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第28話 「コミュ障魔王様、作戦決行」

 空を飛びながら移動すると、小さい村は見失いそうになるな。無駄に迷っちゃった。  やっと見つけたワンナの村。ここに勇者の仲間になる女キャラ、マリアがいる。 「人のいない場所に降りてから、モブに変化して……それからマリアを見つけないと」  ちょっと緊張するな。  ここでしくじるわけにはいかない。  俺がやらなきゃいけないこと。まず、マリアへ勇者の仲間になるように暗示をかけること、そして彼女の能力を引き出すこと。  気を付けないといけないのは、俺が魔王、魔物だってことがバレないようにすること。まぁ変化の魔法が解けるなんてよっぽどのことがない限り大丈夫だとは思うけどな。  俺は適当に建物の後ろに降り、モブに変化した。うん、背丈も変わってる。顔はゲーム内のモブの顔をイメージしたから、うまく溶け込めるとは思う。  メッチャ緊張してきた。バレないよな。今回は気配を完全に消すと逆に怪しいから、極限まで抑えるようにした。  よし。行くぞ。行くぞー。  頑張れ俺。一歩前に足を出せ。バレないから大丈夫だ。  深呼吸して、俺は激しい鼓動を抑えながら物陰から出た。 「……」  大丈夫。誰にも見られてない。第一関門突破だな。  協会は村のはずれにあったな。マリアはいつも外で掃除をしてる。  なんて声をかければいいんだ。この世界の女の子は何て声をかければ話を聞いてくれるんだ。  いや、マリアは優しい子だから相談があるんですとか言えば俺の話を聞いてくれるはずだ。これでいこう。  怪しまれないように、緊張を顔に出ないように気を付けて教会へと向かう。  小さな村だからすぐに見つけられた。ゲーム通り、修道服を着たマリアが教会の前を箒で掃除してる。  世界が変わっても女の子に声かけるってなんか恥ずかしい。 「あ、あの……」 「はい? 教会に御用ですか?」 「えっと、違くて……」  全然話せない。コミュ障にはハードルの高いミッションだったかもしれない。  てゆうかマリア、メチャクチャ可愛い。大きな瞳、ふわふわの栗色の髪。優しい笑顔。これは人気出るわけだよ。 「どうかなさいましたか?」 「あっ、あの! その、あなたに話があって……」 「私に?」 「実は、相談したいことがありまして……」  俺は目に魔力を集中させた。  このまま話してても俺がボロを出しそうだし、催眠状態にしちゃえば俺が一方的に話をするだけでいい。 「君はとても強い力を持ってる。その力は多くの者を救える力だ」 「私の、力……」 「その力は君が気付いてくれるのを待ってる」 「私……が……」 「そうだ。その力で勇者の助けになれ」 「勇者様……?」  よし、上手くいってる。  この調子で暗示をかけられれば、ミッションクリアだ。 「勇者の元に行って、仲間になるように頼むんだ。君は世界を救う勇者の仲間になれる」 「私が、世界を……」 「そう。君はたくさんの人を救えるんだ」 「わ、たし……が……」  もう一押しだ。これでマリアは勇者を探して、仲間になるように頼みに行くはず。それを見届けて、ちゃんとパーティーに加わったことを確認してクリアだ。 「マリア。勇者が別の街に行く前に、早く……!」 「何をしてるんだ?」  後ろから声がして、俺はビクッと肩を震わせた。  暗示に集中してて気付かなかった。なんでこのタイミングでお前がここに来るんだよ。 「……っ、あら? 私は何を……」  催眠も途中で止まっちゃったから解けてしまった。また最初からやり直さなきゃいけない。  くそ、俺の作戦失敗じゃないか。どうしてくれるんだよ。 「あら、あなたは勇者様ではありませんか」 「こんにちわ、シスター」 「今日はどのようなご用件で?」 「いえ。教会にではなくて……」  どうしよう。早いところここを立ち去らないと。  でも急に逃げ出したら怪しまれるよな。今の俺はただのモブ。なんか適当に話して、ササッとどこかに隠れよう。 「そ、それじゃあシスター、僕はこれで……」 「え? 何か私に話があったのでは……」 「今日はもう大丈夫です。また改めて……」  俺はエルの顔を見ないようにして、二人から離れようと小走りで立ち去ろうとした。 「待って」 「……っ!?」  一歩、足を踏み出した瞬間にエルに声をかけられた。  なんで。俺、どっか怪しいところでもあったか? もしかして顔がちゃんと変化出来てなかった? 鏡ないからそこまで確認できないけど、ちゃんとモブの顔をイメージしたはずなのにな。 「……僕に何か用ですか?」 「……」 「えっと、ちょっと急ぎの用があるんで……」 「こっち来て」  エルは俺の腕を掴み、教会を離れた。  マジでバレてるのか? でもなんで。俺だって気付かれる要素は消したはずなのに。  そのまま連れていかれたのは、村にある小さな宿屋だった。コイツ、今日はここに泊まるつもりだったのか。その辺もちゃんと調べておくべきだったな。

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