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オメガについて(4)

「オメガだからというだけで、ずいぶん辛い思いをしてきたな」  穏やかな声で囁かれて、小さく頷く。マットソンの屋敷にいた頃は、叱れるたびに、「だから、オメガは」と、蔑む言葉を浴びせられた。 「数が少なく、|多くの人間《ベータ》と異なる身体周期を持つオメガは、長い間、不当な差別を受けてきた。それが一向に正されないことと、今、話してきたこととはつながっている」  高いところで甘い汁を吸う者と売人との癒着は、オメガへの差別と無関係ではないのだとステファンは言う。 「貴族の下に平民がいる。平民の中にも雇う者と雇われるものがいる。豊かな者と貧しい者がいて、豊かな者は貧しい者を虐げる……。人と人の間には階層があり、それぞれの階層のさらに下に、オメガがいる」  フランは頷いた。 「運よくどこにも売られなかったとしても、オメガは一生、社会の最下層に留め置かれる。その格差が正されることはない」  豊かな者にとっては、階層は固定されているほうが都合がいいからだ。貧しい者が貧しいままでいたほうが、搾取する側は豊かでいられる。そして、最も貧しい者が自分の貧しさに目を向けないようにするために、さらに貧しく不幸な者を存在させる必要があったのだと続ける。  少し難しく感じてわずかに首を傾げると、マットソンの屋敷での食事を思い出してみろと言われた。 「みんな同じ、貧しい食事だったと言っていたな。働く者たちに不満がなかったはずはない。それでも、もっと貧しく、その食事さえろくに与えれないフランを見て、自分はまだましだと、周りの者は考えていたのではないか」  フランがいることで、行き場のない|鬱憤《うっぷん》を晴らしていたのではないか。理由がなくても殴っていい相手がいる、そう思うことで、知らぬ間に搾取され続ける不満の捌け口にしていたのではないか。 「物のように売られていても罰されないのを見ていれば、オメガは自分たちとは違う、どう扱っても許される存在なのだと考える。そうやって、オメガをさらに貶めてきたんだ」  同じ目線の高さで、フランの目をまっすぐ見据えながら、ステファンは話し続けた。 「高い場所で甘い汁を吸う者たちは、その差別感情を利用してきた。甘い汁を吸いながら、不満の矛先が自分たちに向かないようにしむけてきたんだ。オメガの売買を見逃すことは、やつらにとっては、一石二鳥の、この上なく都合のいいやり方なんだ」 「汚いな……」  レンナルトが低く吐き出す。 「汚すぎるだろう……。いったい、どこのどいつなんだよ」  ステファンはしばらく考えていたが、一度目を伏せ、心を決めたようにその人物の名を口にした。

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