2 / 2
2.だいたいね
だいたい。
私が海里を恋愛感情的"好き"になれるわけがない。
人間としては……まあ……ぎりぎり嫌いじゃない。
ぎりぎりの及第点だ。
崖っぷちの。
海里。
恐らく本名じゃない。
名前を聞いたときに
"海里でいいや、じゃあ"と言っていた。
いいやってなんだ。
じゃってなんだ。
何処の誰だか知らない。
私は海里について何も知らない。
ほぼ酔い潰れた状態で家路についていたら、突然海里が絡んできたんだ。
「なあ、おっさん……大丈夫?」って。
初対面の人間におっさんは酷い。
そもそも、あいつもそこそこおっさんだ。
その後の記憶がいまいちない。
気付いたら、海里がうちに住み着いていた。
何度か追い出そうと試みたが、友梨は海里になついてしまうし、私の姉はおかしな勘違いで海里にやたら同情的。
追い出せなくなった。
うちで海里は"実の父親に暴力を振るわれ続けて逃げ出してきた"ってことになっている。
本当かどうか知らない。
"行くところが出来たら出ていけよ"と言うと、今にも泣きそうな顔をされる。
普段をおちゃらけたアホの癖に、突然しおらしくなって"なあ……俺ってやっぱりいると迷惑?"なんて聞いてくる。
"そんな顔するならいればいい"
"迷惑だったら叩き出してる"
あいつの悲しそうな表情が、なんだか胸の奥をざわつかせて不快だから、ついそんなことを返す。
すると、あいつは少年のような心底幸せそうな笑顔を見せるわけだ。
その笑顔は、海里が見せる数少ない本音な気がして嫌いになれない。
そんなことを繰り返していつの間にか、私も追い出そうという気力が失せて、何気なく三人で生活していた。
言いたくはないが、あいつのつくる料理は美味い。
特に味噌汁が。
友梨はオムライスが一番だと言っていた。
オムライスといえば、いつぞやの雨の日。
友梨と二人で駅まで迎えに来てくれた。
友梨を真ん中に挟んで、三人で帰った。
そんな風に三人で歩いたことは他にもあって、いつぞやの日曜日には……。
……。
思い返せば、ここ最近楽しいと感じた時には、海里と友梨がいる。
ずいぶん毒されたもんだ。
"たのしかった。
ありがとう、和之さん"
ふと、海里が真面目腐って言う言葉を思い出した。
和之さん。
普段"おっさん"と呼ばれるから、和之さんなんて呼ばれるとなんだか駄目になりそうだ。
ずいぶん毒されている。
海里のことは……まあ嫌いじゃない。
ともだちにシェアしよう!