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2.だいたいね

だいたい。 私が海里を恋愛感情的"好き"になれるわけがない。 人間としては……まあ……ぎりぎり嫌いじゃない。 ぎりぎりの及第点だ。 崖っぷちの。 海里。 恐らく本名じゃない。 名前を聞いたときに "海里でいいや、じゃあ"と言っていた。 いいやってなんだ。 じゃってなんだ。 何処の誰だか知らない。 私は海里について何も知らない。 ほぼ酔い潰れた状態で家路についていたら、突然海里が絡んできたんだ。 「なあ、おっさん……大丈夫?」って。 初対面の人間におっさんは酷い。 そもそも、あいつもそこそこおっさんだ。 その後の記憶がいまいちない。 気付いたら、海里がうちに住み着いていた。 何度か追い出そうと試みたが、友梨は海里になついてしまうし、私の姉はおかしな勘違いで海里にやたら同情的。 追い出せなくなった。 うちで海里は"実の父親に暴力を振るわれ続けて逃げ出してきた"ってことになっている。 本当かどうか知らない。 "行くところが出来たら出ていけよ"と言うと、今にも泣きそうな顔をされる。 普段をおちゃらけたアホの癖に、突然しおらしくなって"なあ……俺ってやっぱりいると迷惑?"なんて聞いてくる。 "そんな顔するならいればいい" "迷惑だったら叩き出してる" あいつの悲しそうな表情が、なんだか胸の奥をざわつかせて不快だから、ついそんなことを返す。 すると、あいつは少年のような心底幸せそうな笑顔を見せるわけだ。 その笑顔は、海里が見せる数少ない本音な気がして嫌いになれない。 そんなことを繰り返していつの間にか、私も追い出そうという気力が失せて、何気なく三人で生活していた。 言いたくはないが、あいつのつくる料理は美味い。 特に味噌汁が。 友梨はオムライスが一番だと言っていた。 オムライスといえば、いつぞやの雨の日。 友梨と二人で駅まで迎えに来てくれた。 友梨を真ん中に挟んで、三人で帰った。 そんな風に三人で歩いたことは他にもあって、いつぞやの日曜日には……。 ……。 思い返せば、ここ最近楽しいと感じた時には、海里と友梨がいる。 ずいぶん毒されたもんだ。 "たのしかった。 ありがとう、和之さん" ふと、海里が真面目腐って言う言葉を思い出した。 和之さん。 普段"おっさん"と呼ばれるから、和之さんなんて呼ばれるとなんだか駄目になりそうだ。 ずいぶん毒されている。 海里のことは……まあ嫌いじゃない。

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