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第26話 ナニカと凪

 二人のナニカはふわふわ僕の周りを周りながら飛んで、ダンスをしてるみたいだった。たまにフフフと可愛らしい笑い声で笑う。顔にも近づいて来た。 (あっ!!僕、凪のお顔知ってる。凪のお母さんてさ、美智の双子のお姉さんでしょ) (どれどれ~。わぁ、ほんとだ、ふふふ) (目がそっくりだね~)  (そっくりだね~) 「僕のお母さんとも話した事あるの?」 (ううん。あの子は劣性で僕らの声聴こえなかったから) (僕らは何回も話しかけたんだよ。泉の近くの山であの二人何度も待ち合わせして話してたから) ((仲良しさんだったよね~)) (多分凪の今のお父さんだね) (二人とも同時期から来なくなったもんね) (二人とも元気?)  お父さんとお母さんがよく待ち合わせしてた場所が近く? 「お母さんもお父さんも元気だよ。僕が家を出た後も、元気でいてくれるといいな……」 (そうだね。凪は元気?) 「僕は…分かんない…」 (お父さんとお母さんいないと凪寂しい?) 「それもあるけど…僕の双子のお兄ちゃんの晴空がいないのが寂しい、かな」 人の形をしていないナニカには素直に言えた僕の気持ち。 (凪は晴空が好きなんだね) (どこが好きなの?)   興味津々に二人は訊いてくる。 「どこが…って、産まれた時から一緒だからどこがって言うのは難しいかな…。隣にいるのが自然だってし、理由があるから晴空が好きなわけじゃないし…」 (そっか) (そうか) (楽しいね) (凪と話すの楽しいね) (貴嶺も、凪のお父さんとお母さんが大好きだったんだよ) (それ、貴嶺言っていいって言ったの?) (あっ、言われてないかもー) (凪、聞かなかったことにして) (凪、内緒だよ)  ナニカたちと話しながら泉に入ってるのは楽しく、時間があっという間だった。本当なら、こんな友達がいたら楽しい学校生活がおくれたのかな…。  お昼に近い時間になってきたようなので、泉からあがり、ナニカたちに挨拶をする。 (泉の水は力を持った子達の適温になるけれど、しっかり髪は乾かして風邪ひかないでね) (風邪ひかないでまたすぐ会いにきてね) (修行も忘れないでね)  初めて友達が出来た感覚の僕は浮かれていた。ナニカたちがいれば少し楽しくここの生活を送れるかもしれないとも思えた。  体を拭き服を着て、出入口に入る前にナニカに向かって手を振った。  (…行っちゃったね) (凪のお父さんとお母さんを遠くから美智が見てたって言わなかったのわざと?) (別に言う事じゃないでしょ?) (それもそうだね) (凪は双子のお兄ちゃんに恋してるんだ) (ふふふっ、可愛らしい) (恋だか兄弟愛だか理解してないと思うけど) (子どもの想いって純粋だね) (ねっ。純粋で怖いよね)  (ねっ。しかも凪の能力ってさ…) (何か起こるかな) (起こったら楽しいな) (僕たちずっと退屈だもんね)  (楽しみだな~)  ナニカたちのお喋りは、扉を閉めて歩いていった凪には聴こえない。静かな森の中の泉の上空を光るナニカが二つ。楽しそうにくるくる回る光景。  力を持たないものには光は見えないただの自然。一族の歴史を見守ってきた者達がいるなんて想像もつかないただの自然。  時折風で木々がふわっと揺れるだけだった。

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