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レンナルト(2)

「レンナルトは、もともとは、俺の乳母だった人の息子だ」  つまり乳兄弟だと続ける。  乳母の名はヘーグマン伯爵夫人フレドリカ。この世に生を受けるのと同時に母親を亡くしたステファンは、レンナルトの母であるフレドリカに育てられたのだと言う。 「だから、レンナルトとは、正真正銘、生まれた時からの腐れ縁というわけだ」  十歳で父王を亡くし、神官たちの手で王宮から出された時、ステファンに従う家臣はほとんどいなかった。それでも、さすがに格好がつかないと思ったのか、見張りを兼ねた護衛兵が数名と家事使用人が数名、国から選ばれてついてきた。  フレデリカとその息子であるレンナルト、レンナルトの妹のエミリアは、数少ない志願者として一緒に来たのだと振り返る。 「あの頃は、今と比べるとだいぶ賑やかだった。十五人近い人間がこの城に住んでいたからな」 「マットソンさんのお屋敷でも、だいたいそのくらいの人たちが住んでたよ」  マットソンとその奥方と子どもたちの家族四人、お店を手伝う人が三、四人、台所を預かる親方、ベッテたちのような家の中のことをするメイドが三、四人、御者兼馬番が一人、使用人頭のヤーコプとお店の番頭という少し偉い使用人、そして下働きのフランとお店の小僧をしている子どもが一人、辞める人や新しく来る人もいて、時々人数が変わるけれど、だいたい十五人くらいの人が住んでいた。今のフランには、それを数えることができる。  指を折りながら、少し得意になって数を数えていると、ステファンが頭を撫でてくれた。嬉しくなってフランは続ける。 「もっと大きいお屋敷には、もっとたくさんの人が働いているってベッテが言ってた。人手がいっぱいあると、仕事も少し楽なんじゃないかなって……。もっとって、何人くらいかわからないけど」 「上級貴族の屋敷には百から二百、王宮では千人を超える人間が働いているな」  ステファンの答えを聞いて、フランは目を丸くする。そんなに大勢では、指がいくつあっても足りない。  フランは本が読めるようになったし、ステファンに教えてもらって知識も増えてきた。けれど、まだ大きな数を扱う難しい計算はできない。指で数えられる足し算と引き算がわかるようになったばかりだ。  ステファンが次は算術を頑張ってみるかと言うので、大きく頷いた。大きなものの数を数えられるようになったら、もっといろいろなことを理解できるようになるかもしれない。  複雑な代金の計算ができれば、たくさんのおつかいを頼まれても安心だ。  まえに一度、一人で馬車に乗って近くの村までミルクを買いに行った時のことを思い出す。何度も指でお金の計算をして確かめても、すごくドキドキしてしまった。帰ってきて、ちゃんと合っているとレンナルトに言われた時はほっとしたし嬉しかった。  フランがそんな話をする間、ステファンは面白そうに聞いていた。けれど、ちょっとわき道に逸れすぎてしまった。ちょうどレンナルトの名前が出たので、フランは口を閉じた。

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