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入部

コンコン 「失礼します!」 「うわ!!」 ドアを開けると同時に、紙の山が目の前で崩れた。 「だ、大丈夫ですか!? オレも手伝いますよ!」 「ああ、ありがとう。・・・君は、佐々木翼君だね。」 「え。はい?」 自分の名前を知られてた事にも、床に落ちた紙の山に最近知り合った人物の名前を見つけたことにも、一瞬手が止まった。陸上部ホープ 朝比奈ハル 熱愛か!?? なんだこれ? 熱愛って・・・ 「ふふ、気になるかい?」 「え?いや・・・。」朝比奈が熱愛って・・・オレにあいつ何も言ってきてないしなぁ。入学式以来、朝比奈からは毎日メールのやり取りしているけど、特定の相手の名前は出てきていない。 まだ、入学して一週間だしと油断してたが、もしこれが本当ならサポートするはずのオレが知らないのは朝比奈の為にも申し訳ない。 「どうした?何か気になるなら、調べてみるかい?」 自分より少し、背の低い眼鏡の彼が顔を覗き込んできた。 「僕は、ここの部長だよ。よろしくね。」 にっこり笑ってるのに、どこか目が笑ってない・・・。モブキャラにしては、顔の作りが良いな・・・。って、まじまじ観察したら失礼だな。翼の不躾な視線をものともしない、部長が思いがけないことを言ってきた。 「入部希望だよね? 簡単な入部テストしようか。佐々木君さ、この朝比奈君に密着取材了承もらってきてよ」 「え?! ちょっ、それって簡単ですか???」 にっこり ・・・・・え?なんか黒い・・・? 「はぁ・・・、まぁ、友人なんで聞いてみますけど・・・。」 なんか、黒い・・・。 「本当かい!!嬉しいよ。 僕だと断られてしまうからね。頼んだよ!」 そう言って、部長は用意周到に翼の手にレコーダーとデジカメ、腕章を握らせた。 あれ、これ・・・早まったか? 「じゃ、お願いね~。あ、腕章はつけとけよ!」 追い出されるように新聞部の部室を出ると、袴姿の相馬を見かけた 「相馬!! これから部活か?」 袴姿とか、スチルでしか見れなかったやつ!!かっこいい! 「あ、ああ。 ・・・新聞部か?」 駆け寄ってくる翼に足を止めたが、腕の腕章を見て一瞬眉をひそめた・・・? なんだ?珍しい。そして相馬の視線の先にあった、腕章に気が付いた。 「さっき、入部?したんだけど・・・早速、ハルに密着取材のアポ取れってさぁ・・・。あいつ、今日はグランドだっけ?」 戻ったはずの眉間にまた皺が刻まれていた おぉ、イケメンはこんな顔もイケメン!そう思うが先か・・・シャッターを押してた。 「・・・おい。」 「あ、すまん。つい。」 「はぁ・・・。 まぁ、お前ならかまわないが、今のは使うなよ。」 溜息ついてる姿も様になるなぁ。やっぱ、パーフェクト攻様は違う。 カシャ  袴姿も身長がある分様になってるし。カシャ そういや、こいつの中で朝比奈への好感度はどうなってんだろ?カシャカシャ・・・ 「! そろそろ、俺は行く。お前もハルに用なら早くいけ」 肩を思いっきり掴まれてそういうと、弓道場の方へと相馬は向きを変えてしまった。 「えっ、ああ! 引き留めて悪い!!相馬も、良かったら今度取材させてよ!!」 「・・・か、考えておく。」 やば、怒らせちゃったかなぁ・・・? 急ぎ足で弓道場へ向かった相馬の背中を見送って、朝比奈のいるグランドへ行く途中今度は、サッカー部の練習をしているリョウを見かけた。 ふーん、あいつもそんな顔するんだな。カシャ いつも、へらへらしてる感じだったし、意外だなぁ・・・ もう一度、レンズを覗きもうとした時 「ねぇ、翼はさー、僕に用があったんじゃないの?」 「うわ!」 後ろから、羽交い絞めとは何事だ!? どうやら、相馬に連絡をもらった朝比奈がわざわざ来てくれたらしい。 しかし、羽交い絞めはやめろ。足が、地面から浮いてるから!! 地味に、心臓に悪い。 こいつら、みんなオレより背がデカいんだよなぁ・・・ オレだって、前よりはデカくなったのに。 「ちょ、ハル!! 苦しいって。」 「ごめんごめん。で、僕に用って?」 おお、あざと!ここでその顔か!!! あ、写真撮りたい!! 「なぁハル!新聞部でさ密着取材させてほしいんだけど、ダメか?」 羽交い絞めさてた体制から、覗き込む形になったハルに長年しみついたお願いの仕方で、翼はお願いしていた。 『誠のその顔、ずるいわー。 けど、首はもう少しこう!いい、角度が大事なのよ!!』 ねぇちゃんの口癖の一つが脳裏に浮かんだ。そーいや、頼み事があるとなんだかんだ言いつつ、聞いてくれたなぁ・・・。 「? おい、ハル?? 」 目の前で固まったハルの顔がみるみる赤くなったかと思ったら、勢いよくそらされてしまった。それと同時に羽交い絞めされてた腕は開放されて、地面に足が付いた。 「つ、翼が取材するんだったら・・・!」 「!! ホントに!サンキュ!!」 足が地に着いたことにほっとした。 「そしたら、内容とか確認したらメールするよ!」 「えっ・・・あ、うん。待ってる。」 ぎゅっっつ ん? ここでオレの両手を握る意味はあるのか?? さすが、主人公コミュレベルが違うのか! って、子供じゃあるまいしそんな激しく手を振るなって、恥ずかしい~ いくら放課後とは言え、有名人の朝比奈の周りには誰かしら人がいた。 そんな人達に見られながら、手を握られてるってどんな状況だよ~!!もう、離してほしい・・・。オレは、目立ちたくないタイプなんです! なんて思いが通じたのか、パっと離されそのままグランドに朝比奈は走っていこうとした。 「じゃ、僕 部活に戻るから! 約束だよ!!!」 「おう! こっちこそよろしくな!」 心なし、浮かれてる様な朝比奈の背中を見送りつつ、部長へ報告しに翼も部室へ戻っていった。

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