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アマンダ・レンホルム子爵令嬢(2)
あの頃のフランは、言われていることが半分くらいしか理解できていなかった。やると言われても、自分のものになったとは思わなかったのだ。
ほかにもいろいろ聞いたことがあったのだろうけれど、よく覚えていない。
文字を読めるようになる前の記憶は曖昧だ。聞いたことを自分で書き留めることができるようになって、いろいろなことがはっきりとわかり始めた気がする。
自分のものをどこに置くかは自分で決めるようにと言われて、一番目に付くところに四つの宝物を置いた。
カーテン越しの日差しを浴びて、シャベルがきらりと光る。
窓の外を見ると、まだ明るかった。シャベルとバケツを持ってホールを横切り、正面入り口から外に出る。通りしなにチラリと応接室のドアを見たけれど、固く閉じたままだった。
中庭までとぼとぼと歩いていったフランは、ふと自分の服を見下ろした。白くてつるつるした生地の王子様のような服を、まだ着ていたことに気づく。
(どうしよう……)
土を掘り返しているうちに汚してしまいそうだ。それに、なんだか暑い。ボーデン王国の気候は比較的寒冷なほうだとステファンから教えられているが、それでも、夏の午後にベストと上着を身に着けているのはちょっと苦しい。
ステファンやレンナルトはよく平気だなぁと思いながら、やっぱり着替えたほうがよさそうだと踵を返した。
シャベルとバケツを持ったまま、再び正面入り口からホールに入ると、ちょうど応接室の扉が開いてステファンとアマンダが姿を現した。
「フラン、何をしているんだ」
「えっと、お庭を……」
「その恰好では暑いだろう。自分で着替えられるか?」
「うん」
そそくさとその場を立ち去ろうとすると、アマンダがくすりと笑った。
「過保護なのね」
ステファンは右手で口元を覆い、気まずそうに視線を泳がせた。アマンダはそれを可笑しそうに見上げている。
「カルネウスから聞いていた話と違って、ちょっとビックリしたけど……、でも、思っていたよりずっと楽しそう」
口元に笑みを浮かべながら、アマンダはフランに近づいてきた。フランの前まで来ると、右手を差しだし、さらににっこりと笑う。
「よろしくね、フラン」
「え……」
「本当に、可愛い子」
何を言われているのかわからずに、ぽかんとしてしまう。アマンダがくすくす笑った。
レンナルトがキッチンのある方角から顔をのぞかせた。
「ステファン、夕食なんだけど……」
アマンダとフランの姿を見て、足を止める。レンナルトを振り向いたステファンは、軽く一つ息を吐いてから言った。
「夕食は四人分で頼む。それと、アマンダに部屋を用意してやってくれ」
「え? 部屋?」
軽く頷き、「今日から、しばらくここにいてもらうことになった」と続ける。
「なんだって?」
思わず声をあげてから、レンナルトは慌てて口を手で覆った。
「しかし、ステファン……」
フランの隣でアマンダはにこにこ笑っている。
ステファンは「わけは後で話す」と素っ気なく言っただけで、自分の私室のある東の廊下に消えてしまった。
「どういうことだ?」
レンナルトに聞かれても、フランは首を振るばかりだ。
アマンダだけが、ひどくさっぱりとした顔でにこにこ笑っていた。
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