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第8話 【人喰い龍討伐クエスト2】

 街を出て、人喰い龍の住処となっているグロンガ山脈という場所へとオレらは向かった。  去り際にドドーリーさんが地図をくれたおかげで大体の場所は把握出来た。俺はまた蓮の肩を掴んで空を飛ぶ。 「これ、ちょっと怖いんだけど」 「慣れろ。移動はこっちの方が早いだろ」 「俺なら走れるよ」 「体力は温存しておけ。まぁ、戦う必要ないかもしれないけど」  その龍と話が出来れば、敵の情報を聞き出したい。  突然現れた人喰い龍に、自称魔王。この二つが繋がらない訳がない。  話が出来なくても、行動不能にするだけで敵側に反応があるかもしれない。 「伊織、その敵はとりあえずぶっ飛ばしていいの?」 「まぁ話が出来る程度には」 「了解。それなら任せてよ」 「勇者がいると頼もしいな」  てゆうか、蓮は武器持ってないけど大丈夫なのかな。魔法も使えるだろうけど、勇者が攻撃魔法使ってるところってあまり見ない。  勇者専用の魔法もあるはず。俺と戦ったときは使わなかったけど覚えてないのかな。いや、さすがにそれはないか。  数十分くらい移動したところで、ようやくグロンガ山脈が見えてきた。  一般人が立ち入らないように結界が張られてる。ある程度力のある者しか通れないようにしてあるんだな。  まぁ俺も蓮も軽く素通りできちゃうんだけど。 「山の頂上に強い力を感じる。龍はそこにいるはずだ」 「他に人の気配もないから邪魔は入らないね」 「この依頼書は誰も取ろうとしてなかったからな。他の街や他国でも手配書は出回ってるはずだけど怖くて近寄れないらしい」 「そんなに強いんだ」 「らしいな。でも、お前もそうだろうけどこの山に入ってから感じる気配に少しもビビってないだろ。つまり俺達は龍より上だ。問題ない」  多分、ここの龍は元々そんなに強かった訳じゃないんだ。上から上乗せされた魔法か呪いのせいで暴れてるだけ。人を喰らったせいで余計に呪いが濃くなって、多少は強くなったかもしれないけど。  例の奴が自分の力をひけらかす為に龍を利用したのかもしれない。 「少しずつ近付いてる。蓮、上から落とすぞ」 「了解!」  俺は一気に山を登り、龍の頭上へと高く飛んだ。  龍が俺達の魔力に気付き、威嚇してくる。  俺らなんて簡単に飲み込めそうな大きな口を開き、炎を吐き出そうとしてる。  俺はその口に向かって、蓮を降ろした。 「いいか、殺すなよ」 「わかってる!」  蓮は落下する勢いに任せて、自身の拳に魔力を込めて思い切り殴りかかった。  直接は当たってない。龍に当たったのは拳から放たれた衝撃波だけだ。それだけでも周囲の木々を吹き飛ばす威力がある。  たった一撃でこれか。武器がないとアイツの力を制限するものがないから攻撃も派手になるな。  重たい一撃を食らった龍の攻撃は取り消され、フラついてる。  俺は龍の前に移動し、動けないように重力波を放って行動を制限させた。  目の色が濁ってる。龍の中の魔力もグチャグチャに乱されてる。酷い状態だ。 「山の主よ。あなたは本来、人に害をなすものではないはずだ。自身の役割を思い出せ」  龍がグルルルと唸り声を上げて、その目に俺を映す。俺に襲いかかる様子はない。蓮の一撃でもう動けやしないだろうけど。  元から人喰い龍であれば、ずっと昔から恐れられているはず。でもこの龍が暴れ回ってるのは最近からだ。  それに、ここまで近づいてようやく分かった。  この龍に掛けられてる呪いが龍の神聖を捻じ曲げてる。痛くて苦しくて、助けて欲しかったんだろうな。襲いたくもないのに人間を襲うように仕向けられて、辛かっただろう。  もう大丈夫だ。 「あなたの尊厳を取り戻そう」  俺は龍の鼻の頭に手を置き、抑えていた魔力を解き放った。その魔力波で龍の体から呪いを引き剥がす。  ほんの一瞬だけだから、周囲に影響は与えてないはず。さすがに俺の魔力を完全に放ったら近くにいる人が死ぬ可能性もある。今は俺だけじゃなくて勇者の魔力も溜め込んでるからな。  あとは、この魔力に敵が気づくかどうか。呪いが消えたのを確認して、またすぐに魔力は抑えたから大丈夫だと思うけど。  正気を取り戻した龍は、静かに唸り声を上げて俺に頭を下げた。  濁っていた目も綺麗な蒼に戻ってる。もう心配ないな。 「ありがとうございます。魔族の王よ」 「俺を知ってるのか?」 「龍は長生きですから。貴方のお姿を拝見したのはまだ幼き頃でございましたが、またお会い出来るとは……」 「訳ありなんだ。それに、あなたが会ったのは俺じゃなくてクラッドだろうし……まぁいいや。それよりも、一体何があった?」 「……恐ろしい力を持った者が現れました」  龍が話してくれた。  やっぱり龍に呪いをかけたのは神剣が言っていた転生者だった。破壊の限りを尽くし、この近くにあった村を滅ぼしてしまったそうだ。その村は龍を信仰していたようで、社をなくした龍は弱ってしまったせいで呪いを自力で払うことが出来なかった。  しかし、ソイツは自分の力を扱いきれていないようで、龍に呪いをかけたあとは南の大陸に去っていったらしい。  魔王の体も勇者の神剣も、ソイツには過ぎた力だ。それでも力を暴走させるだけでも十分な破壊力。むしろ正しく使えていない方が行動を予測できなくて厄介かもしれない。 「ここの結界は張り直す。もうソイツが近づいてくることはないはずだ」 「ありがとうございます。それと、一つお願いがあるのですが……」 「俺に?」 「この山の麓に、村があります。もうその者のせいで誰一人残ってはいませんが……どうか、弔ってください……」 「わかった、約束する。それと俺からもお願いがあるんだけど……何か体の一部でも貰えないか。もう龍が暴れる心配がないことの証明をしないと……」  そう言うと、龍は目を閉じて俺の前に一つの光り輝く石を降らした。  まるで空から零れた雫のようだ。キラキラと輝く一粒の石。手に取ると、ほんの少しだけ暖かい。 「それは、龍の涙でございます。どうぞ、それをお持ちください」 「ありがとう」  俺は龍の足元でずっと黙ったまま様子を見てた蓮の肩を掴み、山を降りた。  なんで話に入ってこなかったのか聞くと、割り込めるタイミングがなかったと少し拗ねたように言ってきた。 「それにしても、さすが魔王様だね。あの龍も助けられて良かった」 「そうだな。敵の情報も手に入ったし、この龍の涙を見せれば依頼は完了だ」

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