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第16話 【最悪の再会】
海を渡るのは今までの山越えよりもずっとキツイな。
疲れても降りることは出来ない。それに、段々と重たい空気が漂ってきてる。それだけ敵の本拠地が近付いてるってことだな。
負ける気はしてないけど、手に嫌な汗をかく。
この異常なまでに重たい空気のせいだろうか。どす黒い空気が肌にまとわりついて気持ち悪い。
「伊織、敵の場所の目星はつく?」
「ああ。クラッドの気配を辿ればいい。敵の体はクラッドの骨を使って出来てる。だから僅かでもクラッドの気配を感じられる」
「了解。それなら迷わなくて済むね」
「お前じゃないんだから迷ったりしない」
「アハハ、そうだね」
蓮の肩をぎゅっと握り締め、俺はさらにスピードを上げた。
段々と陸地が見えてきた。
真っ黒な大地。真っ黒な雲。露骨なまでに暗黒。
悪趣味だな。
「……伊織」
「ああ、分かってる」
真っ黒に見えた大地の上。俺達を待ち伏せていたかのように、魔物達が群れを成してる。
これも転生者の仕業か。明らかに俺達に殺意を向けてる。俺達が近付いてきてるのに気付いて、各々武器を振りかざしている。
ふざけやがって。一年前、クラッドが何のために命を懸けて俺を呼んだと思ってるんだ。こんな無益な争いを産まないためだ。
「蓮。俺を見失うなよ」
「わかった」
「それから、絶対に殺すな。魔物は腕や足を切り落としたくらいなら死なない」
「行動不能に出来ればいいんだね。了解」
陸地に着き、俺は蓮を魔物達の中へと落とした。
俺は空から転生者がいるであろう場所へと向かいながら、襲い来る魔物達の動きを止める。陸を移動する蓮は、ガッドさんから受け取った剣で敵の四肢を奪っていく。
流れるような、舞うような、一切の無駄のない動き。目の前の敵を相手にしながらも、ちゃんと俺についてきてる。
あの剣、本当に凄いな。勇者の強大な魔力は武器に相当な負荷がかかるのに、壊れる気配がない。むしろ吸収して力を十分に発揮してる。
ひたすら前に進んでいくと、目の前に大きな城のようなものが見えてきた。
見るからに禍々しい城。あの中からクラッドの気配がする。
「蓮!! 目の前の城が見えるか!」
「ああ、見えてるよ!」
「よし、じゃあ突っ込め!」
「了解!」
蓮は全身に魔力を纏い、弾丸のように城の門を貫き、扉へと突っ込んでいった。
その後ろに続き、俺も城の中へと入っていく。
壊した扉の残骸がパラパラと降ってくる。
城の中も真っ暗なのか。壊したドアから入る微かな光で、うっすらと見える程度。
見た感じ、ここは王の間。薄汚れた絨毯が真っ直ぐと伸びていってる。その先にあるのは、おそらく玉座。
俺達は一歩一歩、前に進む。
いる。間違いなく、そこにいる。
そいつは俺達が近付くにつれて、下卑た笑い声を零してる。
「ようやく来たのか。お前らが勇者と元魔王か?」
人を馬鹿にしたような口調。
喋ってるだけでこんなに耳障りな声は初めてだ。
そいつが立ち上がる気配がした。俺らは警戒しながら、構える。
周囲のロウソクが一気に灯り、部屋が明るくなった。
突然入ってきた光に目が眩む。目を薄めながら、俺は目の前の敵を見た。
見た。
見て、しまった。
「……っ、あ」
何も攻撃を受けてないのに、腹が痛くなった。
吐きそう。
体が震えて、声が出ない。
「伊織? どうしたの?」
「……っ」
蓮が俺の異変に気付いて肩を支えてくれた。
お前は覚えてないのか。
そうか、別のクラスだったしマトモに顔合わせてなかったのか。
でも納得した。コイツなら、確かにこの世界を滅ぼそうとするのかもしれないな。
「……加治」
俺をいじめていたリーダー格、加治《かじ》だ。
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