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第9話 【人喰い龍討伐クエスト3】
山の麓に降り、俺達は龍との約束を守るために転生者に滅ぼされてしまった村へとやって来た。
悲しくなるほど、そこにはほぼ何も残ってはいなかった。
焼け焦げた地面に、辛うじて残った家だったもの。殺された人達は皆、跡形もなく消されてしまったのだろうか。
「酷いね……」
「あぁ……」
蓮の手から微かに血の匂いがする。短い爪が食い込むほど、拳を握りしめているんだろう。
転生者は何が望みなんだ。そんなに力を誇示して、破壊を繰り返して、最終的にはどうしたいんだ。
理解なんてしたくないし、する気もないけど、向こうの意図が何も分からないのも気持ち悪い。
敵の素性がもう少し分かればいいんだけど。
「伊織。俺、君やクラッドが魔王だったときにこんな光景は見たことがなかったよ」
「……だろうな」
「許せない。絶対に……」
蓮の足元に魔法陣が展開される。
周囲が淡い光に包まれ、焼け焦げた地面から青白い光の玉が浮かんだ空へと登っていった。
あれは、この場所に留まっていた村人たちの霊魂か。癒されることもなく悲しみを抱いたまま成仏できなかった人達。
それが今、勇者の癒しの力でようやく解き放たれた。
「……どうか、安らかに」
蓮の瞳が涙で揺れる。
俺も目を閉じて、彼等の魂の冥福を祈る。
ーーー
ーー
街に戻り、俺らはドドーリーさんに事情を話した。
退治したと言っても良かったけど、あの龍を悪者にしたくはなかった。
「そうですか……あの龍も被害者だったという訳ですね」
「はい。もし良かったら、あの山脈の近くに祠か何か建てて貰えませんか? そうすれば、あの龍も本来の力を取り戻すはずです」
「ええ、勿論です。では、約束の報酬をお渡ししましょう」
ドドーリーさんは執事に声を掛け、小さな紙を持ってこさせた。
全額をここで渡すと荷物になるので、小切手を用意してくれたらしい。大きな街には必ず銀行みたいなところがあるそうで、そこで引き出せるそうだ。
それからもう一つ、ミズドの宝玉。綺麗な宝石箱に入ったそれは、薄紫色に輝いていた。
「綺麗だ……」
「凄いね。この石、強い力を感じる。なんていうのかな、生命力みたいな?」
「ああ……あの、ドドーリーさん。これを武器に鍛えることの出来る腕のいい鍛冶師とかにご存知ないですか?」
「鍛冶師ですか。そうですね……北にあるノイングリフ国にいるガッドという鍛冶師がいまして、彼なら満足のいく物を作ってくださると思いますよ」
「北、ですか」
転生者のいる南とは逆になっちゃうな。
でも仕方ない。急がば回れって言うし、焦ってもいいことはないだろう。
俺達はドドーリーさんにお礼を言って、屋敷を出た。
外に出て、俺は地図を広げた。
教えてもらったノイングリフ国は思った以上に遠い。山を二つほど越えて行かなきゃ駄目みたいだ。
さすがに知らない場所には転移も出来ないし、少し急いで行った方がいいかもな。
「ここからは俺と蓮で交互で飛ばすか」
「どういうこと?」
「さすがに何日もお前を抱えて飛ぶのは疲れるだろ。だから、途中はお前が俺を抱えて走れ」
「なるほど。別に俺一人走ってもいいけど?」
「それは俺が嫌だ」
恥ずかしいし、蓮にばかり面倒なことさせたくないし。
とりあえず今日は魔王城に戻って休もう。
一度行った場所なら転移出来る。俺らは食料を買ってから街を出て、周りに誰もいないのを確認してから転移魔法で魔王城に戻った。
元々食堂があった場所を蓮に修復してもらい、俺達は食事をとった。
千年以上経ってても、食べ物はそこまで変わらないな。料理の名前とかは多少の変化もあったけど、困るほどではなかった。
「それにしても、蓮は武器がないと困るな」
「そうだね。力任せに魔力を放つことしか出来ないから、何か武器があった方がいいね」
「龍の周りに結界張ってなかったら山が吹っ飛んでたぞ」
蓮が攻撃を放つ瞬間に慌てて結界を張ったけど、間に合って良かった。急ごしらえだったから、衝撃波で軽く壊されたけど。
でも、ミズドの宝玉がどれほど耐久力があるのか分からない。もしかしたら蓮の力に耐えきれずに壊れる場合もある。その辺も考慮しておいた方がいいだろうな。
「今日は大人しく寝るぞ」
「えっ」
「え、じゃない。何もしないからな。明日に備えて休まないと……」
「…………そっか、そうだよね」
あからさまにしょんぼりしやがって。
暫くはお預けに決まってるだろ。
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