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第6話 【街探索】

 朝になり、俺達は身支度を済ませて近くの街に行ってみることにした。  俺は元の自分、一之瀬伊織の姿に変化して魔力も抑えてる。今は勇者の魔力タンク役でもあるから、さすがに抑えておかないと一般人には圧を与えてしまうかもしれない。  それに敵に気付かれたくもない。万が一、向こうに勘付かれて街中で戦いになるのは嫌だし。  どこか誰もいない場所で思い切り魔力を発して敵をおびき寄せるのも有りだけど、一応情報を集めておかないとな。もし向こうが勇者対策とかしてたら困る。  だって相手の体は魔王のものだ。唯一の弱点である勇者を警戒しててもおかしくはない。エルの魂が異世界にいるもう一人の自分の中に宿ってるなんて俺と蓮にしか分からないことだからな。 「蓮、行くぞ」 「はぁーい」  俺達はここから一番近い街へと向かった。蓮は空を飛べないし浮遊の魔法も覚えてないから、俺がコイツを持って空を飛ぶしかない。勇者の肩を掴んで空を飛ぶ魔王って、なんか傍から見たら異様な光景じゃないかな。  上空からザックリ見た感じでもう既に俺が知ってるマップとは全然違う。どの辺が中央に当たるのかも分からない。だからまずは地図が欲しい。マップを把握できないと敵の場所も見当つかないし。  街から少し離れた場所で降り、街の中へと入っていった。 「結構賑わってるな」 「うん。それに普通に魔物が歩いてる」  本当に変わったんだな。人間と魔物が普通に話をしてるし、魔物が営業してる店もある。  クラッドに見せてあげたかったな。こんなにも楽しそうに暮らしている魔物達の姿を。 「そういえば、地図ってどこにあるんだろう? てゆうか買うお金は?」 「いや、買う必要はない。一度見れば覚えられるから」 「マジで? 俺、リアルでもゲームでも迷子になるんだけど」 「蓮、方向音痴だもんな」  俺が学校復帰するときだって迎えに来るとか言っておきながら迷子になりやがって、結局俺がコイツを迎えに行く羽目になったもんな。復帰初日から遅刻とか笑えたよ。 「それにしても、普通だね。例の奴、そこまで大掛かりなことはまだしてないのかな」 「違う大陸にでもいるのかもしれない。そうなるとちょっと面倒くさいな」 「てゆうか、俺お腹空いたんだけど」 「ああ、そっか。何も食べてないもんな」  俺もお腹は空くけど、人間ほど毎日腹を空かせるわけじゃないから気が付かなかった。そうなるとやっぱり金は必要だな。  何かクエストとかそういうのがあれば小銭くらい稼げそうなんだけど。  俺は周りを見渡し、露店を開いているおばさんに声をかけてみることにした。 「すみません、ちょっといいですか?」 「おや、いらっしゃい!」 「ああー、いや。客じゃないんですけど、この辺でお金を稼げそうな場所ってありますか?」 「お兄さんたち、旅の人かい? それなら酒場の掲示板に依頼書が貼ってあるからそれをやるといいよ。薬草取りでもあるからさ!」  酒場にクエストの依頼書があるのか。ゲームにはなかったシステムだな。この千年で変わったのは街並みだけじゃないんだな。  俺はおばさんに礼を言って、その酒場に行ってみることにした。 「クエストか。まぁ俺ら二人ならそこそこ難易度の高いものもクリアできそうだよな」 「どういうのがあるんだろうね」 「昔だったらモンスター退治だろうけど……今なら何だろう。ちょっと分からないな」 「薬草取りとか簡単そうでいいよね」 「楽だろうけど多分食費の足しにもならないぞ」 「そうなの?」 「あくまで俺がやったゲームでの基準だけど……危険生物の退治とかそういうやつの方が儲かるんじゃないのかな」  魔物とは別に人に害をなす生物はいる。毒をまき散らしたり自然に影響を及ぼしたりするような奴。クラッドが魔王だったときは倒さずに周囲に結界を張ったりしていたっけ。今はそういうことをする奴がいないから野放しにされてる可能性は十分あるな。 「とにかく、情報を集めながらクエストをある程度こなそう。それにお前の武器も必要だろ」 「そっか。神剣がないから代わりの武器が必要なのか」 「でも勇者の武器って普通のでいいのかな。耐久度がないとお前自身の力に負けちゃうんじゃないのか?」 「うーん。ガグンラーズ以外の武器を使ったことないから分かんないな」  そうなると食費だけじゃなくて装備代も稼がないと駄目だな。それもかなり強い武器が必要だ。腕の良い鍛冶屋の情報も必要ってことか。  これは結構時間かかりそうだな。

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