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第29話 「嫉妬した勇者」

「こんなところで何をしてるんだ」  部屋に入るなり、乱暴に鍵を閉めながらエルは俺に話しかけてきた。  顔が怖い。なんか知らないけど、怒ってる。  俺、怒られるようなことしたかな。 「えーっと、何のことですか? 僕、店の手伝いがあるので帰してほしいんですが……」 「どのお店?」 「え……えっと……」 「俺が気付けないと思ったの?」 「……思った」  駄目、コイツ怖い。俺はさっさと白状することにした。  俺が人間に化けて村にいることに怒ってるのか? 別に人間を襲いに来たわけじゃないんだけど。  俺は変化を解き、元の姿に戻った。もちろん気配は消したまま。 「あの子と何していたんだ」 「別に……お前には関係ないし……」 「関係ない?」 「お、俺、別にこの村で何かしようとしたわけじゃないし。人を襲おうとかそんな気全くなかったし! 勇者の手を煩わせるようなことなんかしてませんー!」  俺はエルから顔を背け、ベッドに腰を下ろした。  何だよ、コイツ。そんな顔して睨むことないじゃん。そりゃあ勇者からすれば魔物が村に入り込んだんだから、怒るのも無理ないのかもしれないけど。でも俺は人を襲うようなことしないって前にも言ったし。 「もういいだろ。これ以上はもう何もしないから」 「まだちゃんとした理由を聞いてない」 「はぁ?」 「あの子と何してたのかって」 「しつこいな……なんもねーよ」  気にするのそこなのかよ。もしかして俺が無理やり仲間にしようとしたのバレてたのかな。それで怒ってるのか?  でも、別に悪さしようとしてるわけでもないのに、そこまで怒る必要ある?  エルはずっと俺の顔をジッと見てる。圧が凄すぎて本当に怖い。目力が強いんだよ。 「だ、だから……何も……」 「イオリ」 「……っ」  ここで名前呼ぶのってズルくないか。  まぁ今回は勇者様に免じて、俺が折れるしかないのか。  これでもうマリアを仲間にする作戦は出来ないな。 「……あの子を、お前の仲間にしようと思って」 「俺の?」 「ああ。あの子ならお前も気に入ると思って……マリアは回復魔法のスペシャリストになる。だから、勇者パーティーに……」 「言っただろ、仲間はいらないって」 「言ったけどさ……でも、この先仲間がいた方が色々助かるだろ。この間の遺跡だって……」  話を遮るように、エルは俺の肩を押してベッドに抑えつけた。両肩を掴まれてるせいで起き上がれない。なに、この状況。 「そんなこと、しなくていい……」 「わ、悪かったよ。お互いの気持ちを無視して勝手なことして」  エルは黙ったまま、何も言わない。  ずっと眉間に皴を寄せたまま、何かを言いたそうに口を開いては閉じてを繰り返してる。なんなんだ、コイツ。 「……君を見つけたとき、凄く驚いたんだ」 「え? あ、ああ……」 「すぐにイオリだって気付いた」 「俺、ちゃんと変化してたと思うんだけど……」 「そうだね。見た目は完全に別人だったよ」  やっぱり魔法はちゃんと完ぺきだった。つまり気付かれたのはコイツにだけだったってことだな。なら良かった。  もしかして勇者にはこういう変化とか通用しないのか? もしかしてこの前の水晶で作った防具のおかげか。それで分かったのかもしれない。  でも見た感じ、装備の変化はないみたいだけど。 「……お前、この前の水晶は?」 「あれなら今、新しい装備を作るために鍛冶屋に預けてる」 「持ってないのか?」 「持ってないけど?」  じゃあ、俺だって気付いたのはエル自身の力か。勇者のステータスにそんなのあったかな。 「じゃあなんで俺だってわかった」 「分からない訳ないだろ、君のことを」 「は?」 「……君が女の子と一緒にいるの見て、何故か分からないけどムカついたんだ」 「え?」 「魔物でも可愛い人間の女の子に興味があるものなのか?」 「いや、マリアは普通に可愛いけど……別にナンパしてたわけじゃねーし」 「頼むから、もうあんなことしないでくれ……」  ちょっと待て。何言ってるんだコイツは。  つまり俺が女の子に話しかけてるのを見て、怒ってたのか? お前、いつから俺の彼氏になったんだよ。 「嫉妬してたのかよ」 「……」 「バカかよ……お前は勇者で、俺は魔物だぞ。なんでそうなるんだよ」 「仕方ないだろ。本当に気が気じゃなかったんだ」 「……俺は人間の子を好きになったりしねーよ」  なんで俺、コイツにこんなこと言わなきゃいけないんだよ。浮気疑われたみたいじゃんか。変な勘違いしてるんじゃねーよ。  そもそも、お前とそんな関係じゃないし。 「いいから、もう離せよ。あの子にはもう何もしないし、勇者を困らせるようなこともしない」 「……」 「それとも、魔物は見過ごせないか?」 「本来なら、そうだろうね……」 「だったら、俺も本気で抵抗しなくちゃいけない。この村に被害が出るぞ」 「……じゃあ、被害を出さない方向でいく」 「ぇ……」  上に覆いかぶさっていたエルの顔が近付き、俺の唇を塞いだ。  また、かよ。俺の足の間にコイツの足があるせいで逃げられない。またしても身長差のせいで俺は逃げ場を失ってしまったのか。 「んっ、や……ぁ」 「……っ、は」 「ふ、ぅ……」  コイツのキス、ヤバい。  また舌で口の中を舐められまくって、嚙みつくようなキスをされてる。  また背中、ぞわぞわする。キスしてるだけなのに、なんでだよ。 「イオリ……もう力抜けてるよ」 「な、なに、すんだよ……」 「勇者らしくはないけど……君の力を消耗させるためにはこれしかないから」 「え……」 「それに、イオリは俺の気持ちをまだ疑ってるみたいだし……」 「気持ち、って……うわっ!」  エルの手が俺のズボンに触れた。  ベルトのバックルを片手で器用に外し、インナーの裾から手を忍ばせてきた。  直接肌に触れたエルの手が、俺の胸元を撫でるように触ってくる。  なんで。何するの。  怖い。心臓が破裂しそう。 「や、やだ……エル……!?」 「やめてあげない」 「っん!!」  また唇を塞がれ、俺は何も言えなくなった。  なんで、こんなことするんだよ。  怖いよ、エル。

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