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もじもじ

体育祭が無事に終わって、カメラを部長に託した後 その日は相馬の家の車で自宅まで送って貰う事になった。 妹の咲紀には連絡をしたので、明日明後日と土日だった為、外出届を出してから自宅に戻ると返事が有った。  「なんか、悪いな。 送って貰って・・・。」 相馬と隣同士に座っても、ゆったりとしたスペースが有る車内。シートも、上質な革で柔らかく、思った以上に心も体も疲れていたらしく。二言三言、会話を交わしたかと思ったら、あっという間に翼は意識を手放していた。 「お眠りになられましたか?」 「・・・ああ。」 「かしこまりました。少しゆっくりに成りますが、宜しいでしょうか?」 「構わない。そうしてくれ。」 ミラー越しに、そう伝えると運転手は速度を少し下げ、今以上の安全運転で目的地まで向かった。 「翼、着いたぞ。」 「!! お、オレ寝てた!!!」 相馬に肩を揺すられ、まだ重い瞼を擦りながら窓の外を見る。 さっき、学園の門を出たと思ったら、もう自宅マンションの下である。 「だいぶ疲れたみたいだな。」 顔に掛かった髪を払われる。 同級生の車で送って貰っておいて、速攻で寝落ちとか、恥ずかしすぎる・・・。それでなくても、今日は相馬に色々と迷惑を掛けた。こんな事じゃ、相馬に幻滅されてしまうんじゃ・・・。 今、相馬がどんな顔で自分に触れているのか、気になり相馬を見ると目が合った。払ってくれた手はまだ顔に触れている。 「・・・つ・・・」 先に言葉を発そうとしたのは、相馬だった コンコン!!! コンコン!!! 「おにぃー!! おかえりー!!」 明るい声と共に、車の窓ガラスがノックされた。 いつの間にか外に出ていた運転手さんに、後部座席のドアを開けて貰い車から 降りると、妹の咲紀が待っていた。 「もー、おにぃ心配したんだからねー!! 」 そう言って、咲紀は翼の腕を取り体を支えた。 一緒に降りて来ようとした相馬に、ここで大丈夫だと伝え咲紀にはカバンを先に部屋に持って上がって貰った。 「相馬、今日は色々と迷惑かけてごめん。 送ってくれて、ありがとう」 後部座席の窓を開けて貰い、乗ったままの相馬に声を掛ける。 「気にするな。また、学校で・・・。」 そう言って、窓は閉められ車は帰っていった。 「・・・おにぃ、あの人、好きなの?」 「え?!」 いつの間にか、後ろに咲紀が立っていた。急に声を掛けられ、少しよろけた所を、支えらえれる。 「だって、車見えなくなるまで見送ってんだもん。」 どうやら、咲紀は一度荷物を部屋に置いてまた降りて来たらしい。 今度は一緒に、部屋に戻ると夕食の用意がされていた。 といっても、駅近くのお弁当屋さんの弁当だけど・・・。 ここのお弁当屋さんは、全部手作りでオレも咲紀も、ここのハンバーグ弁当が定番。もちろん、テーブルに置かれていたのも、それだった。 まだ、温かい弁当を先に食べる事に。 そこで、さっきの質問を繰り返された。 「で、おにぃ・・・好きなの?」 お茶を啜る音が響く 好きか、嫌いかで言ったら・・・、好きだけども!!  それを、妹に伝えるのはなんだか、言い辛いというか・・・ なんというか・・・ 「おにぃ・・・、別に私は相手が男の人でも大丈夫だよ?」 「え? あ・・・うん・・・というか・・・」 つい、無意識に両手を組んで指を廻したりとモジモジしてしまう・・・。 相馬の事は、好きだけど・・・その事を口にしてしまったら、今までの様な態度は取れなくなってしまいそうで怖い。 そして何より、妹にそんな話をするのも恥ずかしい!! 目の前で解り易くモジモジし始めた兄をどこか懐かしい気持ちで見てしまった。この癖、誠もやってたなぁ・・・。何か、誤魔化そうと言葉を探してる時に良くやってた・・・。ホント、この兄は私の弟に似ている。 転生してから、一緒に今迄暮らしている時はあまり感じる事は無かったのに、学園に兄が入学してゲームが始まった辺りから、翼の中に誠の面影を感じる事が増えた。 ・・・もしかして? でも、もし違ったら・・・。 自分の中に浮かんだ疑問を確かめるには、まだ私には覚悟が足りない。

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