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番外編「彼が魔王と呼ばれるまでの話」⑩

ーーーー  今となっては懐かしい思い出ですね。  イオリは確かに貴方が望んだように、勇者の認識を見事に変えてくれた。  憧れであり、最愛の存在である勇者と戦う決意を抱いてくれた。  正直、彼が勇者と戦うことを止めようと思ったこともあった。イオリは本当に真っ直ぐで良い子だったから、彼が勇者に殺されるのを見たくなかった。  だけど彼は、立ち向かってくれた。戦ってくれた。  おかげでクラッドの願いは果たされた。 「ありがとうございます、イオリ」  彼と接してるうちに、昔の貴方と一緒にいるような気持ちになりましたよ。  確かに彼はもう一人の貴方でした。そんな彼を私が気に入らない訳がないんですよね。クラッド、貴方はそれすらも見越していたのでしょうか。  全く、ズルい人だ。  なんだか、全てが貴方の思い通りのような気がしてなりません。   まぁ、それはそれで悪くありません。  最後にクラッドにまた会うことも出来た。  世界も変わった。  クラッドの願いが果たされぬまま勇者に殺される未来を阻止できた。  今は魔物と人間との間で交流する者も増えました。私も中立の立場として彼らの仲介役をしています  ねぇ、クラッド。  もしまた出会えたら。私たちの魂が巡って、今度は天使も悪魔も関係なく、何の障害もない関係に生まれることが出来たらいいですね。  いつかまた、貴方の隣を歩める未来が来ることを心からお待ちしています。 ーーーー ーー ー  暗い。  真っ暗で何も見えない。  ああ、我は死んだのか。  そうか。我は。  僕は。  ようやく、役目を終えたのか。  僕が魔王になったとき。何となくだけど、分かっていた。勇者には勝てないんだって。  この世界は神様が大好きな人間のために作った世界だから、魔物である僕は勝つことが出来ない。  だから、悲しかった。  僕のために魔物になってしまった大切な人が、神様に嫌われる存在になってしまったことが。  だから、世界を変えたかった。ただ嫌われるためだけに生まれてくるなんて悲しすぎるから。  だから、こんな運命は僕で終わりにしたかった。  この世界と関係のないイオリを巻き込んでしまったのは申し訳なかったが、彼にしか出来ないと思ったから。  だって僕は悪魔になってしまった天使を愛しているから。人間を想うことは出来なかった。  本気で人間の気持ちを変えるためには、相手と心から向き合うことが大事だと思ったから。  賭けとは言ったけど、イオリなら出来ると思った。言葉にはできないけど、確証があった。  結果、勇者はイオリの心に応えた。彼を愛した。  やはり、必要なのは愛する心だった。  何よりも美しく、尊いもの。  神様が人間を愛するなら、その人間が魔物を愛せばいい。そうすれば世界の認識が大きく変わる。  イオリには酷なことをさせてしまったが、全てが上手くいって良かった。  しかし、イオリの魂と入れ替わった時に僕は死ぬと思っていたが思わぬ誤算があった。まさか向こうの世界の勇者に救われるとは思いもしなかった。  おかげで、僕の心は最愛の人の元へと帰ってこれた。最後にまたリドに会えた。  さすがは勇者と言うべきなのだろうか。  やっぱり、世界を救うのは勇者なのだな。  ああ。  いつかまた。  もし魔王である僕の魂が巡ることを神様が許してくれるのなら。  またお前に逢いたい。  僕だけの天使。

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