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第49話 「もう一度、ここから。」

「勇者の亡骸は、魔王城で弔われたよ」  見舞いに来た蓮が教えてくれた。  蓮も夢を見ていたようで、リドが神剣と共に埋葬してくれたらしい。  リドには世話になりっぱなしだな。もうお礼を言う方法はないけど、物凄く感謝したい。 「そういえば、蓮は俺のこと知ってたって言ってたけど」 「ああ。中学のときの球技大会で少し話したの覚えてないか?」 「球技大会?」 「そう、中二のとき」  中二の球技大会。確か、俺はサッカーをやった気がする。でもすぐ負けて、他の奴らの応援ばかりしてた。  そういえば、そのときに誰かと何かあった。なんだっけ。 「伊織、あのときバスケの試合、見てただろ」 「ああ。そういや、俺のクラスは結構勝ち進んでたからな」 「そう。で、その時に怪我した生徒のこと手当してくれただろ」 「手当て……ああ、他のクラスのやつを一人保健室に連れてったな」 「それ」 「え?」 「それが俺だったの」  え。いや嘘だ。その時のことは確かに覚えてる。俺、保健委員だったからって先生に任されたんだ。  でもそのとき連れてったのは、めちゃくちゃチビで眼鏡かけた子だった。  まさか、それが蓮だったのか? 全然見た目違うじゃん。小さくないし、メガネもかけてない。身長だって俺より高いじゃん。なにそれ、反則だろ。 「成長期怖い……」 「伊織は全然変わってないもんな」 「うるさいな、お前が変わりすぎなんだよ!」 「そりゃあ、チビのままなんてカッコ悪いだろ」  蓮は顔を赤くして、俺の横に腰を下ろした。  カッコ悪いって、誰にカッコつけたいんだよ。てゆうか、そんな理由で身長って伸びるものなのか。だったら俺もカッコつけたいから身長欲しい。 「……あのとき、俺はお前に一目惚れしたんだよ」 「……はぁ!?」 「俺だって驚いてるよ。まさか男に惚れるなんて思ってなかったから」 「い、いやいや! 意味わかんない! なんで俺?」 「わかんねーけど……あのとき見た笑顔が忘れられなくて、気付けば目で追ってた。でも、当時の俺は本当にチビで弱っちかったから声も掛けられなくて……ああ、でも高校は本当に偶然一緒だったんだよ。てゆうか、あの事故まで全然気付かなかったくらいだし」 「……そう、なのか……ああ、電車のときはありがとう。おかげで、助かったよ」  そういえば、と俺は蓮にお礼を言った。  いま、こうして生きているのも蓮のおかげだからな。 「俺も気が動転してたから、あまりよく覚えてないんだけどな。たまたまホームで伊織を見つけて、声をかけようと思ったら線路に突き飛ばされててさ……アイツらのことぶん殴ってやりたかったけど、それよりもお前のことが心配でさ……ホント、目が覚めてよかったよ」 「うん……でも俺は、正直あの世界に少し未練あるよ。俺を助けてくれたみんなに、何も返せなかった……いま、みんながどうしてるのか……気になるし……」 「……もう、お前は魔王じゃないんだ。みんなのこと、信じてやれよ」  蓮が頭を撫でてくれた。  そう、だよな。俺なんかより、リドの方がしっかりしてるし、きっと大丈夫だよな。  俺はクラッドが守ってくれた命を大切にしないといけない。 「それより、さ……伊織」 「うん?」 「この前は勢いで言っちゃったけど……俺で、いいのか?」 「何が?」 「確かに俺は、もう1人のエイルディオンだ。でも、あの世界で過ごしてきたエルとは違う。アイツの心を受け入れたけど……」 「何言ってんだよ」 「え?」  俺は蓮の肩を引っ張り、軽くキスをした。 「俺は、一之瀬伊織は、鴻上蓮が好きだ。エルだからとか、そんなの関係ない。俺がお前を、好きなんだ」 「伊織……ありがとう、俺も好きだよ」  俺たちは、誓い合うように唇を重ねた。  もう離れない。離さない。  ずっと、一緒だ。

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