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アマンダ・レンホルム子爵令嬢(1)

 ふだん使っている居間やステファンの私室ではなく、ホールの隣にある応接室にアマンダは通された。  そこはフランが一度も入ったことのない部屋だ。最初に城を案内してもらった時もドアの外から覗いただけ。入室を禁じられていたわけではないのだが、、マットソンの家での習慣から、なんとなく入ってはいけない部屋のように思っていた。入るような機会もなかった。  ステファンが応接室に入っていくのをホールで見送った。部屋から出てきたレンナルトと一緒に居間に向かう。 「なんだか、内密の話があるらしい。お茶もいらないってさ」  レンナルトは軽くため息を吐いた。 「なんの話だろ……」  新しいオメガとして連れてこられたなら、彼女がステファンの「(つがい)」になるのかもしれない。ネルダールはアマンダのことを子爵令嬢だと言っていた。貴族のお嬢様ならステファンのお妃としてもきっと十分な身分なのに違いない。  フランの胸は小さく傷んだ。 「ここに、住むのかな……」  ぽつりと呟くと、レンナルトは「どうだろうね」と首を傾げた。 「少なくとも、僕は何も聞いてないけど」 「でも、新しいオメガだって……」 「ステファンには、そんなつもりはないと思うよ」  フランの時とは違う、とレンナルトは首を振る。 「フランが来た時は、部屋を準備するようにってステファン自身が僕に言ったんだ。お告げは本物だからってね。半分だけだけど」 (半分だけ……)  お告げが本物かどうかを、ステファンはどうやって知るのだろう。泉の部屋にある綺麗な石が時々、何かを教えてくれるのだと、以前レンナルトは言っていたけれど……。 (あの石って、どういう石なのかな?)  半分だけ本物というのは、どういう意味なのだろう。  たくさんのことを教えてもらったけれど、フランにはまだわからないことのほうが多い。聞きたいこともたくさんあるから、聞きそびれてしまうことも多い。  レンナルトはやることがあると言うので、フランは自分の部屋に向かった。ステファンの私室になっている書斎のような実験室のような広い部屋の奥の立派な寝室だ。  ふかふかのベッドと、小さいけれど立派な机と、布張りで背もたれもある椅子が一つ、そしてフランが宝物置き場にしている飾り棚が置いてある。  彫刻を施した立派な樫の飾り棚に並べてあるのは、シャベルとバケツと石板と石筆だ。それらを一つひとつ手に取って撫でてみる。  シャベルとブリキのバケツをもらってから、フランはずっと、それを肌身離さず持ち歩いていた。 『なぜ持ち歩くんだ』  半分呆れたように笑いながらステファンに聞かれ、『大事なものだから』と答えた。 『シャベルとバケツがか?』  フランは頷いた。真面目な顔で宝物だと言うと、ステファンはなぜか少し困ったような顔をした。そして、『これからもっと、宝物は増えるかもしれないぞ』と言って優しく笑ったのだ。  フランが使うものは、全部フランのものだと言い、それを全部持ち歩くのは無理だから、どこか場所を決めて置いておけと言った。ステファンの私室の、フランがいつも勉強を教わる机の上に置いたままだった石板と石筆を指さし『これもフランのものだぞ』と続けた。  最初の日に、ちゃんとフランにやると言ったはずだと。

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