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第15話 【最後の戦いへ】
約束の日が来た。
俺達は朝からガッドさんの工房へと向かった。
早朝。遠くの山から覗く太陽が、真っ白な雪をキラキラと照らしてる。
少しだけ、ドキドキしてる。
勇者のために作られた武器は、どんなだろう。
「おはようございます」
「おう、よく来たな」
ドアを開けると、ガッドさんが待っていた。
その手には、布に包まれた剣がある。
これを手にして、俺達は転生者と戦う。奪われたものを、取り返しに行くんだ。
「早速だが……レン、手にしてくれるか」
「はい」
蓮がガッドさんから剣を受け取った。
包まれた布を取ると、美しい装飾の施された鞘に納められた剣が現れた。
凄い。まだ鞘にある状態なのに、その強さをひしひしと感じる。少ない時間で、これ程のものを作れるなんて。
ガッドさんは本当に凄腕の鍛冶師だ。勇者を見抜けたその目といい、本当に素晴らしい。
「……凄い。まるで初めて神剣を手にした時のような感覚がある」
「ほう。勇者様にそう言われると職人冥利に尽きるね。神剣には及ばないだろうが、ミズドの宝玉には精霊の加護が付いてる。そう簡単には壊れないはずだ」
「はい。ありがとうございます!」
蓮が鞘から剣をゆっくりと抜いた。
青みがかった刃。朝日を受けて輝く海のような眩しさだ。
正しく、勇者のための剣。
「すぐに行くのか」
「はい。向こうがいつ動き出すか分かりませんし」
「そうか。それじゃあ、この世界を頼みますよ。勇者様」
「はい。すぐにまた船を出せるようにします」
「頼むぜ」
俺たちはガッドさんに例を言って、工房を出た。
これで準備は整った。
あとは、南のモードノッズ大陸へと行くだけ。
「帰りはどうする? また俺が走る?」
「その必要はない。一度行った場所には転移できる」
「あ、そうだったね。忘れてた」
俺は魔法を展開して、魔王城へと一瞬で転移した。
久々に戻ってきた魔王城。
南の大陸へと行くなら、魔王城から移動した方が近いからな。
「蓮。心の準備は出来てるか」
「いつでも大丈夫だよ」
「そうか。さすがだな」
「伊織は?」
「俺も大丈夫。早くクラッドの体を取り戻さないと……」
いつまでも転生者なんかに奪われたままになんかしたくない。
生まれ変わった二人に出会ったからこそ、余計にそう思う。
「負けたくない」
「俺も同じ気持ちだよ。この世界にはもう、勇者も魔王も必要ないんだ」
「ああ。本来、俺達は不要の存在だ。この世界にとって異物でしかない異世界の住人なんだ。だから今度こそ、終わりにしないといけない」
俺は何度か深呼吸を繰り返した。
これは俺らにしか出来ないこと。
異物を取り除けるのは、異物である俺達だ。
「行くぞ、蓮」
「うん。行こう、伊織」
蓮は手に持っていた剣を腰に装着した。
気合いは十分。
あとは。やれることをやるだけ。
俺達は勇者と魔王の墓に手を合わせて、目的のモードノッズ大陸へと向かった。
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