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熱のこもった瞳
そんなことで、今に至る。
目の前の男は、固まる俺をずっと見つめていた。
翔太の言っていたとおり、すっげぇイケメン。周りにキラキラとしたイケメン特有の何かが漂っているような気がする。柔らかそうな茶髪、左耳だけに銀色のピアス。背は俺と同じぐらいか。夕焼けと同様に赤くなった頬。優しそうな笑顔。
本能的に悪い奴ではなさそう、と思った。
……が、俺をからかった罰ゲームの可能性だってある。というかこんなイケメンが男に告白なんておかしいだろう。こんなときこそ冷静に、相手の出方を伺おう。
「あの、俺……男だけど……人違いじゃないか?」
なるべく爽やかに、笑顔で。顔が引きつった気がするけど、もう夕暮れだ。多少はバレないだろう。今日もありがとう、太陽。
「人違いじゃない。俺は尾瀬由宇くん、君が好きなんだ。俺は本気だよ」
予想外の返答きた!! なんだこいつ!?
「えーと……あはは……ば、罰ゲームとかだろ? 男に告白してオッケーもらえたら焼肉奢りとか、そういうイケメンだけができる遊び……みたいな……」
「罰ゲーム……? 遊び……?」
急に声色が低くなった。マズイ、怒らせた、こういうのは刺激しないのがいちばんなのに……と思ったときにはあっという間に距離が詰められていた。
「んえ!?」
「これでも罰ゲームだと思う?」
背中には壁、顎に触れる温かい指先。これはいわゆる、壁ドン&顎クイ……! こんなイケメンにされたら卒倒ものだろう。女子なら。
まさかそれを俺がされる日が来るなんて思いもしなかった。眩しい顔面と突然の勢いが怖くて体がこわばる。
「このまま君にキスすれば、俺の気持ちわかってくれる……?」
「……っ!」
ギラギラと目を輝かせて、男が顔を近づけてくる。その表情は恍惚としていた。
ケーキのような甘い匂いにそのまま飲み込まれて食われてしまいそうなほど……
「ちょっ……待った!! わかったから、本気なのはわかったから!! 離れろ!!」
あまりの展開についていかなかった脳がやっと働き、なんとか相手を押し返す。
危なかった……! 流れでキスされそうになってた。
こいつ、ガチだ。めっちゃ力強かった。
息を切らして相手を見ると眉を下げて残念そうにしている。
「……ごめんね、怖がらせて……少しずつ距離を縮めるつもりだったけど……ずっと遠くだった君が目の前にいて、初めて話せて、つい理性がぶっ飛んでたよ……」
「えっ……へ、へんたいなのか……?」
「君に言われると興奮するなぁ」
あはは、と顔を赤くしながら男は笑う。間違いなく変態だ。
俺はいたって平凡な外見だ。多く見積もってもせいぜい中の上ってとこだろう。交友関係を作るうえで苦労はしない程度。一目惚れをされたことなんてない。
なのに、目の前には上の上。俳優かモデルだって言われても納得するレベルの男。いつのまにそんな男に惚れられてしまったんだ……!? 心当たりがゼロなんだけど!
「でも、本気だってわかってもらえてよかった。すぐ逃げられるかと思って不安だったから……まあ逃がす気はないんだけど」
逃げれる隙なんてなかったけどな……と思いながら聞いてたけど最後のセリフは聞かなかったことにしよう。
「お前が本気なのはわかったし、誰を好きになるかは個人の自由だろ。別にお前を否定したりしない。なんで俺なのかは理解できないけど」
男はふんわりと微笑んだ。暮れかかる夕日が男の瞳をキラキラと照らしている。
「やっぱり君は優しいね」
「優しい……か」
……まっすぐなその言葉が妙に引っ掛かった。
俺は優しくなんてない。他人に深く関わって、傷つきたくない。他人の気持ちに一喜一憂するなんて厄介で、馬鹿らしいだろ。でも嫌われても面倒だから人当たりのいい自分を繕っているだけ。
「どこでお前が俺のこと好きになったのか知らないが、お前は、俺の優しいところを好きになったのか?」
結局、他人の表面しか見ない。そんな人間ばっかりだ。
「それもあるけど、俺は君の全てが好きなんだ。君を見たあの日から……ずっと君のことを考えていた。こんなに惹かれた人は初めてなんだ。必ず俺はこの先もずっと……」
そんなこと言われたって……
「この先もずっと……? 永遠に続く想いなんてないんだよ。そんな曖昧なもの、この先ずっと続くわけがない。そんなもの信じられるか」
言葉を遮ると、男は大きく目を見開いた。
「お前が見てる優しい俺は全部、偽物だ。本当の俺は全く優しくなんてない。幻滅しただろ? お前イケメンなんだから、すぐにかわいい彼女ができるよ。俺のことなんて忘れろ、関わるな」
じゃあな、と名前も知らない男に背を向けて歩き出した。
何事も、思ったより早く冷める。好きだったものはいつのまにか飽きてるもんだ。
それが恋でも愛でも同じこと。どれだけ愛していようが、いつかはきっとなくなる。永遠なんてない。
表面だけ好きになっても、俺の思いを知ればすぐ冷める。面倒な恋心とは早めに離れておこう。
そう思った……のに。
「へぇ、それが君の本性……」
いつのまにか腕を掴まれていた。
とっさに振り返ると、さらに色情を含んだ瞳が俺を見つめていた。
「めちゃくちゃかわいい……」
「なんでそうなる!?」
「君を見てると、仮面をつけてるみたいに本当の君自身が埋もれているような気がしたんだ。けっして他人に見せない、なにかがあるような……」
さっきからずっと疑問だったけど、こいつは今までどこで俺を見てたんだ!? 恐ろしくなって血の気が引くが、男は構わず続ける。
「そんな君を見ていると……その壁を壊して内側に入り込んで、ドロドロにして……甘やかして……俺だけにしか見せない特別な君を見せて欲しくて……」
話を聞き終わるよりも先に、本能が逃げろと合図した。掴まれた手を振り払い、その場から全速力で逃げた。
……まじでやばいやつに好かれてしまった……
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