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第4話 【過去からの贈り物】
クラッドとリドが残してくれた魔王城。
ここが敵に乗っ取られていなくて良かった。でも根城にするには絶好の場所だったはずなのに何でここをアジトにしなかったんだろう。
さすがに千年以上経ったこの世界はもう俺の知ってるアイゼンヴァッハとは違うだろうから、もう地理が分からない。国もダンジョンも何もかも変わってると思っていいだろう。
どこか街に行って地図とか買いたいな。
そのためにも、まずは蓮をどうにかしないと。
「うーん……どうしようかな」
「宝石じゃないと駄目なのか?」
「いや。単純にお前が身に着けていられるものであれば何でもいいけど」
「なるほどー」
俺達は部屋の中を調べた。
魔王城は基本的に変わってないな。俺が使っていた時のままだ。懐かしくて少し目の奥が熱くなってくる。
「……蓮。お前の初期装備に何かないの」
「特に何もないかな」
蓮は自分の体を触ってみるが、アイテムなどは何も持っていないようだ。俺も何も持ってない。
神剣は俺らの体を用意するだけで精一杯だったみたいだし、さすがに装備品まで期待するのは駄目だよな。
「あ。伊織、これは?」
「ん?」
「この箱、全然開かないんだけど」
手招きされ、俺は蓮の元へと歩み寄った。
本棚に置かれた小さな箱。蓮が蓋を開けようとしてもビクともしない。何か鍵でも必要なんだろうか。
「そんなの、前はなかったと思うけど……」
「ここにあるなら魔王の私物じゃないの?」
「うーん……」
俺はそれを蓮から受け取った。
その箱が俺の手に置かれた瞬間、小さくカチっという音が聞こえた。
「……ん?」
「今の音って、もしかして開いたの?」
「え、何もしてないのに」
「もしかしたら伊織が触れたら開くようになっていたとか」
「まさかそんな……」
俺は恐る恐るその箱を開けてみた。
中に入っていたのは白銀に輝く二つの指輪。その中央には赤い宝石が埋め込まれていた。
まるでペアリングみたいだ。もしかしたらクラッドかリドが用意しておいたものかもしれない。さすがにこれは使うわけにはいかないな。
箱を閉じようと蓋に触れた時、その指輪が光を放った。
「っ!?」
「うわ!」
その光から声が聞こえた気がした。
懐かしい声。優しくて柔らかな囁き。
――もし、また貴方がこの世界に来たときの役に立つように。
その光が収まると、箱の中にあったはずの指輪が俺達の指に嵌っていた。
リド。お前はいつも用意がいいな。先を見越しすぎててちょっと怖いよ。でも助かる。ありがとう。
俺は左手の薬指に付けられた指輪にそっと触れた。
「結婚指輪みたいだね」
「……え、あ!?」
ニッコリ笑う蓮に、俺は遅れて気付いた。
そうか、この指に嵌める意味ってそういうことか。リド、そこまで気を回さなくていいんだよ。さすがに恥ずかしいだろ。
「と、ととととにかくその指輪に魔法陣を刻む。俺とお前にパスを繋いで、指輪を経由して魔力を俺に送るようにするから」
「それで伊織の方は大丈夫なの?」
「俺のこの体は魔王のものだからな。お前が無尽蔵の魔力精製機だとしたら、俺は上限の無いのタンクだ。問題はない」
「そっか。じゃあ二人で一つだね」
「嬉しそうだな」
「だって、この世界での俺達は敵同士だったからさ。こうして勇者と魔王が共闘できるなんて胸熱な展開じゃん」
「……まぁ、分からなくもないけど」
確かにそうだな。前にこの世界に来たときは殺し合う間柄だったんだもんな。
それが今は肩を並べて戦うことができる。これ以上ない頼もしい仲間だ。
俺は蓮の手を取り、魔法陣を展開する。互いの指輪に紋章を刻み、パスを繋いだ。その瞬間から蓮の魔力が流れ込んでくる。
温かい。体中を包み込むような魔力。まるで蓮そのものだな。常に蓮に抱きしめられてるような感覚がして、ドキドキする。
「……ちょっと、慣れるまで時間かかりそう」
「そう?」
「あ、ああ」
「顔赤いけど」
「うるさい、見るな」
人の魔力を受け取るってこんな感じなのか。
なんか、体が痺れてるみたい。ちょっとの刺激だけで過剰に反応してしまう。
早く慣れないと。流れ込んだ魔力を自分のものに変換すればいい。意識を集中させて、水をろ過するイメージで。
集中。集中。集中、したいのに。
「……伊織、平気?」
蓮の手が俺の頬に触れる。
うわ、それヤバい。どこ触られてもビリビリする。
今はそんな場合じゃないのに。急がなきゃいけないのに。
体が、熱い。
「伊織」
「れ、ん」
「そんな顔しないでよ。俺、ずっと我慢してたのに」
蓮がそっとキスをした。
柔らかい感触に背中が震える。
「ガグンラーズに邪魔されてから、ずっと我慢してたんだけどな……」
「ご、めん……すぐに慣れるから」
「うん。でも今はお互いにこのままじゃ戦いに集中できないでしょ?」
そう言って蓮は俺を抱き上げてベッドに運んだ。
一度発散させないと駄目かもしれない。俺はそのまま蓮を受け入れた。
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