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最終話

「え? おにぃ・・・今、なんて言った?」 「ああ、ウォルフの退院祝いに食事に・・・」 「違う!! その前!」 「え? あ、生徒会に入った?って・・・言わなかったけ?」 「私聞いてない・・・。何で?何で、生徒会に入ったの?」 「何でって・・・生徒会長が留学するから、相馬の事手伝えたらって・・・。」 「それで・・・、今週・・・黄瀬さんの試合って本当?」 「ああ、そうだよ。チャリティー試合らしいんだけど、プロ選手と試合ができるって張り切っててさ! 相馬とハルと3人で観に行くんだ。」 「そうなんだ・・・。そこにウォルフは?」 「ウォルフは、その日退院だって言ってたかな。」 「そっか。わかった! 生徒会、おにぃが決めた事なら頑張ってね!私も応援してるよ!!!」 「う、うん・・・。ありがとう。頑張るよ。」 咲紀の様子が少し気にかかったが、日々の生活と試合の取材準備で咲紀の事はすっかり忘れてしまっていた。 試合の前日に珍しく、生徒会室に黄瀬と一緒に翼は呼び出されていた。 「あれ? リョウ。お前も?」 「あ、翼! そう、なんか生徒会長から挨拶があるとか何とか・・・」 「へー、激励かなんかって事かな?」 「ま、中入ろうぜ」 黄瀬が手で合図して、翼と一緒に生徒会室に入って行った。 中には、すでにハルと相馬、カミュがいた。 ただ、立ち位置が普段とは少し違っていた。 「・・・あ、れ?」 少し違和感を感じながら、中に入っていくと先にカミュが声をかけてきた。 「待ってたよ。2人とも。今日は、新しい生徒会長と副会長の紹介を先にしようと思ってね。」 「「え? 」」 その言葉を合図に、いつも会長が座っていた席に座っていた相馬がニッコリと微笑む。 そんな相馬の左横立っていた朝比奈が相馬より先に口を開いた。 「2人とも、特に自己紹介とかいらないと思うけど・・・。来週の朝会で相馬が生徒会長に就任発表する事になったから。 2人には生徒会を今後も手伝ってもらうから、先にね・・・。」 「ああ、ハルが今言った様に、来週に正式に生徒会長になる事になった。」 「本当は、今年中はこっちにいる予定だったんだけどね・・・。希望する研究所に急に空きができたらしくて、2人には申し訳無いけど引き継いでもらったんだ。」 朝比奈に続いてカミュが説明をしてくれる。 相馬は静かにそれを聞いていた。その間、ずっと視線は翼に向けられていた。 その視線に気が付いて、少し居心地が悪くなる。 何だろう? 相馬がずっとこっちを見てるけど・・・。 翼には一切身に覚えがなかった。 黄瀬と先輩のやりとりを横目に、いつもとは違うその視線に居心地の悪さを感じていた。   「そ・・・そうなんですね。先輩がいなくなるのは寂しいです。」 「まぁ、卒業式には参加するから。僕も黄瀬くんの活躍が見れなくて残念だけど、活躍を応援してるよ。それじゃ、僕は先生に呼ばれてるから。」 「はい。僕たちは今後の流れについて少し話をしたいと思うので・・・。」 「そう・・・。後は、よろしくね。」 カミュが少し寂しそうな顔で一度振り返って部屋を出て行った。 朝比奈が、カミュを見送り生徒会室のミニキッチンでお茶を入れ始めた。 「あ、オレも手伝うよ。」 黄瀬が、朝比奈のそばに駆け寄って、お茶を入れるのを手伝い始めた。 2人の様子を見ていると、相馬が翼の横に立っていた。 「ほら、翼も座ったらどう?」 エスコートする様に、手を取り翼を椅子に座らせた。 「あ、うん・・・。」 相馬に手を取られて、自分の手が思った以上に冷えていた事に少し驚いてしまった。 「・・・翼? どうかした?」 「ごめん・・・手が冷えてたから・・・」 「あ、ああ。そうだね。いつもより、少し冷たいかな? 何か、緊張でもしてる?」 そう言って相馬が手を握りながら、翼の顔を覗き込んだ。 「え?緊張・・・?」 ・・・緊張・・・?確かに、この空間にさっきから言い様の無い緊張感を感じてたけど・・・。 って・・・、相馬の顔が近い!!!!! 相馬が忙しくなる前は、確かにこれくらいの距離で話す事もあったけど・・・最近は、相馬とハルはお昼を生徒会室で済ませていたので、相馬とゆっくり会話するのは最後に食事をした日以来だった。と言っても、そんな何ヶ月も経ったわけではないのに、久々の相馬のアップは口から心臓が出てしまいそうになる。 そりゃ、緊張するって・・・。 絶対、今顔から火が出てると思う。 思わず、俯いてしまった翼に、相馬が聞き取れるかわからない位の声で呟いた。 「そんなにリョウが良くなった?」 「え? 相馬何か言った?」 相馬が何かを言った気がして顔をあげると、さっきまで自分を覗き込んでいた瞳が冷たくまるで獲物でも逃さないとばかりに光っていた。 「・・・相馬?」 「・・・ハル。僕のお茶も頼めるかな?」 翼の顔を見ていた相馬が、ミニキッチンにいる朝比奈にそう声をかけた。 「? わざわざ言わなくても、ハルなら用意してるんじゃないのか?」 「そうだね・・・。」 なんとなく違和感を感じた翼の問いに、相馬はニッコリと余所行きの顔を見せた。 ミニキッチンで、相馬の声を聞いたリョウも、ハルが黙々とお茶を用意しているのを横目になんとも言えない緊張感を感じていた。 「あ、あのさ・・・。」 ティーカップを用意しながら、黄瀬は朝比奈に声をかけた。 あの日グラウンドで翼と話をした時から、黄瀬は自分の気持ちを伝える事を決めていた。 黄瀬に声をかけられた朝比奈の手が一瞬止まる。 「何? あ、リョウはお砂糖一つで良いんだっけ?」 「え・・・?ああ、どちらでも。ハルに任せるよ。」 目の前で青色のハーブティーがカップに注がれる。 「それなら、蜂蜜にしようか・・・。 ねぇ、相馬、翼君もそれで良いかな?」 振り返りながら、2人に声をかけると黄瀬と同じような返事が返ってきた。 その返事に若干の呆れながら、トレイを朝比奈が運ぼうとしたのを黄瀬が横から手を出して相馬達のもとへ持っていった。 先に座っていた、2人の前に朝比奈がカップを置いていった。 「はい。 リョウの分。」 朝比奈に促され、トレイを置いた黄瀬も席についた。黄瀬が席に着くと、朝比奈がカップに口をつけながら話始めた。 「・・・そういえば、最近リョウと翼君とこうやってゆっくり話せなかったよね。さっき、リョウも何か言いかけてたっぽいけど、何か僕らに話す事でも2人からあるのかな?」 朝比奈が、黄瀬の方を見ながらそう話す。 「あ、あの・・・。」 黄瀬の方を見ていた朝比奈に、声をかけようとしたのは翼だった。 その様子に、カップを持っていた相馬の手が一瞬反応したが、相馬より先に黄瀬が翼の話を遮った。 「・・・翼、自分で言うから大丈夫。」 翼の方を見て「大丈夫」と口元だけで笑ってみせた黄瀬に、翼もニッコリと笑った。 そのままカップに口をつけようとした翼に、相馬の手が飲むのを止めた。 「相馬?」 「翼、下に蜂蜜沈んでるから、混ぜた方がいいよ。」 そう言ってティースプーンを手渡した。 「あ、ありがとう。」 相馬に言われた通り、カップの中を一混ぜする。 その様子を見ていた、朝比奈が同じ様に黄瀬にもティースプーンを手渡す。 「はい、リョウも混ぜたら?」 「あ、うん。ありがとう。・・・あのさ、オレ2人に聞いてほしい事があるんだけど・・・。」 混ぜた、ハーブティーを黄瀬は一気に飲んで、朝比奈と相馬に話始めようとした・・・。 「うん。何?」 「あ、あのさ・・・、オレ・・・。」 ガッチャン!!! え??? 目の前の黄瀬のカップが床に落ちていく。 その瞬間、自分の視界も横に倒れていく。 え?何・・・。意識はあるのに・・・体が動かない。 「すごいな・・・。本当に即効性なんだな。」 相馬の声が遠くに聞こえる。 髪に相馬の指先が触れ、翼の顔にかかった髪を払う。 「けどいいのか? リョウの話を最後まで聞かなくて?」 「ああ、別に何を言おうとしたとしても、構わない。」 床に倒れている、黄瀬が朝比奈の事を見上げていた。 意識があるように見えるのに・・・、身動き一つしなかった。 その様子を、翼は横になりながら、見ていた。 そして、自分の動かない身体に恐怖を感じ始めた。 相馬の手が、優しく頭を撫でているのに・・・、その感覚が遠い。 「あれ? 翼、泣いてる? どうかしたの?」 翼の瞳から、自分の意思とは関係なく涙が溢れていた。 それを相馬が指先で拭い、目元にキスをする。 「安心して、翼。 今、君も同じ様にしてあげるから・・・。」 そう言って、相馬がカップに残っていた液体を自分の口に含んで、そのまま翼に飲ませた。 カハッツ!!! 飲み込む瞬間に一瞬、大きく呼吸をしたのを最後に翼の意識と体の感覚は無くなった。 目の前に、一枚薄い布がかかっている感じがする・・・。 頭に、直接声が聞こえてきた。 その声は、聞き覚えがあった。 「あーあ。結局、計画は台無しかぁ・・・。 あの2人は、君達の意思は関係なく側に置く事選んだのか。 まぁ、彼らにとっては最高の最後なのかぁ・・・。 つーくんは、どう思う?」 だ、誰? 「えー、つーくんそれは、酷くない?」 ウォルフ!! なんで? 声の主を自覚すると、ウォルフの姿がはっきり見えた。 その後ろに、まるでスクリーンにうつされてる様に相馬達が見える。 「さて・・・、つーくん、どうする?」 な、何が??  「それはね・・・」 ピコン ▶︎ニューゲームを始める ▷そのままバットエンドに進む な、何これ・・・。 「君の最後のコマンド選択だよ。」 え・・・・・・・・・そ、そんなの・・・・。 選べな・・・・ 「!!!」 次の瞬間、眼の前が真っ暗になった。 「うわ!!!!」 思わず、大きな声を出して驚いてしまう。 その声に、驚いた人物が顔を覗き込んでくる。 その人物の顔に、さらに驚いてしまい声が出ない・・・・。 「・・・そんなに驚いたのか?」 目の前で、手をひらひらとしながらその人物は笑いかけ頬にキスをする。 「!!!」 「あ、赤くなった。 いい加減、オレも構って欲しいんだけど?」 そう言いながら、今度は唇に軽くチュっと音を立ててキスをされる。 「え・・・あ、うん。」 一体どういう・・・、目の前のは・・・ 「何? もう一回する?」 そう言って、また軽くチュッとされ、唇を舌がなぞった。 思わず、その刺激に唇を開くと、そのまま深く舌が入り込んだ。 「ん・・・ふぁ・・・。あ・・。」 合間に、水音がクチュクチュと響く。 一体・・・何が、なんでこんなキス・・・。 思考が止まりかけたところに、ドアがいきなり開けられた。 「ちょっと!誠!! 宗馬くんが・・・・って・・・、ごめん。お邪魔しちゃった?」 「お、おねぇ!!! な、なんで・・・あ、あれ・・・僕・・・。」 おねぇ・・・って、あれ?  「誠、どうだった? うちらが作ったゲームは?」 姉と呼んだ女の子の後から、さっきまで自分に語りかけていた男とそっくりの男が、立っていた・・・。 「ウォルフ? え・・・一体・・・」 あ、頭が混乱する。 けれど・・・、この感じ。覚えている・・・。 「ちょっと、誠大丈夫? ゲームやりすぎたんじゃないの? ウォルフじゃ無くて、こっちはウィルよ?」 「あはは、そんなに、僕らの作ったゲームに夢中になった?」 「え・・・??? ゲーム?」 そう言われて、自分のいる場所を見回すと・・・ そこは、ずっと昔から住んでいるマンションの自室。 目の前にいるのは、姉とその彼氏。 そして、僕は・・・ 思い出した 僕は、坂本 誠。高校1年。 そんな僕に、さっきキスをしてきたのは・・・・ 青桐 宗馬。僕の恋人・・・・。 「宗馬? あ、れ・・・、もうそんな時間?!」 「そうだよ。ほら、今日は涼の試合見に行くって言っただろ?」 「!!」 部屋の時計を確認すると、慌てて誠が支度をする。 「そ、それじゃ!! おねぇとウィル、行ってきます!!」   玄関先まで、2人に見送られて、宗馬と誠が迎えに来ていた車に乗り込んで行った。 その姿を見送ると、ウィルが玄関のドアをゆっくりと閉めた。 「・・・今度は、ハッピーエンドになるといいね。つーくん・・・」 バタン                          ▶︎セーブする                          ▷続きから始める。

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