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予兆(3)
「せっかくフランを探し出しておいて、今度は何がしたいんだ」
そう言ってため息を吐いたきり、ステファンは難しい顔になった。
街の貼り紙にどんな意味があるのかフランにはわからなかった。ただ、何かよくないことが起こりそうで不安だった。
何も起こりませんようにと心の中で祈りながら、その晩はベッドに入った。
翌朝、目を覚ましたフランは、とんでもない粗相をしてしまったことに気づいて泣きたくなった。
「ステファン……」
すでに起きて、私室の居間で新聞を読んでいるステファンに声をかける。
新聞は街で売られているもので、気になる事件があると、レンナルトの言うところの「こっそり」「一瞬だけ」街に行って、ステファンが自分で手に入れてくる。
「フランか……。どうかしたのか」
顔を上げたステファンをフランはまっすぐ見ることができなかった。
「あの……」
「なんだ」
「あの、僕……」
真っ赤になってうつむき、シーツを汚してしまったことを告白した。もうすく成人するというのに、オネショをしてしまうなんて、恥ずかしくて死にそうだ。
昨夜、ステファンはフランのことが好きだろうか、とか、もしそうでなかったら、どうしたら好きになってもらえるだろうか、とか考えながら眠ったら、夢にステファンが出てきて、しかもなぜだかお風呂に入れてくれた時のように裸で、あんまりドキドキしてしまったら、お腹の下のほうがじわんと痺れて、気が付いたら下着とシーツに何か変わった匂いのするおしっこを漏らしていた。
「ごめんなさい……」
消えてしまいたいくらい恥ずかしくなって、小さい声で謝ると、ステファンが眉間に皺を寄せ、「もしかして、初めてなのか?」と聞いた。
小さい時のことは覚えていないけれど、大きくなってからオネショなんてしたのは初めてだ。
まだ湿っている下着と寝巻を隠すようにもぞもぞ触りながら、小さな声でそう告げた。ステファンはフランのそばに来て寝巻の裾を捲る。
「や……」
慌てて逃げようとすると、「チビだとは思ったが、ここまでとは」と、どこかが痛むような顔で呟いた。
「フラン、これは子どもがするオネショとは違うものだ」
精通と言って、男の子が大人になった印のようなものだと、ステファンは短い言葉で説明した。粗相ではないから何も恥じることはないし、自分を責めなくていいのだとも言ってくれた。
「どれだけ食わせてもらえなかったんだ……」
苦々しく呟いたステファンは、少し安心して顔を上げたフランをぎゅっと抱きしめた。心臓がきゅんと鳴って、身体中に幸せな気持ちが広がってゆく。
ステファンはしばらくフランを抱いていてくれた。
「ステファン……」
「レンナルトに言って、ご馳走を作ってもらおう」
フランが大人になったお祝いだと、ステファンは言った。
「お祝い……」
「大人の仲間入りだからな」
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