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男に告白されました
「君に一目惚れした。俺の恋人になってほしい!」
「……はぁ!?」
夕暮れ時、木々の間を抜ける心地よい風。
目の前には顔の整った男。少し赤くなった頬、真っ直ぐに俺を見つめる目。
本日、俺は初めて告白された。
……男に。
事の始まりは今日の朝。
いつも通り起床して、いつも通り大学に向かう。いつも通り友達にあいさつしていつもの席に着く。そう、本当にいつも通りだった。平和な日常、交友関係。ずっとこの日々が続いていくはずだった。
「おはよう、由宇。これさっきお前に渡してほしいって預かったんだけど」
幼なじみの翔太は俺の隣に座り、茶封筒を渡してきた。
中には紙が1枚。そこに書かれていたのは……
「本日17時、図書館前中庭で待つ……!? 果たし状か!? 現金の取り立てか!?」
読み上げたのはすぐ後ろに座っていた笹木。こいつとは大学で知り合った。そんなわけないだろ……と返しながら整った字で書いてある、その紙を封筒にしまう。
「どんな人だった? これを渡してきたの」
翔太は目線を上に向けた。
「うーん……イケメンの男」
「なんだそれ」
腕を組み、少し考え込んだ翔太はなんとか特徴をひねり出した。
「男から見ても女子に人気のありそうな顔ってわかる。あと、茶髪で左だけピアスしてた気がする。他学科か先輩かも……と思うけどどっかで見たことある顔だった気もする」
「曖昧だな……」
めんどくさい輩に目をつけられたか……? いや、そんなはずは……でもこんなものをよこしてくる知り合いなんて思い当たらない……
「無視しとけばいいんじゃないか?」
「そうだけど……もし相手がずっと待ってたら悪いし、行ってくるよ」
「……そうか」
少し間があったな……? なんでだろう。
すぐに後ろから笹木が乗り出してくる。
「由宇、やっさし~!俺、由宇の優しいとこ、好きだなあ!」
「はいはい、ありがとな」
……まあこれも全ては周囲への好感度のためだ。
最大限に気を使い、そこそこに話をあわせて相手をたてる。笑顔で、優しく。でも完璧すぎても不自然だから、適度になまけたり、抜けてるところを見せる。
他人に自分の心情全てを見せたくない。信用できないから繕う。
気がついたときにはそうやって振る舞っていた。昔はもっと素直に人と話せてた気がするんだけどな……いつからだろう、こうなったのは。
俺を見かねてか、翔太が耳打ちをしてきた。
「……いつも言ってるけど、無理するなよ」
「わかってる。面倒だったらすぐに逃げるし」
この幼なじみには取り繕っていることはバレている。幼稚園から一緒にいる翔太は素の俺も、猫かぶりしてることも知ってる。それでもずっと友達でいてくれるし……感謝してるよ。恥ずかしくて口には出せないけど。
始まった講義はほとんど耳に入らず、封筒の差出人のことを考えた。
円満な人間関係を築いてきたし、俺を恨むような物好きはいないだろうし……他学科に知り合いを作るような交友関係はない。好感度のためとは言ったが、純粋に相手が気になる思いもある。
ぐるぐると思考を回転させたが、心当たりはさっぱり思いつかなかった。いや、いくら考えても正解できるわけがない。
そりゃあそうだ……
初対面の男に告白されるなんてこと、誰が予想できるだろうか……
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