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レンナルト(1)

 居間を出て西側の廊下に消えてゆくレンナルトとアマンダの背中を見送ると、フランは言われた通り、ステファンの私室に向かった。レンナルトがなんだか不機嫌なことを不思議に思いながら……。 (アマンダさんは奥方様になる人だから、親しくしたらいけないってことかな……?)  若干モヤモヤした気持ちで、ステファンの私室に入った。ふだんからノックは必要ないと言われている。実験に集中していると、ステファンは返事を忘れることがあるからだ。  城に来たばかりの頃、いつまでも部屋の前で待っているフランを見て、レンナルトが呆れたことがあった。それ以来、そういう約束になっている。 「だいぶ絡まれてたな。なんだって、彼女は、あんなによくしゃべるんだ」  めずらしく魔法で試薬を調整しながらステファンが言った。実験の時、ステファンは魔法ではなく手を使うのに、今日は珍しい。 「フラン、もしあれこれ聞かれて嫌だと思ったら、はっきり言うんだぞ」 「何も嫌じゃなかったよ? そんなにいろいろ聞かれなかったし……」  少し考えてから「アマンダさんは、いい人だと思う」と、自分が感じたままのことを言った。ステファンも彼女のことを好きになるかなと思うと寂しい気持ちになるけれど、それとこれとは別のことだ。  ステファンはただ「そうか」と頷いた。 「彼女はフランのことが気に入ったらしいな」 「でも、レンナルトが、あんまり仲よくしちゃいけないみたいなこと、言ってた……」 「うん? レンナルトがか?」  ステファンがかすかに首を傾げて振り向く。  最後のやり取りは聞いていなかったようだ。レンナルトが「あまりフランに近づくな」とアマンダに言っていたのだとフランは説明した。 「近づくな……?」 「うん……」 「レンナルトは、何か誤解しているのかもしれないな。あるいは、単に警戒しているのか」  昔はいろいろあったからなと、ステファンは苦笑混じりに呟く。  出来上がった薬品を瓶に詰めて蓋をすると、フランのそばまで来てカウチに腰を下ろした。隣にフランを座らせながら「あいつは、一人で貧乏くじをひいたようなものだ」と言って、また困ったように笑った。 「レンナルトは、どうして一人だけでステファンのお世話をしているの?」  前々から抱いていた疑問だ。 「言ってなかったか?」  フランが首を振ると、「そうか」と頷いて、少し考えてからゆっくり話し始めた。

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