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第20話 「イッキ飲みの強制は危険なのでやめましょう」

 恋する少女はこんな気持ちなんだろうか。  俺、前世でも恋とかしなかったから全然分からない。唯一好きだった勇者はただの憧れで、推しだった。  それなのに、実際に推しが目の前に現れたらこうですよ。  てゆうか、アイツが悪い。なんで俺のこと抱きしめたの。意味わからない。俺のこと殺せるとか言って、なんでああいう行動に出るのか理解できない。  勇者と魔物って立場を理解して、いつか戦うことになるの分かってて、なんでああなるんだ。  俺にはもう何が何だか分からないんですけど。  ベッドで項垂れてると、トントン、とドアをノックする音がした。  はい、と聞こえるかどうか分からないくらいの声でノックに応えると、リドが部屋に入ってきた。 「魔王様、お休み中でしたか?」 「ううん、大丈夫。どうしたの」  気持ちを無理やり切り替えて、俺は起き上がった。  今はもう魔王。俺は魔王なんだ。エルはちゃんとできてるんだ。釘を刺した俺がちゃんと出来なきゃダメだろ。 「フォルグが戻ってきたので報告に参りました。すぐに話されるなら部屋に呼びますが……」 「うん、じゃあお願い」  俺がそういうと、リドは念話を使ってフォルグを呼んだ。  これで何か進展があればいいけどな。 「はーい、呼ばれたよー」 「フォルグ、王の前ですよ」 「てゆうか、本当に小さくなってるんですねぇ。魔王様、かわいいじゃん」  部屋に入ってきたのは神官の格好をした悪魔、フォルグ。役職は一応神官だけど、性格は完全にチャラ男。青白い肌や尻尾がなければコンビニとかにうろついてそうなキャラなんだけどな。 「でさ、フォルグ。元の姿に戻りたいんだけど、どうしたらいいかな」 「うーん。原因が分からないからなぁ……魔法や呪いならいくらでも解く方法を探せるけど……ちょっと失礼しますね」  そう言ってフォルグは俺の頭の上に手を置いた。  これで何か分かるのかな。そういう魔法のことはクラッドの記憶にもないから、俺にはさっぱり分からない。 「なんだろう。魔王様は記憶を失くしてるんですよね?」 「あ、ああ」 「そして、以前の魔王様の記憶を思い出したというよりは、以前までの記憶を知った形で取り戻してる」 「ま、まぁ……一応?」 「それが原因なのかな。要は、今の魔王様は魔王様であって魔王様じゃない。だから見た目も変わってしまった……みたいな?」 「なるほど」 「どうしたらいいのかな。ちょっとしたキッカケがあればもしかしたら戻るかもしれないし、そのままかもしれないし?」 「えー」 「戻らなかったら変化の魔法で見た目変えればいいんじゃない?」 「じゃあ、最悪そうする」  フォルグでもやっぱり駄目か。  一応、何か方法がないか探してみるとは言ってくれたけど、期待はしないでねって最後に付けたされた。  変化の魔法か。一応覚えておいた方がいいか。いざって時にちゃんと出来なかったら困るし。 「でも、なんで魔王様の記憶は消えちゃったんだろうね。この世界で魔王様にそんなこと出来る奴なんか存在しないでしょ」 「お、おおーそうだね」 「どこの誰なの、我らが王にそんなことした不届きものは」  そんなことしたのは君達の王様だよ、とは言えないな。  フォルグ、顔は分かってるけど物凄く怒ってますって空気をメチャクチャ感じる。  そういえば、そういう話をリドは全くしなかったな。一体誰がそんなことしたんだ、みたいな犯人捜しをしないけど、その辺はどう思ってるんだろう。  それとも俺が知らないだけで、実は探してるのかな。 「フォルグ、その話は後にしましょう。そんなことより貴方は報告がいつも遅すぎます」 「げ、ここでお説教?」 「魔王様からも言ってください。城にも全然戻らないで、魔王様とこの話をすると連絡したのも何日前だと思っているんですか」  あ、ヤバい。リドのお母さんモード発動しちゃった。  俺、こういうとき何て言えばいいんだよ。これじゃあまるで尻に敷かれたお父さんじゃん。 「い、いや……フォルグも頑張ってるんだし、少しくらいは大目に見てもいいんじゃない?」 「魔王様は甘いんですよ。そういうところは全く変わられませんね」 「そうかな?」 「そうです。たまにはちゃんと叱ってくださいよ」 「俺、怒るの苦手だし……」 「魔王様、やっさしー! だから好きー」 「フォルグ、いい加減にしなさい」  変わらない、か。長年一緒にいたリドにそう言ってもらえるのはちょっと嬉しいな。  俺なんかでも、ちゃんとみんなが知ってる魔王らしく出来てるのかな。 「リド、そろそろご飯にしない?」 「そうだよリド、お腹空いたよ」 「……はぁ、仕方ありませんね。次からは気を付けてくださいよ」  やれやれ、と言ってリドは部屋を出ていった。  俺とフォルグもその背中を追いかけるように部屋を出る。  なんか友達とイタズラして親に怒られた後みたいな感覚だな。俺とフォルグは顔を見合わせてクスクス笑った。 「そうだ。これ魔王様にお土産、スライムゼリーいる?」 「うえ、何それ」 「ボックバードの谷でスライムが大量発生してて、そこで色々やってたら出来上がったんだけど、メッチャ美味いよ」 「変な色してるけど」 「平気だってー! 見た目より味だよ、魔王様」 「勇気いるなぁ……」 「何してるんですか、フォルグ。魔王様に変なもの食べさせないでください。お腹壊したらどうするんですか」 「俺は子供かよ」  またそうやって子供扱いしやがって。 「食べる!」 「お、良いね! さっすが魔王様! 魔王様のカッコいいところ見たいな! はいイッキ! イッキ!」  そのあと、俺はお腹を壊しましたがリドにすぐ直してもらいました。

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