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第17話 「魔王様のお忍びデート」

 あれから俺は外の様子を気にするようになった。魔王城にいると時間や日にちが分からないからだ。  別に気にする必要もないっちゃないんだけど、なんか無駄にそわそわしてるというか何というか。  エルと約束をしてから二日経った。  アイツは勇者業で忙しくしてるから、そんな毎日会えるなんて思っていなかったけど、いつエルがあの場所に来るのか分からないからドキドキするんだよ。何日の何時に会いましょう、みたいな約束をしてるわけじゃないし、基本的にアイツの気分次第だし。  魔王城でもこんなに暇してるのは俺だけだし。魔王は勇者がこの城に現れない限りやることないし。魔物達の縄張りに入ってきた人間の対処はその場にいる魔物や、リドが侵入者のレベルを見極めて中ボス辺りを手配するようにしてる。  なんていうか物凄い事務的だよな、魔王サイドって。  だから俺は暇なんです。何かやることないか聞いても、みんな「大丈夫です」としか言わないし。  そりゃあ魔王がいちいち介入してたらキリないし。俺の力じゃバランスも悪い。俺自身があまり使いこなせていないだけで、魔王の力なんてほぼチートだし。対抗できるのは勇者だけだし。  俺、宝の持ち腐れしてるよな。この見た目も変わらないままだし。  てゆうか、フォルグはいつになったら帰ってくるの。リドも連絡してるけど全然言うこと聞かないって困ってるし。フォルグが帰ってくれば姿が戻るってわけじゃないけど、何か解決の糸口になる方法を見つけてくれるかもしれないのに。  また人間の街行って噂話でも聞きに行こうかな。  普通に街並みとかダンジョンとか見てるだけでも面白いし。異世界探索しながら時間潰そうかな。 「……っ!」  とかウジウジ悩んでいたら、あの洞窟に人が入ったのを感じ取った。  なんだよ、俺いまから異世界探索するつもりだったのに。お呼びなら行くしかない。約束だからな。  俺は気配だけ抑えてから洞窟付近に転移した。毎回飛んでくのも面倒だから、この場所にはすぐ行けるように転移魔法を覚えた。  なんか俺、勇者に会うのに必死すぎるよな。  俺は深呼吸して、洞窟へと進んだ。  顔に出さないようにしないと。落ち着け俺。  洞窟に入ると、壁に寄りかかって座るエルがいた。そういう姿も様になっててカッコいいな。ズルいな、本当に。 「来てくれたんだな」 「……おう」  俺はエルから少し離れた向かい側に腰を下ろした。あまり近くにいると落ち着かないし。 「……俺、話題とかないぞ」 「構わない。話し合いがしたかったわけじゃないし」 「じゃあ、なんで?」 「一緒にいただけだ……一人でいると、嫌なことばかり考える」 「……大丈夫かよ」 「ああ……ただ、俺は一人でいても、自分にはなれなかった……どこにいても俺は、勇者でしかない。でも、お前といるときは違う」 「……エル」 「そう。俺は、エイルディオン。お前だけがそう呼んでくれる。ありがとう、イオリ」  エルは目を閉じて、嬉しそうに微笑んだ。まるで俺の声に聞き入るように。  そういえば、コイツ仲間は作らないのかな。ゲームではストーリー進めていけば仲間になるキャラが現れて、イベントが終わった後にパーティに加わるんだけど。 「……あのさ、お前は仲間とか作らないのか?」 「必要ない。一人の方が気が楽だし……面倒だろ、行動も制限されるし」 「分からなくもないけど……それでこの前はボロボロだったじゃないか」 「この前は……町に戻るのが面倒でずっと戦い続けていたからな」 「なんでそんなことしてたんだよ」 「……この森のモンスターは倒してもまた現れるだろ。それなのに不気味で怖いからって理由だけで退治を頼まれてムカついてた」  なんだよ、その理由。アホみたいだな。  自分の顔が見えないから分からないけど、多分今の俺は相当呆れた表情をしていたんだろう。エルは恥ずかしそうにそっぽ向いた。  こうして普通に話してると、中学の頃を思い出すな。あの頃はいじめもなくて普通に話せる友達もいた。メチャクチャ仲が良いって奴がいたわけでもなかったけど、高校の時に比べれば全然平和だった。  高校でも友達がいたら、こんな風だったのかな。他愛無い話して、放課後を過ごしたりしてさ。  そういうの、憧れたな。叶わず死んじゃったけど。 「イオリは、普段どうしてるんだ」 「え、俺!?」 「今までお前のような魔物を見たことなかった。この場所を隠してる魔法陣もかなり強力だし、近くにいれば気付かない訳ないんだけど……」  そりゃあ気配消してるし。魔王の魔力に気付かれるわけにはいかないからな。  まだ俺らが戦うわけにはいかない。物語には順序が必要なんだ。 「その……最近、遠くから来たんだよ」 「何しに?」 「何って言われても……気付いたら、ここにいた」  間違ってない。俺自身は異世界の人だし。気付いたらここで倒れていたし。 「やっぱり変なやつだな」 「お前に言われたくない」 「……ふふ」 「な、なんだよ。笑うことないだろ」 「いや、こうやって誰かと会話するのは久々だからさ……街の人とは一方的に頼み事されるだけだし」  寂しそうな顔。色んな人に囲まれているはずの勇者なのに、その存在を都合のいい存在に扱う人の声だけが響いてるのかもしれない。本当に勇者に救われてる人だっているはずなのに。心無い人の声だけがやけに大きな声になって聞こえてくるんだろうな。  わかるよ。そういう自分にとってマイナスになる声って、何故かデカい声になって聞こえてくるんだよな。思い出も嫌なことばかり鮮明に覚えていたりするし。 「もっと、耳を傾けてもいいんじゃないか」 「……え」 「魔物の俺が言えた立場じゃないけど……お前に救われた人の声も、ちゃんと聞いてやれよ。お前は、間違いなく勇者なんだ。神託がどうとか、特別な力とか関係ない。お前だから、救われたって人も必ずいるよ」  少なくとも、俺がそうだった。  だから、そんなに悲観しないでくれ。俺も悲しくなる。  世界を救う、なんて一人が背負いきれるものじゃないけど、それでもお前はそれを抱えて前に進み続けるんだろ。だったら、せめてもう少し前向きになれるようになってほしい。  本当、こんなこと俺が言えた立場じゃないけどさ。 「……イオリ」 「悪い。なんか偉そうだったな、俺はお前を苦しめてる立場の存在だもんな」 「いや……嬉しいよ。お前の言葉はスゴイな。スッと胸に届く」 「恥ずかしいこと言ってんじゃねーよ……」  こそばゆい台詞をスラっと言うんじゃない。そういうの一般男子高校生は言われ慣れてないんだよ。

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