示と欲の反応を見ながら九条の悦ぶポイントを掴んでいった。
「んんっ、ん、ん、ん…っ!」
悠斗の顎が疲弊する頃になると、九条が悠斗の頭を掴んでピストンを加速させた。
「出すぞ、全て飲み込め」
「んぐぅうっ…!!」
九条の白濁が悠斗の口内に放たれた。
ぬるぬるとした液体が舌の上に残る。
「ん、ん…っ」
悠斗はその白濁を飲み込んだ。
「よくできた。いい子だ」
悠斗は髪を撫でられ、褒められることの喜びと、口で満足させることができた達成感を感じた。
九条の掌に擦り寄ってしまいそうになるのを、はっと気づいて頭を引いた。
「…お、俺もう出ます!」
本当に九条のイヌに成り下がってしまいそうで、逃げ出すように風呂場を出た。
風呂場を上がってそそくさと服を着替えてリビングに行くと、九条のスマホが目に入った。
悠斗の弱みを握る、あのスマホ。
あの写真さえなくなれば、俺は九条から解放される。
悠斗は早まる鼓動を抑え、風呂からシャワーの音が聞こえることを確認すると、スマホを取って電源ボタンを押した。
スマホにロックはかかっていなかった。
写真アプリを開き、写真の一覧を見て唖然とした。
卑しい自分の姿がサムネイルを埋め尽くしている。
写真も、動画も。
片っ端から削除しようとしたが、写真にはロックがかかって削除できなかった。
どうすれば。
どうすればこれを抹消できる?
このスマホを壊してしまえば…しかし九条の家でそんなことをして無事に帰れるとは思えない…
逡巡している間に、後ろに九条が現れたのに気づかなかった。
「何をしている」
「ッ…!!」
ビクッと心臓が飛び跳ね、スマホを落としてしまった。
「それをどうしようとしたのかな?」
「先生、これ…ッ!こんなの…!」
悠斗は九条に悪態をつきたいがうまく言葉が出ない。
「ペットの可愛い写真は撮るだろう?」
悠斗は怒りのあまり九条に掴みかかった。
「……ッ」
九条を睨みつけて歯を食いしばるが、それ以上言葉が出ない。
どんなに悪態をついても、九条には敵わないことを思い知らされている。
九条は怒りと怯えの混ざったその表情を見下ろして嘲笑う。
終わりのない絶望に顔を暗くし、悠斗はその場に崩折れた。
「…俺、…なんで俺なんですか…。俺はただ…ハルを好きなだけなのに…」
「私が君を気に入った。それだけのことだ」
「……」
「君は青葉のことを忘れて、私のモノになればいい。すべて私に委ねろ」
「ハルを忘れるぐらいなら先生のモノになんかなりません!」
「君は本当に自分の立場がわかっていないようだな」
九条は床に落ちているスマホを手に取り操作すると、画面を悠斗のほうに向けた。
「君が私のモノにならないのならターゲットを変えるまでだ…青葉春、アイツはどんなイヌになるかな?」
画面にはハルの笑顔が映っていた。夏合宿のときの写真だ。
悠斗はそれを見て怒りが頂点に達した。
「…あなたは…どこまで…ッ!!」
「私は君を手に入れるためならなんでもする。青葉を守りたいなら、私の従順なイヌでいることが賢明だということだ」
「あぁああ!!!」
悠斗の理性が切れ、力の限り右腕を振るった。
大振りのパンチは九条の右手で受け止められ、がむしゃらに蹴りを出すと足をかけられ簡単に床にねじ伏せられた。
「くそッ…!この、最低教師…!あんたなんか大っ嫌いだ…ッ!!」
悠斗は顔を床に押し付けられ、涙で顔をぐしゃぐしゃにしながら吠えた。
悠斗の顔のすぐ横に、ハルの写真が写ったスマホが置かれる。
「答えろ、君は私のなんだ?」
「…俺は…大っ嫌いなあんたの…ッ…馬鹿な…イヌだ…っ」
悠斗はそう答えるしかなかった。
悪態をつきながら、九条に抗うことはできなかった。
悠斗は嗚咽を隠そうともせず、その場で泣きじゃくった。
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