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第4話

 仄かに自分の性癖を匂わせた返事を、彼はどう受け止めてくれたのだろう。そんなことはないですよ、と私を持ち上げてくれるのはただのセールストークだろうか。  私と彼はいろんな話をした。彼の人となりは既に知っている。だからだろうか。 「僕のことばかりではなく、杉山さんの事も教えてください」  彼は私を知りたがり、いろいろと質問をしてきた。いつもならプライベートを探られるなど嫌悪する行為だが、何故か相手が彼だと嫌な気分にはならない。それでもセクシャルな部分はオブラートに包んで話すうち、気がつけばいつの間にか日付が変わっていた。  バーを出て彼を送るべくタクシーを探した。彼はかなり酔っぱらっていて、ふらふらと私に寄りかかると額を私の肩につけて立ったまま舟まで漕ぎ始めた。彼の体を支え、視線をあげた私の目に、ふとその光景は飛び込んできた。  いくつもの車線を跨いだ向かい側の歩道。まだ行き交う人の多いその場所で一組の男女が同じようにタクシーを捕まえようとしている。顔を寄せて囁きあう度に笑いあい、挙げ句の果てに人目も憚らずにキスをする姿は深夜の繁華街では良くある光景だ。  しかし私はその光景に大層驚いた。それは男の腕に絡みついて笑っている女が、高橋敏也の婚約者だったからだ。二人を乗せたタクシーが行ってしまうと、肩にかかる彼の重さがやけにずしりと感じた。

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