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神官たち(4)
「神官たち……」
「この国では神官の言葉は絶対なのよ。……少なくとも王宮の中ではね」
ほとんどの場合、王宮の外でも同様だとレンナルトが付け加える。
ボーデン王国で神官と言えば、「導きの石」の声を聞く者たちのことだ。神官長と二人の神官。その三人だけが宮殿の奥に設けられた「石の間」に入ることを許されている。
石の間には七色に輝く王家の秘宝が祀られていて、預言やお告げを神官たちに伝える。神官たちが聞いた言葉は「神託」として王に奏上されるのである。
その言葉が絶対なのだという。王であっても従わなくてはならない。
ただし、神託は滅多に下らない。よくて数年に一度。長い時には何十年も石は沈黙し続ける。かと思うと、重要な予言を立て続けに下すこともあるらしい。
そして、それらの石の言葉は全て記録され、検証されてきた。建国から数百年、預言が外れたことは一度もないという。
「だから、絶対なの」
お告げがあってもなくても、神官たちは毎日石の間を訪れ王に報告をする。その際、王が神官に意見を求めることも多い。いつからか、神官は大きな発言力を持つようになった。
王の側近として権力を握り、場合によっては宰相や大臣たちよりもその意見が尊重されることもある。カルネウスがよく嘆いていたと言って、アマンダは眉をひそめた。
その神官たちが――正確には十八年前の神官たちが、ステファンは危険だと言った。強すぎる魔力が王に向けられることになるのではないかと。第十四代ラーゲルレーヴ公爵のように、力で王位を簒奪し、国に暗黒の時代をもたらすのではないかと。
「どうして……」
たった十歳の子どもに対して、どうしてそんな疑いを持ったのだろう。その理由がフランにはわからない。
「ステファンは、最初から目の敵にされてた」
レンナルトが呟いた。
少なくとも、神官たちは現王クリストフェルの味方だった。真面目で温和な第一王子は誰からも好かれていた。幼い頃の印象が強すぎたせいか、ステファンはあまり大人たちからの覚えがよくなかったのだと唸る。
「だからって……」
「うん。一生背負わなきゃならないような烙印を押して、王宮を追い出すのは酷い……」
「石の声を聞くことができるのは神官たちだけだから、あの人たちが『聞いた』って言えば、全部神託になってしまうわけでしょ」
「神託があったわけじゃない。神官たちは『危惧した』だけだ」
そもそも「導きの石」は神器だから、嘘を騙れば天罰が下ると考えられている。神官たちも、そうそうインチキはできないだろうとレンナルトは言った。
「神託じゃなかったのに、王様は……、国王陛下は、神官たちの言うことを聞いたの? ステファンのお兄さんなのに、どうして……」
レンナルトとアマンダが黙り込む。
「あの噂……」
先にアマンダが口を開くと、レンナルトが首を振った。
「こんな道端で話すようなことじゃない」
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