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第27話 帰りたい

 夜が憂鬱な時間になった。  お尻に入れられるアレで自分の中が変わっていきそうで。  現に変わってしまった。  あれから幾度の夜を重ね、貴嶺さんがアレを持ってきて僕のお尻を弄る行為に慣れてしまってた。お尻に入れられ泣いてた声はいつしか喜びの啼き声に変わり、貴嶺さんにここの地下を使ってるのは凪と俺しかいないんだから声なんて気にすんなと言われれば、恥を忘れ、ただただ体の気持ち良さにだけ意識を持っていかれるのだった。  晴空、元気にしてる?僕はこんなに変わってしまって、他に変わった部分と言えば顔にかかる髪が増えてきた事だよ。前髪は一定の長さまでくると貴嶺さんに鬱陶しいって切られるんだけど、横の毛は切らないでいてくれる。  僕がここの人々に慣れずに、廊下を俯いて歩く時に視界を隠してくれる大事な物だから切らないでいてくれてるんだ。     貴嶺さんが好きになったわけじゃないよ。僕は今でも晴空が大好きで、夜の行為の時は晴空の顔を思い出してるんだ。貴嶺さんは毎日は来ない。部屋にもいないようだから、少しだけ話せるようになった年上のお姉さんに尋ねたんだ。そしたら、貴嶺さんもやっぱりお客さんの相手をしてるらしい。僕もその時に備えてお尻をケガしないように男性器の形の物を入れられてるはずなのに一向にお呼びはかからず昼の間は修行と、勝手に図書館で勉強する事だけに時間を費やす事が出来ている。  先日、図書室でここの家系図を見つけた。お姉さんとは図書室で仲良くなったんだ。自分の名前を見つけ、上に上に辿っていったら、恐ろしい真実を知ってしまった。    兄妹間から産まれている子供たちもいるんだ。力を持った者が産まれなかった時期に、より強い力を求め兄妹間で子を作るという事を試していったらしい。  狂ってる。瞬間的にそう思って後悔した。近親相姦を狂いと思ってしまったら、僕のこの晴空への気持ちも狂ったものだと認めてしまうじゃないか。  晴空、僕のこの狂った気持ちは血のせいなのかな。近親相姦も試して繰り返してきたこの血のせいなのかな。  晴空は狂わないで。僕にとっての光の存在でいてほしい。こんな気持ち、また会えた時にへ閉じ込めるから。  修行を繰り返して繰り返して力の弱い霊なら扱える、操れるようにもなったし、少しの未来なら視えるようになってきたのに、晴空の事は何も視えないんだ。  僕が霊に『美智さんの様子見てきて』とかお願いすると、行ってきて戻って教えてくれるんだ。可愛いでしょ。ペットみたいだよ。  でもこんなん何の役にも立たない。何の為の修行か分からなくなる。何の為って…僕の力も使ってここが繁栄していく為なんだけど、離れている晴空の事が視えるかもって思うのは当然じゃないか。    ここで今一番力が強い美智さんも僕の家族の事は視えないって言ってた。血縁者の事は分からないものなのかな。おばぁ様は僕たち双子どちらかが力を持ってるって事を視た後はもう引退されて力を使ってないみたいだし…。まだよく分からないよ。  この力は何に使えば良いのか。何で僕はこんな力を持ってしまったのか。貴嶺さんは僕の心が不安定だから力も不安定だって言う。  離されたから不安なのは、不安定なのは当たり前じゃないか。  僕の半身を置いてきてしまったんだから。自分からここに来る事を選んだ癖に、こんな事を貴嶺さんにぶつけるようにもなった。吐き出せるようにもなったのに不安定なんだ。晴空は?僕がいなくても大丈夫?帰りたいよ…。

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