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薬(1)
同じ金色の髪でもフランの髪は銀色に近くアマンダの髪は赤みが強い。家具や調度品、食器の縁を飾る「黄金」に近いのはアマンダの髪の色だ。ふわふわして、ほとんど白金のようなフランの髪は「金色」とは言わない気がする。
やはりフランは「金色の髪のオメガ」ではないのだろう……。
レムナの街に出かける準備をしながら、フランはそんなことをぼんやり考えていた。
街の人たちとよく似た簡素なベストとズボンを着込んだレンナルトに、貴族の令嬢そのものの立派なドレスをまとったアマンダが「変装が必要なの?」と聞いた。
「王都以上に、レムナの人間は迷信深いからな」
レンナルトの答えに「ああ、濃い髪色の貴族が嫌われるのね」とアマンダは笑う。
「闇の魔王、ラーゲルレーヴ公爵が治める郡の郡都ですものね。わかるわ」
「あんた、遠慮ってものを知らないのか」
人が触れたがらない話題にもサクッと踏み込んでくるアマンダに、レンナルトが呆れたようにため息を吐く。
「ほんとに、何者なんだよ……」
ステファンから「アマンダは味方だ」と説明されても、レンナルトは「イマイチ信用できない」と言って警戒を解こうとしなかった。言葉遣いだけは、客人へのものではなくなっているけれど……。
朝食の後で、フランが花を買いに行きたがっていることを知ったアマンダは、自分が一緒に行くと言い出した。馬車を操るのは得意だから、フランと二人で行ってくると。
それを聞いたレンナルトは、アマンダにフランを任せるわけにはいかないと言って、仕事をそっちのけで自分が行くと言い出した。アマンダは城に残れと言うレンナルトに、だったら三人で行こうとアマンダは嬉々として提案した。
『ね、そうしましょう。フランもそうしたいでしょ?』
フランはつい大きく頷いていた。アマンダとステファンを二人きりで城に残すのが、なんとなく嫌だったからだ。そんなことで態度を決めた自分が少しうしろめたい。
三人で中庭に出ると、華やかな飾りのついた帽子の下で、軽く結い上げられたアマンダの髪がきらきらと輝いた。
フランが見ているのに気づくと、「侍女がいなくても自分で結えるスタイルを考案したのよ」とアマンダが得意そうに言った。
「うまくできてるでしょ?」
にこにこ笑うアマンダに、フランも笑顔を作って頷く。
アマンダは、明るくて優しい。とてもいい人だ。短い間にもそれがわかった。こんな人となら、ステファンもきっと幸せになれるだろう。
そんなことを考えはじめると、また胸が痛くなってくる。
「フラン、どうかしたのか」
見送りに出てきたステファンがフランの顔を覗き込んだ。
フランは慌てて首を振った。沈んだ顔をしていればステファンが気を遣ってくれることを、今のフランは知っている。だから元気でいなくては。
あまりものを知らなかった時と違い、最近はフランもいろいろ考えるようになった。たくさん手間をかけて、迷惑もかけてきたけれど、いつまでも甘えていてはいけないと思うようになったのだ。
笑顔でいることなら、フランにもできる。だからできるだけ笑っていようと思っている。
自分の頭で考えて、自分の心に照らしてそう決めた。それはフランにとって、初めて抱いた小さな矜持でもある。
今日は綺麗な服を着ているから少し緊張しているのだと言って微笑んでみせる。
アマンダをエスコートするために、新しい服の中から青色の上下を着るように言われて身に着けていた。これは中綿が入っていない夏用の服で、上着を着ていてもあまり暑くはなかった。
「もし暑ければ、上着を脱ぐんだぞ」
上着の襟を整えながら、ステファンが心配そうに言った。アマンダが横で「過保護ね」と肩をすくめる。それを無視して「無理をするなよ」と念を押す。
「大丈夫。暑くないよ」
笑顔を作って頷くと、軽く頭を撫でられた。
レンナルトが御者台に座り、フランはアマンダと並んでキャビンの座席に乗り込んだ。中庭で見送るステファンを残して、馬車はゆっくりと走り出した。
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