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神官たち(3)

 眉を寄せたアマンダに、レンナルトは軽く息を吐いて話し始めた。 「子どもの頃から、ステファンの魔力は桁外れだった。感情が抑えられなくなると王宮のあちこちを破壊したりして……」 「破壊……?」  大袈裟な表現ではなく、文字通り、石でできた宮殿の柱や床を木っ端みじんに砕いてしまうのだという。 「激しいわね……」  そこまで強力な物理魔法は知らないと言って、今度はアマンダが首を振る。 「そのうちに、あまりにも魔力が強いから、周りの人間がみんなステファンを怖がるようになった」  その頃から、ステファンは徐々に感情を抑えるようになっていったという。 「あのちょっとわかりにくい物静かさは、殻をかぶった仮の姿なんだよ」  昔のステファンは、もっと気ままで感情豊かな、生き生きした子どもだった。頭がよく、好奇心も強く、一緒にいると面白いことばかりだったと、懐かしそうに目を細める。 「それに、少し前までは、まだ好き勝手をして羽目を外すようなこともあった。ここ数年だよ、すっかり思慮深い男になってしまったのは……」  レンナルトと二人になり、しょっちゅう送り込まれていた襲撃者の数も減ると、目立たないように変装してレムナの街に出掛けるようになった。十代後半から二十代の初め頃までの自分たちは、お世辞にも行儀がよかったとは言えないと少し困ったように笑う。 「詳細は割愛するけど、あまり褒められたものではない日々を、数年過ごしたな」 「薬のレシピを闇医者に流したりしながら?」 「ああ……。表通りに出てこない人たちがいることを、知ったりもした。知ったところでどうしようもなかったけどね」  国から打ち捨てられた身だからと、レンナルトは肩をすくめた。 「王宮に戻ろうとは思わなかったの? ていうか、戻る気はないの?」  子どもの時ならまだしも、今のステファンとレンナルトには十分な判断力も行動力もある。王との対立を避けたいなら、王弟として王の補佐役に就くこともできるのではないかとアマンダは言う。  レンナルトは目を眇め「ステファンにも、同じことを聞いただろ?」とアマンダを見る。  アマンダは少し口ごもり、「聞いたわ」と正直に答えた。 「今は、無理だって言われたわ」 「だったら、今は無理なんだ。今、あいつが戻っても、争いを産むだけなんだよ」  アマンダは頷いた。  ステファン・ラーゲルレーブは「闇の魔王」だ。第十五代ラーゲルレーヴ公爵であり、先代同様に王を弑する恐れがある。王の前に立つことさえ許されない危険な人物……。ステファン自身が苦笑混じりにそう言って『だから、今は無理だ』と言ったらしい。 「何度も言うようだけど、あいつはそう簡単には動けないんだよ」 「でも、もうあまり時間が……」  二人のやり取りを聞いていたフランは、だんだんと胸が苦しくなってきた。思わず「誰が……」と呟く。  ずっと黙っていたフランが口を開くと、緑色の瞳と青い瞳がさっと向けられた。 「誰が、そんなことを言うの?」 「誰って……」  少し考えた後、答えたのはアマンダだった。 「神官たちね……」

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