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第3話 【守り続けたもの】

 光が落ち着くと、俺達は荒らされた墓標の前にいた。  ここは、魔王城があった場所だ。そしてここはその転生者に荒らされたエルとクラッドの墓ってことか。  酷い。こんなことが平気で出来るなんて。 「……まずは、ここを直そうか」 「ああ」  蓮が手を翳すと、足元に魔法陣が展開した。  そして淡い光が壊れた墓石を包み、元の形に戻していく。さすが勇者。俺の、魔王の持つ破壊の力とは真逆の癒しの力。二人の墓標は綺麗に直された。 「ありがとう、蓮」 「いや。ある意味でここは俺の墓でもあるからね」 「まずは情報収集だな。きっと街とかに行けば何かしらの話も聞けるだろ」 「そうだね。向こうに索敵能力とかがあれば俺らに気付くかもしれないけど……」  そうであればすぐに何かしらの反応を示すはず。向こうにとって俺達は相当な邪魔者だ。放置しておく意味はない。  今のところ何かが近付いてくる様子はない。警戒をしつつ周囲を調べておこう。 「……とりあえず、ここを拠点にしようか。元々お前の城なんだし」 「そうだな。ここなら誰かが近付いてくることもないし……ずっと変化しておくのもキツいもんな」 「それにしても、千年以上経っても城の形がちゃんと残ってるの凄いね。あれからもしっかり管理されていたんだろうな」 「ああ。きっとリドが最後まで守ってくれたんだと思う」  魔王城は、当時ここにいた魔物達が去ってから誰も寄り付かなくなってしまったのかもしれない。  もう城主もいないし、魔物も人間達と暮らしていけてるならこの城も用済みなんだろう。少し寂しいけどそれは良いことだよな。 「クラッドの部屋が残ってればいいけど……」 「軽く城の中を歩こうか」 「うん」  俺は浮遊の魔法を使い、宙に浮いた。さすがにこの広い城の中を歩くと疲れる。それはすでに経験済みだ。 「いいなぁ、浮けるの」 「お前は出来ないのか?」 「魔法は苦手なんだよ。前はガグンラーズがいてくれたおかげで魔力制御とか出来たんだけど……」  そうか。勇者の馬鹿デカい魔力を扱いきれてないのか。今も駄々洩れだもんな。  仕方ない。俺は蓮の肩に触れ、溢れ出る魔力を少しだけ吸い取った。今後は自力で魔力制御できるようになってもらわないとな。 「ありがとう、伊織。俺、この世界にいた時も力に目覚めた時から神剣がいて制御の仕方を覚える必要なかったからさ」 「さすが神様に愛された勇者様だな。お前、ずっと蛇口を捻ったままみたいな状態だぞ。今までは無尽蔵な魔力を神剣が吸収してたから平気だったんだろうけど、今後はそうもいかない。その蛇口を閉める方法を考えないとな……」 「伊織は出来るの?」 「お前と違って俺の魔力は無限に湧くものじゃないんだよ。てゆうか、お前が出鱈目なんだよ」 「そっか。でも魔力切れ起こしてたこともあったよ?」 「ん? ああ、そうか。つまり今までは神剣が調整してくれていたんだよ。神剣が蛇口のハンドルだったんだよ。これは早く神剣を取り戻さないと駄目だな」  暫くは俺がコイツの魔力管理をしてやらないと駄目だな。  幸い、俺の魔力の許容量もぶっちゃけ出鱈目だ。これはクラッドのおかげだな。魔王様様だ。  俺は気配を遮断できるし、蓮の魔力を可能な限り吸い取っておけば勇者の存在を向こうに隠せるかもしれない。これなら相手に気付かれずに情報を探れそうだ。 「なんか魔力を貯められるものが欲しいな」 「なにそれ」 「ずっとお前の魔力を吸い取っておくのは無理だし、膨大な魔力を抱えておくのは疲れる。だから一時的に魔力を貯めておける物が欲しいってこと」 「貯金箱的な?」 「まぁ、そんな感じだな。魔王の、クラッドの部屋に色々と宝石類もあったからそれが残っていれば使えるかもしれない」  さすがに千年も経ってたら無くなってるかもしれないけど、一応探すだけ探してみないとな。  俺は記憶を頼りにクラッドの部屋へと向かった。城の中が半壊してるせいで構造が分かりにくいけど、道順は何となく覚えてる。  懐かしい。こんな状態だけど、確かに魔王城だ。俺の記憶にある魔王城だ。 「あった、あの部屋だ」  ちょっと不安だったけど、ちゃんと部屋の形を保ってる。  ドアを開けて中に入ると、思った以上に綺麗な状態で残ってる。ベッドは埃かぶってるけど、布は傷んでいない。でもどうして。千年も経過してたら跡形もないはずなのに。 「……あ」  部屋の中に微かに残ってる魔力。  これは、リドのものだ。そうか、リドは死後もこの部屋を守り続けていたんだ。この部屋を、魔王城を守るための魔法をかけていたんだ。  きっと、クラッドの墓標を守るために。  余計に許せない。そんなリドの思いまで踏み躙ったんだもんな、例の転生者は。 「……蓮。この部屋、直せるか?」 「うん。損傷も少ないから大丈夫」  蓮が魔法陣を展開する。  部屋中の砂埃を取り払い、割れた窓や壁を直していく。  ありがとう、リド。お前にはまた助けられたな。 「これで良し。にしても凄いね、千年も続く魔法って。それだけ術者の思いが強いんだろうな」 「うん。リドはクラッドを守り続けたんだろうな……本当に凄いよ。だからこそ、負けたくない。許せない」 「ああ。絶対に勝とう」  俺達は拳を突き合せた。  クラッドの願い。リドの思いを、今度は俺が守るんだ。

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