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第20話 ※R-18内容有

「ん……っ」  押し開かれる痛みが、俺の口から声を零させる。 「ハチ、痛い? 大丈夫?」 「う、ん。……大丈夫だよ」  多分。とは、流石に言えないので、口の中に何とか仕舞い込んでは飲み込んだ。  それでも、少し心配性なお兄さんは動くのをやめて困った顔をして俺を見る。  この人、こう言うところ、少しズルくない?  お兄さんの方が犬っぽいじゃん! 「……大丈夫だけど、ちょっとだけ怖いから手を握ってて欲しいかも……」  俺は自分から手を伸ばすと、お兄さんはゆっくりとまるで壊物を扱う様に俺の手を握ってくれる。  何だが、気恥ずかしい。  ケツの穴まで見せといて何言ってんだよって感じだけど。 「お兄さん、ありがと。へへ、安心する」 「ハチ……。うんっ」  お兄さんも笑うと可愛い。アイドルみたいな顔するよね。  けど、ちんこはそれ以上大きくさせんで欲しい。圧迫感、今でも凄いのに。 「動くね?」 「ん、うん」  ゆっくりと、お兄さんが俺の中に入ってくる。 「あ……ぅっ」  絶え間なく来る圧迫感を逃すために声が上がる。  痛くはない。けど、初めての行為による異物感に身体が少しだけ息苦しさを覚えている。  少しずつ、少しずつ、そんな俺を気遣うようにお兄さんは奥へと進んでいく。  気持ち良さなんてない。  痛くもないけど。それもまったくってわけじゃない。  座敷牢で準備の練習をする時に言われた言葉通りだ。  気持ち良さは欠片も無い。お前がするのは相手方の為による、相手方の為だけの性行為だ。心は折られることになるかもしれない痛みを伴う儀式だと思え。お前は何も言わぬ皿になれ。  だったかな。  でも、少しだけ違う。  心は、折れないかな。少しだけ、必死で俺の手を握ってるお兄さんを見ると、あったかくなる。  痛いなら痛いで良いし、もっと乱暴でもいい。  お兄さんが良くなくちゃ意味ないんでしょ? いいんだよ?  そう言いたいのに。  けど、優しくされてると分かると、もう何も言えなくなる。   「ハチの中、キツくて、熱いね……」 「お兄さんも、でしょ?」 「ん。滅茶苦茶、興奮してるもん」 「俺も、かも……」  恥ずかしさに顔を背けながら言うと、お兄さんはにこりと笑って俺の上に体を倒した。  まるで包み込むように抱き込まれて、もしかして、これで今日はおしまいとか言われたり? と、思ってみたり。  けど、そんな事はないよね。  知ってる。  だって、お兄さんだもん。  気分で人を殺せて、気分を許されてきたお兄さんがいくら気遣ってくれてもそうそう止める訳がない。その証拠に、どんだけ心配しても止めようかとは聞かないし。  狡い吸血鬼だ。 「ハチ、ごめんね。もう少し、時間かけてたかったんだけど、ハチが可愛すぎて無理そう」 「え……?」 「ごめんね。優しくするって言ったけどさ、まだ半分も入ってないの、辛い。早くハチの中に入りたい」  お兄さんがキスの雨を降らせる。 「それって……」 「ごめんね?」  さっき、何も言えないって優しさを見せた俺の気持ちは!?  この人、マジで謝れば何でも良いとか思ってね!?  初キスの時もそうだったよな!? 「私の舌、噛みちぎってもいいよ? 吸血鬼だから、余裕で直せるから」  そう言うと、お兄さんの唇が俺の唇を塞いでくる。  舌を噛みちぎるって、そんな事しないけど、やっぱりさせるような事するの?  マジで?  戸惑う俺の口に舌を強引にねじ込んだ瞬間、衝撃に突き上げられる。 「んんっ!」  今迄優しさに満ち溢れていた静が、肉を掻き分け、奥へと突き進んでくる。  何これっ!  痛いっ! 熱いっ!  握った手を振り解こうとするが、力強く抑え付けられたまま。  衝撃を逃す術もなく、俺は柔らかい肉に歯を立てる。  口の中に、鉄の味が広がった。 「んんんっ! んっ!」  必死に俺がもがくと、お兄さんは小さく笑って口を離してくれた。  けど……。 「噛みちぎってよ。そんな甘噛みだと、もっと可愛いと思うし、私が気持ちいいだけだよ?」 「うぁ……?」  ぺろりと赤く染まる舌を出したお兄さんが、舌なめずりをする。  あ、噛んじゃったんだ……。  俺はごくりと、喉を動かした。 「全部飲み込んだね。えらいね、ハチは」 「……ぜん、ぶ?」  苦しい。痛い。圧迫感が今までと違う。 「そう、全部入っちゃった。血は出てないし、解すの上手かったんだね。えらいえらい」 「おれ、えらいの……?」  あれ? 急に……。  上手く、頭がまわない。  なんで? 「うん。とっても。だからね、ご褒美にもっと気持ちよくしてあげるね?」  頭が、ぼーっとする。  何だろ? 熱いような、切ない様な……。 「……おにいさん? おれ、なんか変、かも?」 「そんな事ないよ。世界で一番、可愛いよ」  そう言ってお兄さんはもう一度俺に覆い被さる。 「本当、可愛い」  耳元で囁かれると、ぎゅっと中が締まるのが自分でも分かる。 「あっ! あっ!? なにこれっ!」  勝手に、勝手に身体が? 何で? 「あはっ! 最高っ! 気持ちいいよ、ハチっ」  それに気を良くしたお兄さんが腰を打ちつけてくる。  がっちり捕まっているのだ。その衝撃を逃がそうと大勢を崩すことさえ出来ない。  奥の奥が擦られる。抉られる。 「やっ! あっ!? なにっ!?」  いの間にか、痛みも苦しみも全てが揺すられて消えていった。笊に残ったのは、快楽のみ。  今まで閉じ込められた世界にいた為に快楽と言うものを知らない俺は、怖さと気持ち良さの間に恐怖を覚えた。  突き上げられるたびに、嗚咽と区別のつかない声が自分の口から上がって行く。  中の奥をちんこの先で突かれ、掻き回される度に熱が籠る。  熱い、気持ちいい、もっと欲しい。 「あっ! くぁ……っ、あぁっ!」  いつしか、俺の手はお兄さんの背中にしがみつく様に爪を立てていた。そうしていなければ、身体が気持ち良さと衝動でバラバラになりそうだから。  下へ少し抜かれるだけで、切なくなる。  上へ少し突かれるだけで、もう離したくないと自分の中が絡みつく。 「気持ちいい? ハチ?」 「んっ! きもち、いいっ!」  俺は、唾液を飲み込む事も忘れて叫ぶように答えた。  言葉にすると、快楽がさらに増していく様な気がして身体が竦む。  この快楽はいつまで続くんだ。  果てのない気持ち良さに、動かない脳すら恐怖を覚えてる。  このまま、本当に快楽で自分は死ぬではないか。  そんな事が頭を過ぎるぐらいに。  自分が知っている刺激の何百倍にもなる様な快楽の刺激に襲われて、恐怖に視界が歪んでいく。 「ハチ、いきそう?」  涙に濡れている俺の目を優しく拭きながら、お兄さんが問いかけた。  何処に?  何が?  頭は働かないどころから元々そうよくも無い。  お兄さんが何を言いたいか、俺には理解できなかった。 「なに、が? あうっ! お、おれ、わかんないっ!」  こんな事、初めてだから。 「なにが、どうなるの?」  セックスなんてした事ないし、説明だって、こんな事言われてない。  しがみ付き泣きながら、お兄さんに問いかけると、お兄さんは優しく笑ってくれた。  あっ。この人……。 「そっか。ハチは、何にも知らなかったんだっけ?」  座敷牢の中の世界しか知らない。  外の世界も人間の事も、よく知らない。  無知なのだ。ちんこなんて自分で握った事もなければ、快楽と言う気持ち良さの存在だって、今の今まで知らなかった。 「……おにい、さん?」  この人が優しく笑う時、大抵俺は無事でいない気がする。 「処女で無知で、何も知らなくて、俺が初めて。最高じゃん。いいね、いいねっ。最高に好き。ハチが俺じゃなきゃ駄目な体に作ってあげるねっ!」  ぎゅっと俺の体を抱きしめる手に力が篭った。  不味い気がするっ!  逃げなきゃっ!  しかし、そんな簡単にお兄さんが逃してくれる訳ないじゃん。 「ぎゃうっ!」  強く、今まで以上に強く腰が打ち付けられる。  深い。今迄のはなんだったのかと疑いたくなるぐらい。  目の前がチカチカとする。  痛い、苦しい。また苦痛が競り上がって来たのに。 「まだまだだよっ!」 「あがっ!」  開かれてはいけない場所が開かれる。  突き上げられるたびに、声にも出ぬ悲鳴が喉に焼き付く。  苦しみが、気持ち良さへ変わる。痛みが、熱に変わっていく。  何度も何度も、浅く、深く、籠る熱が加速していく。  痺れる様な快楽が、脳から全身に伝わって、もう、自分自身ではどうしようもなくて。  必死に泣きながらお兄さんにしがみつくのが精一杯で。  でも、止まって欲しくなくて。  やめて欲しくなくて。  もっと欲しくて。  もっともっと欲しくて。  熱が、もうどうにもらないぐらい脳を沸かした瞬間、一気にお兄さんのが俺の中から引き抜かれる。 「やっ! 抜か、ないでっ」  まだ。  後少しなのにっ! 「あはっ、可愛い」  縋り付く俺を見て、お兄さんはそう笑うと一気に全てをぶち込んだ。  腹側に擦り付けるように一気に突き上げられて、意識が思わず飛びかける。  全身に、快楽と言う快楽が突き上がってくのだ。  脳が、沸騰する程の。 「あ、ああっ、ああっ!!」  痙攣する様に震える体をお兄さんが抱きしめて優しく揺らす。  熱を放ったはずなのに、身体の中が暖かい。   「……中、へん、だよ?」  ぼんやりとお腹に手を当てながらお兄さんに聞くと、お兄さんは今迄見た中で一番、可愛い顔を作って舌を出した。 「……ごめん。中出しちゃった」  中出しって何?  よくわからんけど、ちょっと腹が立ったのは確かだった。 「今更だけどさ、して良かったの?」  広い浴槽の中、お兄さんに体を預けていると上から声がする。  あ、ヤバいな。少し寝そうだった。 「ん? 何を?」 「私とセックス。好きかどうか、わからんのでしょ?」  少しだけ拗ねたお兄さんが俺の頬を突く。 「好きじゃなきゃしちゃダメなん?」 「……出来れば、ハチはそうあって欲しいよね?」 「いや、知らんけど。それなら、お兄さんもじゃない?」 「え? 私はハチの事好きだよ。愛してるよ。ハチの為なら何でも出来ちゃう」  そう言って、キスの雨を降らしてくれるけど、さ。 「でも、お兄さんリリさんと付き合ってるじゃん? 俺が好きって浮気って奴じゃないの?」  そう言うの、どうなん?  それこそ今更だけどさ。  ま、言ったら多分抱いてくれなかっただろうし、わざと言わなかったんだけど。 「……え? 誰がリリと?」 「お兄さんが、リリさんと」 「……ちょっと待って? 何で!? 何で私とリリが付き合ってるの!? あんな鬼婆と付き合うわけなくない!?」 「え? 違うの?」  あれだけ仲良さそうで? お似合いで? 「違うよ! そんな気持ち悪い想像やめてくれる? 私もだけど、リリも怒るよ? リリは、あくまで利害関係が一致してるから一緒に連んでるだけ。それに、リリは自分のワンコに四百年間ずっと固執し続けてるヤバい奴だから。執着ヤバいよ? 激重女だよ?」 「それって……、メリさん?」 「そっ。彼奴が私に手を貸してるのも、メイディリアの関係があるからでそれ以外は何もないしね」  えー。何か、そんな感じ全然なかったけどなぁ?  メリさんも、リリさんに結構冷たかったし、リリさんもメリさんにそんなにベッタリではなかったし。 「よく分からん……」 「リリの事なんていいから、私の事もっと考えてくれる!?」 「お兄さんも激重じゃん。でも、そっかー。お兄さんとリリさん付き合ってないんだ」 「あれ? もしかして、私の事好きじゃないってのはリリに遠慮して……?」 「いや、それはないけど」 「何で!?」  お兄さん、元気だよね。俺、めっちゃ疲れてるのに。 「何でって……、好きかどうかはわかんないもんはわかんなくない? それにさ、お兄さん何か勘違いしてるよ。俺、別にお兄さんの事、好きじゃないわけじゃないから。ただ、好きとか愛してるとかが、わからんの。好きになれた事も、愛された事もないもん。テレビ見てても、見てるだけじゃよく分からんよ」  観てても、見てても。  人の心なんてわかんないよ。 「……じゃ、私が沢山好きなって愛してあげるから、ゆっくり覚えてこ? まずは、お兄さんじゃなくて名前で呼んで?」 「ヘムロックさん?」 「ヘムでもいいよ? 長くて面倒いでしょ?」 「そんな事ないけど……、ヘムさん、ね。へへ、今更何か名前呼ぶの恥ずかしいね」 「そう? 私は嬉しいよ。より愛おしくなるよね。ハチの名前は?」 「俺の?」 「そ。なんて言うの?」  俺の名前……。  俺の名前は……。 「ハチだよ。ヘムさんに付けてもらった名前が、俺の名前だもん。前の名前はさ、ただの番号だったし。そんな名前、意味なくない? それに、俺ヘムさんの犬辞める気ないしね。犬飼うまで、ちゃんと飼ってくれるんでしょ?」  まだ、恋も愛も分からない。  それは、俺がまだ人間じゃないからだと思う。 「ヘムさんが人間になる迄、俺も人間として生きれる様に頑張るからさ。まだ、犬のハチでいさせてよ」  まだ、俺は犬でいいよ。 「そん時、人間としての名前頂戴? 多分、その頃には、好きとかわかるかもしないし。わからんでもさ、ヘムさんが分からせてくれるまでは側にいるから」 「……それって」 「そ。一緒に人間になって行こう?」  一緒に、歩もうよ。  二人で、人間になって。人の生って奴をさ。 「……好きっ! ハチ、愛してるからっ! 絶対離さなんっ! 絶対わからせるっ!」 「あはは。痛いって」  ヘムさんがギュッと力一杯抱きしめてくれる。  冷たいのに、暖かい。 「……でも、犬って事はもう私とセックスしてくれないの?」 「え? 別にいいんじゃね? 犬は犬でも人間途中だし。それに、ヘムさんの事は好きか分からんけど、セックスは好きだと思う。結果的にめっちゃ気持ちよかったし」 「……は? ハチの貞操観念どうなってるの!? 他の人とするとかやめてよ!? 人類なくなるからね!?」 「えー。めっちゃ重いじゃん。けど、大丈夫だと思うよ?」  多分ね。  多分だけど。 「ヘムさんだからだし。だから大丈夫でしょ?」  俺、結構狡い奴なんだと思うよ?  でもいいんだよ。  だって、俺、今犬だからねっ!  『今日から犬になりまして』      おわり。 ※お付き合い有難うございました。  犬になった話はここで終わりですが、また引き続き二人のお話を書いて行こうと思いますので、よろしければ引き続きお付き合いのほどよろしくお願いします。 続き→「今日からバイト始めまして」 ※リンクの貼り方分からないのでURL貼っておきますね! https://fujossy.jp/books/21142/stories/424813

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