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第5話 あの出来事

 登下校もいつも一緒。登校班というものはなく、各自バラバラに登下校する学校。最初は母親がついてきてくれて、帰りも途中まで迎えにきてくれた。小学一年生の一学期まで。それからはいつも二人での登校。帰りは友達も途中まで一緒。分かれ道でバイバイ。 いつも通りの事。  小学4年のある日。あれは、珍しく雪が降った日の次の日の事だった。お揃いの長靴を履いていつもよりゆっくり帰る帰り道。凪が足を滑らして転んだんだ。新雪がたくさん積もる地域なら雪に少し埋もれるくらいだったのだろう。この辺りは滅多に雪が降らない、降っても数センチ程度。次の日にはほぼ溶けてしまっていることが多い。  アスファルトの地面に手をつく羽目になった凪は、ズボンの膝の辺りはジーンズで守られていた。手袋をしていたが雪を触りたくて素肌のままの手のひらからは、赤い血が出ていた。舐めときゃ治る。駆け回ってはよく小さな怪我をした俺が覚えた方法。  膝を着いたまましかめ面をしている凪の横にしゃがんで手を取り舐めた。血が止まりますように。凪の怪我がすぐに治りますように。口にしたその瞬間の衝撃。  自分の傷口を舐めた時には感じた事のない背筋がビリっとする感じ。これは何なんだろう。擦りむいてちょっと剥けた薄い手のひらの皮が口に入ってしまった。異物、ではなかった。ほんとに小さな皮だったけど歯と歯で挟んで遊んでみて、ゴクン。喉を通っていったら自分の体内に凪の一部が入って、俺の体の一部になる。あっ、こうしたら一つに戻れるんだ…。 「晴空?もう血とまったよね?苦かったんじゃない?ペッってして」 凪が不思議がってる。 「大丈夫だよ。もう飲み込んじゃった。帰ろう。帰ったら絆創膏貼ってあげるから」 「うん」 傷になってない方の手をひいて、そのまま繋いで帰った。さっきの感覚はなんだったんだろう。ドキドキする。心臓の辺りを触ったらいつもよりバクバクと煩く動いてる気がした。

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